IFRS適用企業に対するCOVID-19の影響 - 期中財務諸表への影響は?

IFRS適用企業における、COVID-19が期中財務諸表に及ぼす影響の解説記事です。

IFRS適用企業における、COVID-19が期中財務諸表に及ぼす影響の解説記事です。

論点は何か?

暦年ベースの企業にとって、2020年の期中財務報告期間は、COVID-19コロナウイルス感染拡大の影響が財務諸表に反映される最初の報告期間となると考えられます。すなわち、資産及び負債、収益及び費用の測定及び認識に影響を与えると考えられます。

IAS第34号「期中財務報告」は、原則として、すべての事象及び取引は、期中財務報告期間を独立した単独の期間として認識及び測定することを要求しています。すなわち、一般的に、期中財務報告のための認識又は測定の免除は存在しません。[Insights into IFRS第16版 5.9.80.10]

要約期中財務諸表(以下「期中財務諸表」という)は、通常、前年度の年次財務諸表からの変化に焦点を当てて作成されます。企業は、前年度の年次財務報告期間の末日後の財政状態及び業績の変化を理解する上で、重要な事象及び取引について説明を提供することが求められています。これらの事象や取引について関連して開示する情報は、直近の年次財務報告に表示された関連する情報を更新したものとなります。急速に変化する経済見通しや取引状況を考えると、多くの企業にとって、2020年の期中財務諸表の情報は、前年度の年次財務諸表からの「通常の更新を超える」ものとなる可能性があります。[IAS 34.15]

状況の変化により、前年度の年次財務諸表において重要な開示だったものの目的適合性が低下した場合、企業は期中財務諸表で追加の補足的な開示を提供することを検討する必要があります。[Insights into IFRS第16版 5.9.30.10]

IFRSの他の基準で要求されている多くの開示は、期中財務諸表では必須ではありませんが、現在の状況では、企業は期中財務諸表が当該財務諸表の利用者に目的適合な情報を提供することを確実にするために、これらの開示を提供する必要があるかもしれません。

2020年の期中財務諸表作成の際には、前年度の年次財務諸表からの通常の更新を超えるものとなる可能性があります。投資家や他の財務諸表利用者は、通常の開示を超える情報を期待する可能性があります。

詳細説明

KPMGの「COVID-19 financial reporting resource centre」は、COVID-19の感染拡大による財務報告への影響を網羅した、幅広いトピックに関するガイダンスを提供しており、年次および期中財務諸表の双方に関連しています。

期中財務諸表における認識、測定及び開示

原則として、期中報告期間を独立した単独の期間として項目を認識及び測定することが求められています。ただし、法人所得税については、具体的な要件があります。[Insights into IFRS第16版 5.9.80.10]

KPMGは、企業が2020年の期中財務諸表を作成する際に考慮する必要があると思われる重要な分野のいくつかを、以下のとおり取り上げています。これらと関連性があるかどうかは、企業特有の状況、すなわちCOVID-19が企業の財政状態、業績及びキャッシュ・フローに与える影響の性質と程度に依存します。

継続企業

経営者の継続企業の評価は、現在の状況によって大きく影響を受ける可能性があります。

年次財務諸表の作成時に継続企業の評価に適用される考慮事項は、期中財務諸表にも適用されます。継続企業の前提に関する不確実性を評価する際には、経営者は、少なくとも期中財務諸表の末日から12ヶ月間の入手可能なすべての情報を考慮します。例えば、暦年ベースの企業が2020年3月31日に四半期財務諸表を作成する場合、継続企業の前提が適切かどうかを評価する際には、少なくとも2021年3月31日までの情報を考慮します。[Insights into IFRS第16版 5.9.10.30, 35]

期中財務諸表の公表承認日において、継続企業としての存続能力に関して重要な不確実性がある場合は、当該不確実性は期中財務諸表に開示されます。これは、直近の年次財務諸表に開示されているか否かに関わらず同様です。加えて、経営者が重要な不確実性はないと結論づけたものの、その結論に至る過程において重要な判断を行った場合(いわゆる「紙一重」(close call))にも開示が求められています。[Insights into IFRS第16版 1.2.80, 5.9.10.38]

非金融資産の減損

期中報告日において、非金融資産の減損の兆候の見直しと、結果として実施される減損テストは、事業年度の報告日と同様の方法で行われます。[Insights into IFRS第16版 5.9.200.10]

企業は、直近の年次財務諸表を作成する際に、IAS第36号「資産の減損」に基づき、のれんや無形資産※1の減損テストを行っているかもしれません。しかし、現在の経済状況を考えると、期中報告日には、これらの資産の減損テストを再度行うきっかけとなる減損の兆候が存在している可能性があります。

企業が非金融資産の重要な減損損失を認識した場合、企業は期中財務諸表において、前年度の年次財務諸表に含まれる、関連する情報の説明と更新を提供します。IAS第36号は、この点で考慮すべき関連する開示を提供しています。[IAS 34.15B(b), 15C]

※1 耐用年数の確定できない無形資産、又はまだ使用可能な無形資産。

有形固定資産(PPE)及び無形資産

企業は、少なくとも各事業年度末において、資産の残存価額及び耐用年数を再検討することを求められています。[IAS 16.51]

現在の経済状況を鑑みると、企業は、これらの資産の使用又は保有戦略が変更された場合には、期中報告期間に当該見積りを再評価する必要があります。[IAS 16.51, 38.104]

金融資産の減損

企業は、金融資産の減損テストを行う際には、年次報告日と同じ規準を適用します。

企業が金融資産の重要な減損を認識した場合、企業は期中財務諸表において、前年度の年次財務諸表に含まれていた関連する情報の説明と更新を提供します。IFRS第7号「金融商品: 開示」は、この点で考慮すべき関連する開示を提供しています。[IAS 34.15B(b), 15C]

公正価値の測定

公正価値で測定される資産(投資不動産など)の帳簿価額は、期中報告日に決定されます。

重要な観察可能でないインプットを使用した評価の実施は、現在の環境下ではより困難になってきており、現在の株式市場のボラティリティを考慮すると、前年度の年次報告日の残高に基づく推定が適切でない可能性があります。

企業は、相場価格が入手できない資産の公正価値を決定するために、外部の評価機関を利用することを検討する必要があるかもしれません。これには、再評価モデルを用いて評価される有形固定資産や使用権資産、投資不動産などの非金融資産の公正価値の決定が含まれます。

公正価値測定について、IAS第34号で要求されている具体的な開示を提供する必要があります。

従業員給付および雇用者の債務への影響

確定給付負債(資産)の再測定:期中財務諸表を作成している企業は、確定給付負債(資産)の純額を再測定する必要があるかどうかを検討する必要があります。IAS第19号「従業員給付」では、再測定は、再測定が発生した期間に認識されるため、したがって、期中報告日における調整が重要であると考えられる場合には、当該日に計上する必要があります。

数理計算上の評価:制度改訂、縮小または清算が認識された場合には、制度資産及び債務の測定の更新が必要とされます。加えて、著しい市場変動は、数理計算上の評価の更新が必要となる要因になる可能性があります。[IAS 34.IE.B9, Insights into IFRS第16版 4.4.360, 5.9.150]

棚卸資産

正味実現可能価額:IAS第2号「棚卸資産」は、企業に、棚卸資産を原価と正味実現可能価額のいずれか低い方で測定し、期中報告日に正味実現可能価額の見積りを更新することを要求しています。COVID-19の感染拡大は、当該見積りに影響を与える可能性があります。[IAS 34.IE.B25]

評価損失:企業が各期中報告日に棚卸資産を正味実現可能価額まで評価減した場合、その結果生じる損失は即時に認識する必要があります。すなわち、年次報告日までに回復または吸収されることが見込まれるからといって繰延処理をしてはなりません。[Insights into IFRS第16版 5.9.90]

企業は、棚卸資産の正味実現可能価額までの評価減とその戻入れを開示する必要があります。[IAS 34.15B(a)]

法人所得税

実効税率:IAS第34号において、各期中報告期間に認識される法人所得税費用は、期中報告期間の税引前利益に適用されるその事業年度全体についての予想加重平均税率の最善の見積りに基づきます。

COVID-19の感染拡大によって生じた前例のない困難により、企業は信頼性を持って年次実効税率を見積ることができないと結論付ける可能性があります。このような場合には、年初からの累計期間の実際の税額計算に基づく実際の実効税率が、年次実効税率の最善の見積りとなる可能性があります。[IAS 34.30(c), Insights into IFRS第16版 5.9.160.80]

減税等:COVID-19の感染拡大に対応して、政府は特定の種類の所得に対する減税、追加の税額控除、軽減税率、繰越欠損金の使用期間の延長などを導入する可能性があります。企業は、一回限りの事象に関係する税額控除を、見積年次実効税率に反映させるのではなく、事象が発生した期中報告期間に認識します。逆に、期中報告期間に実質的に制定された税率の変更は、一回限りの事象として認識するか、または見積年次実効税率の変更により、残りの年次報告期間中にわたって配分する可能性があります。[IAS 34.IE.B19, Insights into IFRS第16版 5.9.160.30–35]

繰延税金資産の回収可能性:将来の課税所得が利用できる可能性が高い範囲で、将来減算一時差異や税務上の繰越欠損金及び繰越税額控除に対して、繰延税金資産が認識されます。COVID-19の感染拡大は、企業の将来の課税所得についての蓋然性の予測に影響を与える可能性があり、その結果、期中報告日における繰延税金資産の認識に影響を与える可能性があります。

後発事象

承認日:現在の市場環境においては、企業は、期中財務諸表の発行の承認日及び誰がその承認を行ったかを開示することを検討する必要があります。これは、IAS第34号では特に求められていませんが、期中財務諸表の発行の承認日後に発生した事象は、期中財務諸表では開示又は修正されないため、財務諸表利用者の理解の助けになるかもしれません。[IAS 10.17–18]

修正を要する後発事象と修正を要しない後発事象:企業は、期中報告日以降に発生し、期中財務諸表に反映されていない事象を開示します。期中財務諸表に反映されるべき後発事象(修正を要する後発事象)と開示される後発事象(修正を要しない後発事象)の決定には、判断が必要となる可能性があります。[IAS 34.16A(h)]

異例な項目

企業は、資産、負債、資本、純利益又はキャッシュ・フローに影響を与える項目で、その性質、規模又は頻度から見て異例な事項の内容及び金額を開示します。[IAS 34.16A(c), Insights into IFRS第16版 4.1.100]

流動及び非流動分類

企業は、期中報告日における資産及び負債の流動及び非流動の分類を検討する必要があります。例えば、期中報告日において借入金の条項に違反し、当該負債が要求払いとなる場合で、期中報告日前に免責を得られていないのであれば、流動負債に分類する必要があると考えられます。
企業は、借入債務不履行又は借入契約違反で期中報告日の末日に、あるいはそれ以前に是正されていないものを開示する必要があります。[IAS 34.15B(i)]

追加の表示項目

期中財務諸表は、原則として、直近の年次財務諸表に掲記された見出し及び小計を含みます。しかし、現在の状況を考慮すると、企業が財務諸表利用者にとって有用であると判断した場合には、例えば、政府補助金の表示など、追加の表示項目を記載することを検討する場合があると考えられます。[IAS 34.10]
 

開示

現在の市場環境において、企業の期中の業績、財政状態及びキャッシュ・フローの理解に目的適合的である場合には、企業は、IAS第34号の最低限の開示要求事項が、以下を含む追加的な開示によって確実に補完されるようにすべきです。

  • 経営者による重要な判断及び仮定の変更、並びにIAS第1号で要求されている見積りの不確実性の範囲。
  • COVID-19の感染拡大が期中の財政状態、業績及びキャッシュ・フローに与える影響についての包括的な開示。[IAS 34.15, 15B(d), 15C, IAS 1.17(b)–(c), 122, 125]

IAS第34号は、金融資産及び(又は)金融負債に関するその他の具体的な開示要求事項を含んでいます。[IAS 34.15B(h), (k), (l), 16A(j)]

一部の規制当局※2は、最新の経済変動の大きさを考慮すると、年次財務報告日以降に発生した重要な事象や取引を投資家が理解するために、企業は十分な開示を期中財務諸表で提供すべきであると強調しています。[IAS 34.15B, 16A]

投資家やその他の財務諸表利用者は、通常開示されている以上の情報を期待する可能性があるため、企業は2020年の期中財務諸表が十分な情報を提供しているかどうかを検討する必要があります。財務諸表利用者が直近の年次財務諸表を利用できることを前提とした開示の要約や省略は、もはや適切ではないかもしれません。すなわち、2019年の年次財務諸表で開示された情報は、現在の状況ではあまり目的適合性がないかもしれません。

※2 3 月 25 日に公表された ESMA(European Securities and Markets Authority) 声明「COVID-19の感染拡大 が予想信用損失(ECL)の計算に及ぼす会計上の影響」。

経営者が今すべきこと

  • 期中報告日における継続企業の前提条件を評価します。
  • 前年度の年次財務諸表で開示された情報が目的適合性を維持しているかどうかを検討します。そうでない場合は、更新された開示を提供します。
  • 期中財務諸表において、COVID-19の感染拡大の影響を評価及び反映します。特に、不確実性がすべての必要な見積りと判断に織り込まれているかどうかを評価及び反映します。
  • 年次報告日以降に発生した重要な事象や取引を財務諸表利用者が理解するために、期中財務諸表の開示と説明が十分であるかどうかを評価します
  • COVID-19の感染拡大が企業の財政状態及び業績に与える全体的な影響を期中財務諸表の利用者が理解できるように、追加の開示を行います。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部

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