税務情報(2019.10 - 2020.1)
本稿は、2019 年10月から2020年1月に財務省・国税庁等から公表された税務情報ならびにKPMG税理士法人のウェブサイトに掲載している情報をまとめてお知らせするものです。
本稿は、2019 年10月から2020年1月に財務省・国税庁等から公表された税務情報ならびにKPMG税理士法人のウェブサイトに掲載している情報をまとめてお知らせするものです。
ハイライト
目次
I.2020年度税制改正
1.2020年度税制改正大綱 - 閣議決定
「2020年度(令和2年度)税制改正大綱」は、政府与党(自民党・公明党)が2019年12月12日に決定したのち、2019年12月20日に閣議決定されました。
法人課税に関しては、連結納税制度がグループ通算制度へ移行されます。これは、制度の適用実態やグループ経営の実態を踏まえ、企業の事務負担の軽減等の観点から簡素化等の見直しを行うもので、企業グループ全体を1つの納税単位とする現行制度に代えて、企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行いつつ、損益通算等の調整を行う仕組みとされる予定です。
その他、たとえば以下の措置の創設又は見直しが提案されています。
- 企業の事業革新につながるオープンイノベーションを促進する観点から、事業会社から次世代のイノベーションを担う一定のベンチャー企業に対する出資について、その一定額の所得控除を認める措置(オープンイノベーション促進税制)が創設される。
- 次世代の最大の資源となる「データ」を様々な分野・地域において利活用できる環境整備に向け、安全性・信頼性が確保された5G(第5世代移動通信システム)設備の導入を促す観点から、全国5G基地局の前倒し整備及びローカル5Gの整備に係る一定の投資について、特別償却又は税額控除を認める措置(5G投資促進税制)が創設される。
- 企業における内部留保の増加を背景として、企業に「攻めの経営」に向けた自己改革と挑戦を求めるため、投資や賃上げを促すための措置等(租税特別措置の適用制限、賃上げ及び投資促進税制、交際費課税特例)の適用要件が見直される。
- 子会社配当の非課税措置と子会社株式の譲渡を組み合わせることにより税務上の譲渡損失を創出する租税回避に対処するための見直しが行われる。
2020年度税制改正大綱
自民党:令和2年度税制改正大綱
財務省:令和2年度税制改正の大綱(令和元年12月20日閣議決定)
上記に関するKPMG Japan tax newsletter
2020年度税制改正 連結納税制度の見直し(グループ通算制度への移行)(日本語)(2019年12月18日発行)
2020 Tax Reform Proposals / Revision to Consolidated Tax Return Filing System(英語)(2020年2月7日発行)
2020年度税制改正大綱(日本語)(2019年12月20日発行)
2.2020年度税制改正法案(国税) - 国会提出
2020年1月31日、2020年度税制改正法案(国税)が閣議決定され、第201回通常国会に提出されました。財務省のウェブサイトに、法律案やその概要、要綱等が掲載されました。
3.経済産業省 - コネクテッド・インダストリーズ税制(IoT税制)の廃止に関する情報の公表
「2020年度税制改正の大綱」では、2018年度税制改正により創設されたコネクテッド・インダストリーズ税制(IoT税制、租税特別措置法第42条の12の6)の適用期限の1年前倒し(2020年3月31日で廃止)が提案されています。
この改正案を受け、経済産業省は2019年12月、「コネクテッド・インダストリーズ税制(IoT税制)」の特集ページにおいて、本税制の廃止に関する次の資料を公表しました。
このお知らせには、本税制の廃止に伴う経過措置等として、次の取扱いが明らかにされています。
1.経過措置
本税制は2020年3月31日をもって廃止することとされましたが、2020年3月31日までに認定を受けた法人等が、認定革新的データ産業活用計画に係る革新的情報産業活用設備について2021年3月31日までに取得・供用した場合には、従前どおり本税制の適用ができることとする経過措置が講じられます。
2.経過的対応期間
上記の経過措置を前提に、本税制を活用する条件となる認定(生産性向上特別措置法第22条に基づく認定)を適時に完了させる観点から、以下のとおり「経過的対応期間」(2020年1月6日(月)~2020年2月14日(金))が設けられることとされました。
- 経過的対応期間内に一定の要件を満たした状態で所要の手続を行った場合には、その手続を行った案件が優先的に審査される。
- ただし、留意事項として、(1)経過的対応期間内に所要の手続を行ったことをもって、2020年3月31日までに認定が行われることを保証するものではないこと及び(2)経過的対応期間後も認定申請は受け付けられるが、通常より認定までに時間を要し、2020年3月31日までに認定を行えないことが想定されることが示されている。
全9問からなるこのQ&Aでは、たとえば、既に税制適用計画(革新的データ産業活用計画)の認定を受けている場合には今回の改正の影響はない旨(No.2)や、既に税制適用計画の認定を受けている案件とこれから2020年3月31日までに認定を受ける案件とで取扱いに異なる点はない旨(No.3)が明らかにされています。
上記に関するe-Tax News
KPMG Japan e-Tax News No. 182 (2020年1月8日発行)
II.2019年度税制改正
国税庁は、2019年度税制改正に関する以下の情報を公表しました。
1.過大支払利子税制等に関する法令解釈通達の発遣
2019年度税制改正過大支払利子税制について、対象となる純支払利子等の額の範囲の見直しや、調整所得金額からの国内外の受取配当等の益金不算入額の除外、調整所得金額に乗じる「基準値」の引下げ等の改正が行われました。
これらの改正は2020年4月1日以後に開始する事業年度について適用されることから、国税庁は2019年12月19日、改正後の過大支払利子税制に対応する以下の通達を発遣しました(2018年度税制改正において創設された、分配時調整外国税相当額の控除制度に関する通達も併せて発遣されています)。
既存の通達の取扱いが改正後の過大支払利子税制に対応するよう改正されたほか、「法人が発行した債券を取得した者が実質的に多数でないもの」(租税特別措置法関係通達66の5の2 - 12)が新設されています。
2.タックスヘイブン対策税制に対応した改正通達に関する趣旨説明の公表
2019年度税制改正では、タックスヘイブン対策税制について、ペーパー・カンパニー(その租税負担割合が30%未満である場合には、会社単位の合算課税の対象となる外国関係会社)の範囲が見直され、一定の外国関係会社はペーパー・カンパニーに該当しないこととされました。
また、外国関係会社が連結納税規定やパススルー課税規定を適用している場合における外国関係会社の租税負担割合及び適用対象金額並びに内国法人における外国税額控除の規定に係る取扱いが整備され、これらの規定における所得金額や法人所得税(外国法人税)は、外国関係会社の本店所在地国等の法人所得税(外国法人税)に関する法令の規定のうち企業集団等所得課税規定(連結納税規定及びパススルー課税規定)を適用しないものとして計算することとされました。
国税庁は2019年12月20日、上記の改正に対応した「租税特別措置法関係通達(法人税編)等の一部改正について(法令解釈通達)」(2019年5月31日付)の趣旨説明を公表しました。
この趣旨説明には、「外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)(情報)」(2019年6月20日付)及び「連結納税規定等が適用される外国関係会社の適用対象金額等の計算方法等の改正に関するQ&A(情報)」(2019年7月1日付)で示された内容が含まれています。
Q&A(2019年6月20日付)に関する e-Tax News
KPMG Japan e-Tax News No. 174 (2019年6月27日発行)
3.仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(FAQ)の改訂
2019年度税制改正では、仮想通貨(資金決済に関する法律の改正により、「暗号資産」に呼称変更される予定)に関する法人税の取扱いについて、譲渡損益の計上時期や譲渡原価の算出方法、期末評価、信用取引を行った場合の取扱い等の整備が行われました。また、仮想通貨に関する所得税の取扱いについても譲渡原価の算出方法等の整備が行われています。これらの改正を踏まえ、国税庁は2019年12月20日、2018年11月21日に公表された「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」の改訂版を公表しました。
4.情報照会手続に関する法令解釈通達及び事務運営指針の公表
2019年度税制改正では、国税通則法の一部が改正され、適正公平な課税を実現するため、従来から事業者への協力を得て実施されていた任意の情報提供依頼に係る権限が法令上明確化されたとともに、国税当局が事業者等に対して必要な情報を照会するための新たな情報照会手続が整備されました。
この情報照会手続は2020年1月1日から施行されることから、国税庁は2019年12月13日、情報照会手続に関する以下の法令解釈通達を発遣するとともに、事務運営指針を公表しました。
III.2018年度税制改正
e-Taxにおける財務諸表等のCSV形式データの作成方法に関する情報の更新
2018年度税制改正により、e-Taxにおける1.財務諸表及び2.勘定科目内訳明細書・法人税申告書別表等(明細記載を要する部分)については、現状のデータ形式(1についてはXBRL形式、2についてはXML形式)に加え、CSV形式による提出も可能とされました。
国税庁はe-Taxのウェブサイトに、CSV形式の作成方法に関する情報を掲載し、随時更新しています。
- 財務諸表のCSV形式データの作成方法(暫定版)
2019年12月13日、「財務諸表(その他)(令和2年4月1日以降提出分)の勘定科目コード表及び標準フォーム」及び「標準フォーム及び勘定科目コードに係る具体的な作成のイメージ」を更新しました。 - 勘定科目内訳明細書及び法人税申告書別表等(明細記載を要する部分)のCSV形式データの作成方法
2020年1月6日、法人税申告書別表等(平成31年4月1日以後終了事業年度又は連結事業年度分)のうち3つの付表(特別償却の付表(1)、(3)、(8))に係る標準フォーム及び留意事項等を新たに掲載しました。
IV.租税条約
1.モロッコとの租税条約 - 実質合意及び署名
財務省は2019年10月1日、日本国政府とモロッコ王国政府が両国間の租税条約について実質合意に至ったことを公表しました。
また、2020年1月9日には、両国間で「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とモロッコ王国との間の条約」の署名が1月8日に行われたことを公表しました。モロッコとの間にはこれまで租税条約は存在せず、本条約は、両国間の経済関係の発展を踏まえて新たに締結されるものです。
本条約は、両国間で生ずる二重課税を除去するため、両国において課税することができる所得の範囲を定める規定等を設けています。また、本条約の締結によって、両国の税務当局間において、本条約の規定に従っていない課税についての協議、租税に関する情報交換及び租税債権の徴収共助の実施が可能となります。
財務省プレスリリース
日本語:
モロッコとの租税条約について実質合意に至りました
モロッコとの租税条約が署名されました
英語:
Tax Convention with Morocco Agreed in Principle
Tax Convention with Morocco was Signed
2.ペルーとの租税条約 - 署名
財務省は2019年11月19日、日本国政府とペルー共和国政府との間で「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とペルー共和国との間の条約」の署名が2019年11月18日(日本時間2019年11月19日)に行われたことを公表しました。ペルー共和国との間にはこれまで租税条約は存在せず、本条約は、両国の緊密化する経済関係等を踏まえて新たに締結されるものです。
本条約は、両国間で生ずる二重課税を除去するため、両国において課税することができる所得の範囲を定める規定等を設けています。また、本条約の締結によって、両国の税務当局間において、本条約の規定に従っていない課税についての協議、租税に関する情報交換及び租税債権の徴収共助の実施が可能となります。
財務省プレスリリース
日本語:ペルーとの租税条約が署名されました
英語:Tax Convention with Peru was Signed
3.セルビアとの租税条約 - 締結交渉開始及び実質合意
財務省は2019年11月22日、日本国政府とセルビア共和国政府との間で、租税条約を締結するための交渉を2019年11月25日より開始することを公表し、2019年12月6日、実質合意に至ったことを公表しました。
この条約は、両国政府内における必要な手続を経たうえで署名され、その後、両国それぞれの国内手続(我が国においては、国会の承認を得ることが必要)を経て、発効することとなります。
財務省プレスリリース
日本語:
セルビアとの租税条約の締結交渉を開始します
セルビアとの租税条約について実質合意に至りました
英語:
Negotiations for Tax Convention with Serbia will be Initiated
Tax Convention with Serbia Agreed in Principle
4.エクアドルとの租税条約 - 発効
財務省は2019年11月29日、日本国政府とエクアドル共和国政府との間で「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とエクアドル共和国との間の条約」(2019年1月15日署名)を発効させるための外交上の公文の交換が2019年11月28日に行われたことを公表しました。これにより、本条約は、2019年12月28日から効力を生じ、日本においては、次のものについて適用されます。
- 課税年度に基づいて課される租税:2020年1月1日以後に開始する各課税年度の租税
- 課税年度に基づかないで課される租税:2020年1月1日以後に課される租税
情報交換及び徴収共助に関する規定は、対象となる租税が課される日又はその課税年度にかかわらず、次の日から適用されます。
- 情報交換に関する規定:2019年12月28日
- 徴収共助に関する規定:両国の政府が外交上の公文の交換によって合意する日
エクアドル共和国との間にこれまで租税条約は存在せず、本条約は、両国の緊密化する経済関係等を踏まえて新たに締結されるものです。本条約は、両国間で生ずる二重課税を除去するため、両国において課税することができる所得の範囲を定める規定等を設けています。また、本条約の締結によって、両国の税務当局間において、本条約の規定に従っていない課税についての協議、租税に関する情報交換及び租税債権の徴収共助の実施が可能となります。
財務省プレスリリース
日本語:エクアドルとの租税条約が発効します
英語:Tax Convention with Ecuador will Enter into Force
5.ジャマイカとの租税条約 - 署名
財務省は2019年12月12日、日本国政府とジャマイカ政府との間で「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とジャマイカとの間の条約」の署名が同日行われたことを公表しました。ジャマイカとの間にはこれまで租税条約は存在せず、本条約は、両国間の経済関係の発展を踏まえて新たに締結されるものです。
本条約は、両国間で生ずる二重課税を除去するため、両国において課税することができる所得の範囲を定める規定等を設けています。また、本条約の締結によって、両国の税務当局間において、本条約の規定に従っていない課税についての協議、租税に関する情報交換及び租税債権の徴収共助の実施が可能となります。
財務省プレスリリース
日本語:ジャマイカとの租税条約が署名されました
英語:Tax Convention with Jamaica was Signed
6.ウズベキスタンとの新租税条約 - 署名
財務省は2019年12月20日、日本国政府とウズベキスタン共和国政府との間で「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とウズベキスタン共和国との間の条約」の署名が2019年12月19日に行われたことを公表しました。
本条約は、1986年に発効した現行の租税条約(所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約)を全面的に改正するもので、事業利得に対する課税の改正、投資所得に対する課税のさらなる軽減のほか、本条約の濫用防止措置及び租税債権の徴収共助の導入並びに租税に関する情報交換の拡充を行うものです。
なお、本条約は、ウズベキスタン共和国以外の国と日本との間で適用されている現行の租税条約に影響することはありません。
財務省プレスリリース
日本語:ウズベキスタンとの新租税条約が署名されました
英語:New Tax Convention with Uzbekistan was Signed
V.その他
1.OECD - デジタル課税の新たな枠組み案に関するPubic consultation documentの公表
2019年5月にOECD/G20包摂的枠組みがデジタル課税に関する作業プログラムを採択※したことを受け、OECDは現在、デジタル課税の新たな枠組み案を、2つの主要テーマ(Pillar One:課税権の配分に関する論点/Pillar Two:軽課税国への所得移転等のBEPSに関連する論点)に分けて議論しています。
2つの主要テーマのうちPillar Oneについては、2019年10月9日にPubic consultation document (Secretariat Proposal for a “Unified Approach” under Pillar One)がOECDより公表され、Pubic consultation documentに寄せられた各国団体からのコメントを踏まえ、2019年11月21日から22日にかけてPubic consultation Meetingが開催されました。
また、Pillar Twoについては、2019年11月8日にPubic consultation document(Global Anti-Base Erosion Proposal (“GloBE”) - Pillar Two)がOECDより公表され、Pubic consultation documentに寄せられた各国団体からのコメントを踏まえ、2019年12月9日にPubic consultation Meetingが開催されました。
さらに2020年1月31日には「BEPS包摂的枠組みに関する声明」を公表し、国際社会がデジタル経済によって生じる租税問題について合意に基づく長期的な解決策を見出す取組みを行い、2020年末までに合意できるように交渉を続けることを確約したことを公表しました。
2.国税庁 - 「法人課税関係の申請、届出等の様式の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)の公表
国税庁は2020年1月、以下の法令解釈通達をウェブサイトにおいて公表しました。
この一部改正通達では、既存の申請書・届出書等への2019年度税制改正による条文番号の変更の反映、クロアチア共和国との租税条約に係る特典条項に関する付表の新設(日・クロアチア租税条約は2019年9月5日に発効)等が行われているほか、以下に示すとおり、「国別報告事項(表1~表3)の記載要領」の改正が行われてい
ます。
- 「表1 居住地国等における収入金額、納付税額等の配分及び事業活動の概要」の記載要領の改正
(1)この表に記載する「収入金額」及び「税引前当期利益(損失)の額」には、他の構成会社等からの受取配当金の額を含まないこと並びに(2)当該他の構成会社等からの受取配当金について源泉徴収された所得税の額は「納付税額」及び「発生税額」には含まないこと等が注書き(※印)において示されました。
- 「表3 追加情報」の記載要領の改正
この表に英語で記載することとされている事項に、「特定の項目について、使用する財務諸表等の種類が他の居住地国等と異なる居住地国等がある場合には、その項目ごとの異なる理由及び使用した財務諸表等」が追加されました。
執筆者
KPMG税理士法人