テレワーク下に潜む法務・コンプライアンスの落とし穴とは?
コロナ禍によりテレワークが急速に普及するなかで、見えてきた課題とアフターコロナを見据えたテレワークの在り方について解説します。
コロナ禍によりテレワークが急速に普及するなかで、見えてきた課題とアフターコロナを見据えたテレワークの在り方について解説します。
デジタル化を含めたニューノーマル(新常態)時代における法務・コンプライアンスについて考察する「新常態時代の企業法務」シリーズ第1回です。本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
半年以上にわたる新型コロナウイルス感染症により多くの日本企業がテレワークを余儀なくされた。これまでと異なる環境下で業務を進めるなかで、さまざまな問題に直面したが、忘れてはならないのが、法務・コンプライアンス(法令順守)の課題である。生産性や帰属意識の低下など目につきやすい問題と違い、積極的に意識していなければ気がつきにくく、かつ、気づいたときには大きな損失につながりかねないからだ。
テレワーク下における法務・コンプライアンスの落とし穴の代表は、ハンコに象徴される日本企業の書類(紙)ベースの業務であるが、それだけではない。直接のコミュニケーションがやりにくくなるなかで、事業部門から依頼された契約の審査や助言をどのように適切に進めていくか。また、目の届かない在宅での社員の法令違反をどうやって発見し、正していくか。さらに、コンプライアンス研修をオンラインで効果的にするにはどうしたらよいか…。
法務・コンプライアンスは今や会社のあらゆる事業・業務と関係しており、テレワークにおける具体的な課題を挙げていくと、きりが無いほどである。さらにテレワークの普及に伴い、取引方法や働き方が大きく変化すると、これまでになかった新たな法務上のリスクが生じる恐れもある。
テレワークの導入はコロナ禍の前から多くの企業で検討されており、2019年9月末の総務省通信利用動向調査では、「テレワークを導入済み」または「具体的な導入予定がある」と回答した企業は全体の約3割に上っている。生産性の向上やワークライフバランスの改善などを目的として、業種を問わず拡大傾向にあった。
そこに今回の新型コロナ禍である。これが収束しても、新たな感染症が拡大する恐れがゼロでないことを考えると、テレワークは一時的なものでは終わらない可能性が高い。従業員の安全確保や事業継続といった観点から社会的要請になりつつあるといえる。
一方、法務・コンプライアンスの領域では、規制対応をデジタル化する「レグテック」、IT(情報技術)で法務を効率化する「リーガルテック」など、最新テクノロジーの活用も急速に進んでいる。こうしたデジタル化を含めたニューノーマル(新常態)時代に法務・コンプライアンスはどのように対応していけばよいか。この連載で詳しく解説していく。
テレワーク下の法務・コンプライアンス領域の課題例
法務・コンプライアンス領域 | 課題例 |
---|---|
契約審査の品質確保 | 経緯・背景情報、ノウハウや意見の適切な伝達 |
法令違反検知の難化 | メールやチャット、ファイル操作ログの監視 |
コンプライアンス研修 | オンラインでの効果的な研修 |
文書電子化対応 | e-文書法・電子帳簿保存法などへの対応 |
脱ハンコ対応 | 契約書の締結手段の確保 |
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 酒井 太郎
日経産業新聞 2020年9月15日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。