IASB、最終基準「有形固定資産:意図した使用の前の収入(IAS第16号の改訂)」を公表
ポイント解説速報 - IASBが、2020年5月14日に公表した「有形固定資産:意図した使用の前の収入」の概要を解説します。
IASBが、2020年5月14日に公表した「有形固定資産:意図した使用の前の収入(IAS第16号の改訂)」の概要を解説します。
ポイント
- 資産が正常に機能するかどうかの試運転コストを有形固定資産の取得原価に含める際に、資産を意図した方法で稼働可能な状態にする間に生産した物品(試運転時に製造した見本品等)の販売による収入を、当該有形固定資産の取得原価から控除することを禁止する。
- 有形固定資産を意図した方法で稼働可能な状態にする間に生産した物品の販売による収入は、関連する適切な基準書に従って純損益に認識する。物品生産に係るコストに関しては、IAS第2号「棚卸資産」の測定基準を適用する。
- 有形固定資産を意図した方法で稼働可能な状態にする間に生産した物品の販売による収入、及び物品生産に係るコストに関して金額を開示し、それが包括利益計算書のどの項目に含まれているかを明らかにする。
I. 背景
IAS第16号第17項は、資産を経営者が意図した方法で稼働可能にするために必要な場所及び状態へ置くことに直接起因するコストを例示している。当該コストは、有形固定資産の取得原価を構成する。その例の1つとして、資産が正常に機能するかどうかの試運転コストが挙げられているが、この試運転時に生産した物品に関する収入に関して、企業間で会計処理にばらつきが生じていた。
そこで、IASBは、試運転時に生産した物品に関する収入を、有形固定資産の取得原価から控除することを禁止する改訂を行った。
II. 改訂の内容
取得原価の構成要素
資産が正常に機能するかどうかの試運転コストを有形固定資産の取得原価に含める際に、資産を意図した方法で稼働可能な状態にする間に生産した物品(試運転時に製造した見本品等)の販売による収入を、当該有形固定資産の取得原価から控除することが禁止された。
その代わりに企業は、資産を意図した方法で稼働可能な状態にする間に生産した物品の販売による収入は、関連する適切な基準書に従って純損益に認識する。物品生産に係るコストに関しては、IAS第2号「棚卸資産」の測定基準を適用する。
また、資産が正常に機能するかどうかの試運転とは、技術的及び物理的性能を評価することが追加された。
開示要求事項
資産を意図した方法で稼働可能な状態にする間に生産した物品の販売による収入、及び物品生産に係るコストに関して、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」及びIAS第2号「棚卸資産」の開示要求事項がそれぞれ適用される。また、包括利益計算書上、これらの物品販売による収入及び生産に係るコストが区分表示されていなければ、当該物品販売による収入及び生産に係るコストに関して金額を開示し、それが包括利益計算書のどの項目に含まれているかを明らかにする。
本改訂による影響
企業は本改訂によって、以下のコストに関して、区分することが求められる。
- 資産を意図した方法で稼働可能な状態にするために発生した費用(有形固定資産の取得原価に含まれる項目)
- 資産を意図した方法で稼働可能な状態にする間に、生産に関して発生した費用(純損益に認識される項目)
こうしたコストの配分は見積り及び判断を伴う可能性があり、企業によっては、より細かいレベルでコストを管理することが求められる可能性がある。
移行措置及び適用日
本改訂は2022年1月1日以後に開始する事業年度から適用される。表示する最も早い年度の期首以降に、経営者が意図した方法で稼働可能にするために必要な場所及び状態に置かれた有形固定資産に限り、遡及的に適用する。また、企業は本改訂の適用初年度の累積的影響額を、表示する最も早い年度の期首の利益剰余金(適切な場合、他の資本項目)の調整とする。
早期適用は認められる。企業が本改訂を早期適用する場合には、その旨を開示しなければならない。
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執筆者
有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
シニアマネジャー 松尾 洋孝