新型コロナウイルス感染症影響下における海外子会社の現状と課題 第2回

新型コロナウイルスの影響が継続すると想定した場合の海外子会社の対応を考察し、現地における各種規制解除後の取組みについて解説します。

新型コロナウイルスの影響が継続すると想定した場合の海外子会社の対応を考察し、現地における各種規制解除後の取組みについて解説します。

はじめに

2020年6月現在、新型コロナウイルスの感染拡大はまだおさまらず、各国に多大な影響を及ぼしています。日本では、緊急事態宣言が解除されましたが、国外に目を向けるとその状況は様々です。海外に子会社を有する日本企業は、日本国内おいては引き続き新型コロナウイルスへの警戒を継続しつつ、現地子会社の所在国の状況に応じた対策を行わなければなりません。
前回は、新型コロナウイルスの影響下において、執筆時点における現地子会社が直面する現状と課題について紹介しました。今回は、前回の課題を踏まえつつ、新型コロナウイルスの影響が継続すると想定した場合における暫定的な対応を考察するとともに、現地政府の各種規制解除後の取組みについて解説します。

現地日本企業が直面する課題(再掲)

新型コロナウイルスの影響下においては、日本人駐在員の帰国やリモートワークの制限など、制約された条件下において海外子会社を統制しなければなりません。このような条件下における海外子会社の課題については前回紹介しました。ご参考までに、以下に再掲しますので、ご覧ください。

<ご参考>現地日本企業が直面する課題(再掲)

海外子会社が直面する課題への対応の検討

新型コロナウイルスの影響が継続する場合の暫定的な対応

日本人駐在員の一時帰国やリモートワークなどの制約条件下であっても、工夫次第である程度の対応は可能です。各国・各社の状況に応じて異なりますが、制約条件下における暫定的な対応として、以下のような方法が考えられます。

暫定ルールの設定・伝達

  • 現地従業員の業務分掌等の明確化
    現地従業員の業務分掌・業務手順が明確にされていない場合は、現地従業員による業務の放置・暴走等が懸念されます。

<主な暫定ルール>
・継続が必要な業務・継続不要の業務の明示・伝達(法定資格者の不在など、業務継続が重大なリスクにつながることが想定される場合は、継続禁止の旨を明確に伝える)
・現地従業員の業務分掌(制約されたリソースを前提に検討)
・現地従業員の業務手順、業務スケジュール
・報告事項(判断・意思決定に必要な情報等)
・事前承認事項

  • 情報管理
    自宅勤務を前提とした情報管理ルールが存在しない場合、リモートワークに伴い、情報の持ち出し等による機密情報漏洩・紛失等が懸念されます。

<主な暫定ルール>
・業務に必要な情報の定義
・職場以外への持ち出しや複写を禁止する情報の定義
・個人PCの使用の可否
・個人PCの使用を許可する場合、取扱いを認める情報の定義

  • 労務管理
    現地従業員が在宅勤務を行う場合、業務実施状況を把握できず、進捗管理や勤怠管理が困難となるおそれがあります。

<主な暫定ルール>
・業務開始時間と業務終了時間の報告
・業務実施内容・実施結果の報告
・当面の業務計画

リモートでのチェック・モニタリングの体制の整備
これまで、対面や口頭でチェック・モニタリングを行っていた場合は、リモートによるチェック・モニタリング体制に移行させます。

  • チェック・モニタリング対象となる業務の定義
  • チェック・モニタリングに必要な情報の定義
  • チェック・モニタリングの実施タイミング
  • 事前チェックを行っていた業務のうち、適時の実施が困難な場合は、事後のモニタリングへ移行(例:支払承認における請求書の原本確認)

牽制の実施

  • 不正リスクが懸念される場合は、事後検証の実施を事前に現地従業員に伝え、不正行為はいずれ発覚することを意識づけます。
  • 内部通報窓口を定期的に周知します。

外部リソースの活用

  • 信頼に足る現地従業員が存在しない場合や、現地にて適時のチェック・モニタリングが必要な場合は、現地業者への委託を検討します。

 

現地政府による規制解除後の対応

現地政府の出社制限等の施策が解除された際には、通常オペレーションへの復旧はもちろん、制約条件下において得られた教訓を元に、従来と同レベルの管理体制の復元を目指すのではなく、新型コロナウイルス発生前の平常時より抱えていた課題(標準業務手続の未整備、曖昧な業務分掌、各種管理ルールの不明確さ、駐在員への業務依存など)を解決する機会ととらえ、海外子会社管理の基礎固めを行うことが重要となります。

事後検証と海外子会社管理の基礎固めに必要な対策の検討

  • 制約条件下において懸念されたリスクについて実態を把握します。
    • 行政からの指導・指摘
    • 顧客・取引先からのクレーム
    • 現地従業員の業務の実施状況
    • 各種資産・情報の保全状況
    • システム・ネットワークの障害 など
  • 顕在化したリスクがある場合は、原因分析を行うとともに、再発防止策を策定し、併せて、平常時から抱えていた海外子会社管理上の課題に対する改善策も検討します。
    • 現地従業員の業務分掌・業務手順等の標準化
    • 現地従業員の教育(標準業務の定着、知識・スキルの拡充)
    • 情報管理ルールの見直し
    • 各種資産の管理方法の見直し
    • 現地従業員へのコンプライアンス理解促進
    • 内部通報制度の見直し など

新型コロナウイルス再来(第2、第3の波)に備えた体制の整備
新型コロナウイルスの影響の断続的な発生により、駐在員の不在・在宅勤務等の制約が再発する可能性を見越して、混乱なく制約下でのオペレーション体制へ移行できる仕組みを整備します。現地従業員の業務分掌・業務手順等、平常時のオペレーション体制が確立されていることが前提ですが、その上で、制約下においても継続可能な業務の幅を広げる対策を講じ、変化への対応力を高めることが重要です。

  • 業務継続の判断や復旧に向け、継続的に収集すべき情報および情報収集方法の明確化
  • 駐在員不在時における現地子会社の管理計画
    • 代替管理者(駐在員の代行者)に任せる業務の整理代
    • 代替管理者(駐在員の代行者)の配置(人的要件の定義、選任・教育)
    • 駐在員不在時における駐在員と代替管理者の役割分担(業務手順、確認事項、事前承認事項、報告事項など)
    • 代替管理者の実施業務の事後的なモニタリング
    • 緊急時に外部委託する業務と委託先の選定(内部に専門性を有する人材がいない、信用に足る人材がいない等の場合)
  • 在宅勤務を前提とした業務実施体制
    • 就業ルールの見直し(出退勤の管理、業務報告ルールなど)
    • リモート環境のインフラ整備(必要な機器・ソフトウェアの導入、業務の実効性・セキュリティの確保など)
    • 現地帳票類の電子化、複製・偽造防止の仕組み など

平常時からリモート可能なオペレーション体制への移行
タスク管理ツールやヘルプデスクツールをオペレーションのプロセスに組み込むことにより、「平常時からリモート可能なオペレーション体制を構築する」ことが可能になります。タスク管理ツール等の導入は、今後、断続的な発生が想定される制約下へのオペレーション体制移行に伴う管理レベルの低下を防止するほか、従来、属人的に行われていた担当レベルの業務をツールが適時・的確に管理するため、平常時においてもオペレーションレベルの底上などの効果が見込めます。

  • 業務の抜け漏れの防止
    • 各担当の個々の業務内容や期日等を「タスク」として登録し、実施時期が到来した段階で自動的に担当者にアラートを出すほか、承認が必要な場合は自動で上長に報告が上がります。
  • 業務の均質化
    • 「タスク」には業務手順を掲載できるほか、リストによるセルフチェックを行わなければ業務を完了できない仕組みのため、経験が浅くとも業務品質の確保が可能です。
  • 業務手順変更への柔軟な対応
    • 業務手順に変更があった際も、変更後の手順やチェックリストを「タスク」に適時に反映できるため、業務手順変更後、即時の運用が可能です。
  • 業務進捗の可視化
    • 「タスク」の進捗状況(未実施、実施中、完了)が一目で把握できます。担当者はもちろん上長も確認できるため、業務に遅れがあれば、早期の検知・リカバリーが可能です。
  • ツール上でのチェック・承認
    • 上長は、担当者が実施した業務について「タスク」を確認することで、ツール上でのチェック・承認が可能となります。
  • 専門性の高い事態への対応
    • 現地子会社では対応が困難な法務・税務などの専門性の高い事態に備え、予め問合せ先や手順等をシステムに組み込みます。これにより、本社の専門部署への適時・的確な問合せが可能となり、事態が深刻化する前に対応できます。

おわりに

新型コロナウイルスの影響から、各国政府は出社・移動制限、入国制限等の施策を採らざるを得ない状況となり、各企業においてはこのような環境における業務継続が課題となりました。新型コロナウイルスのピークが過ぎた後も、感染拡大の波が断続的に発生する可能性が想定され、それに応じて、各企業は制約条件下でのオペレーションを繰り返すことになります。
リモートワークに必要な機器やソフトウェアの導入も必要ではありますが、標準業務手続きの未整備、曖昧な業務分掌、各種管理ルールの不明確さ、駐在員への業務依存などは会社の基礎(土台)に関わるものであり、これらを放置したままでは根本的な解決とはなりません。まずは、海外子会社管理の基礎固めをした上で、新型コロナウイルス再来に備えた対応と、制約下における継続可能業務の拡大が肝要です。加えて、在宅勤務など、職場が分散化する業務環境下においても、確実なオペレーション・モニタリングを遂行するために、タスク管理ツール等の導入も検討項目に入れるべきと言えます。

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