IFRS適用企業に対するCOVID-19の影響 - 顧客との契約は依然として強制可能か?
IFRS適用企業における、COVID-19が顧客との契約における強制可能性に及ぼす影響の解説記事です。
IFRS適用企業における、COVID-19が顧客との契約における強制可能性に及ぼす影響の解説記事です。
ハイライト
論点は何か?
COVID-19コロナウイルスの感染拡大による影響は、企業や顧客が、結んだ契約の文言に従う能力があるか、疑問を呼ぶことになるかもしれません。これは収益の認識時点や認識金額、もしくはそもそも収益を認識するかどうかにも影響を及ぼすかもしれません。
例えば、企業は以下の事項を考慮する必要がある可能性があります。
- 顧客が現在、契約上の義務を履行するのに苦戦しているかもしれません。これは企業が既存の契約の収益認識を中止し、新しい契約からの収益認識を行わないべきであることを意味しているのでしょうか?
- 現在までに行った履行に対する支払について、支払いを強制することができないかもしれません。例えば、不可抗力または類似の条項が発動された場合が考えられます。これらの状況は一定の期間にわたって収益を認識するかどうかに影響するでしょうか?
- 企業や顧客は、COVID-19の感染拡大のビジネスへの影響に対応するべく、既存の契約の条件変更を求めるかもしれません。企業はこれらの契約変更をどのように会計処理すべきでしょうか?
権利及び義務が強制力のあるものかどうか決定することは、重要な判断と定期的な再評価が必要となる可能性があります。状況の変化に伴い、企業は契約条件が強制可能かどうか、注視する必要があります。
顧客との契約における権利及び義務に引き続き強制力があるかどうかの不確実性は、収益を認識する時期と金額に影響を及ぼす可能性があります。
詳細説明
契約の存在
IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」によると、企業は、契約が法のもとに強制可能な権利と義務を生み出す場合にのみ、顧客との契約を会計処理します。つまり、5つのステップの収益認識モデルのうち、契約の存在を確認するステップ1の要件を満たす場合にのみ、企業は収益を認識します。
新規の契約を結ぶ場合、企業はステップ1の規準を満たすか慎重に検討する必要があります。例えば、
- 当事者双方が、それぞれの義務を果たすことを約束しているか?
- 対価を回収する可能性が高いか?
- 当事者のどちらかが、他の当事者に補償することなしに、完全に未履行の契約を解約することが可能か?[IFRS 15.9–12, Insights into IFRS第16版 4.2.30]
顧客との新しい契約が、顧客との契約の存在の要件を全て満たさない場合は、企業は収益を認識しません。
加えて、企業は既存の契約が顧客との契約の存在の要件を引き続き満たすかどうか、再評価する必要があるかもしれません。例えば、事実及び状況に重要な変化があった場合が挙げられます。もし顧客との間で存在している契約が既にこの要件を満たさない場合は、企業は当該契約からの収益認識を中止します。[IFRS 15.13]
一定の期間にわたる収益認識
IFRS第15号35項(c)に従い、一部の企業は、一定の期間にわたって収益を認識しています。すなわち、企業の履行が他に転用できる資産を創出せず、かつ、企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している場合です。
これは不動産業、建設業、エンジニアリング業、航空宇宙・防衛業などに共通して見られます。しかしながら、これは企業が支払を受ける強制可能な権利を有している場合にのみ、IFRS第15号35項(c)に従い適用可能であり、このアプローチは選択ではありません。
企業は現在の状況において、支払を受ける権利が引き続き強制可能であるかどうか慎重に検討すべきです。例えば、もし裁判所が支払を受ける権利を停止する、不可抗力または類似の条項が発動される場合、これらの権利はもはや引き続き強制可能なものではないかもしれません。またこの評価には重要な判断が伴うかもしれません。[IFRS 15.35–37, Insights into IFRS第16版 4.2.220]
もし一定の期間にわたる収益認識に関するこの要件をもはや満たしておらず、またその他のIFRS第15号35項における一定の期間にわたる収益認識の規準を満たさない場合、企業は収益を一時点で認識します。例えば、2年をかけて集合住宅を建設する建設企業は、もはやその集合住宅の建設が完了した時点よりも早く収益を認識することはなくなります。[IFRS 15.32]
契約変更
企業や顧客は、COVID-19の感染拡大のビジネスへの影響に対応するべく、既存の契約の条件変更を求めるかもしれません。IFRS第15号においては、契約変更は契約の範囲もしくは価格、または両方の変更のことです。これらは変更指示、仕様変更あるいは修正と呼ばれる場合があります。
企業は、契約変更が承認され、契約の当事者の強制可能な権利や義務の創出又は変更が生じたときに、契約変更の会計処理を行います。企業は特に契約変更が頻繁である、もしくはどのように契約を完了させるかが引き続き不確実な場合は、契約変更が承認された時点を評価するにあたり、判断を必要とするかもしれません。[IFRS 15.18]
契約変更の会計処理は複雑な場合があります。変更の価格設定がどのように行われているか、現在の契約が一定の期間にわたり会計処理されているかどうかなどの要因により、状況ごとにアプローチは異なります。企業はIFRS第15号の具体的な要求事項を適用する必要があります。[IFRS 15.20–21, Insights into IFRS第16版 4.2.290]
開示
年次財務諸表では、企業が行った判断及び判断の変更のうち、収益認識の金額及び時期に大きな影響を与えるものを開示することが要求されています。例えば、企業は契約の存在の要件をいつ充足したか、又はIFRS第15号35項(c)に従って一定の期間にわたり収益認識しているかどうかについて、開示を提供または更新する必要があるかもしれません。[IFRS 15.123]
期中財務諸表では、IFRS第15号は、企業に収益の分解情報の開示を含めることを要求しています。しかしながら、企業はIAS第34号「期中財務報告」の要求事項を満たすために、収益に関するその他の開示を行うかどうかを考慮する必要があります。例えば、収益に関する会計方針の変更がある場合などが考えられます。
経営者が今すべきこと
- IFRS第15号の収益認識モデルのうち、ステップ1を契約が満たしているかどうかを検討しましょう。契約は契約の存在の要件を満たしていますか?
- IFRS第15号35項(c)に従って一定の期間にわたり収益認識をしているとき、現在までに行った履行に対する支払を受ける権利について、それがまだ強制可能かどうか判定しましょう。
- 既存の契約が契約変更されたかどうか評価し、当該契約変更が承認された時点で会計処理を行いましょう。
- IFRS第15号を適用する際に行った、重要な判断及び判断の変更について開示をしましょう。
英語コンテンツ(原文)
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部