日本のCFOの担うべき役割と課題~CFOサーベイ2019の結果を受けて~
本稿では、CFOサーベイ2019の結果を基に、日本のCFOの担うべき役割と課題について解説します。
本稿では、CFOサーベイ2019の結果を基に、日本のCFOの担うべき役割と課題について解説します。
近年の日本企業では、CFOに期待される役割が変化してきており、KPMGジャパンで初めて実施した「CFOサーベイ」でも、その傾向は明らかになっています。調査結果からは、CFOが抱えるジレンマや日本国内のCFOがCEOのビジネスパートナーとして求められる役割、CFO機能に求められる新たなビジネススキル等が見えてきました。このような課題を解決するため、短期的には外部リソースで人材を補うことも可能ですが、長期的な視点で考えれば、CFO機能の中で人材を育成することが求められます。
次世代のCFOは、日本特有の風土や文化の中で、日本特有のCFOの機能が求められ、日本企業では日本の優れた点を活かしたCFO機能が発展していくでしょう。
また、デジタルテクノロジーを活用し、企業のデジタル化を率先する役割を担うことと、そのうえで新しい能力をもつCFOの育成に取り組むことが期待されています。
本稿では、CFOサーベイ2019の結果を基に、日本のCFOの担うべき役割と課題について解説します。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。
ポイント
- KPMGジャパンでは、初めての試みとして日本企業のCFOを対象とした「CFOサーベイ」を実施。日本のCFOが抱えるジレンマと担うべき役割が明らかになった。
- CFOサーベイの結果から見えてきた課題としては、「日本のCFOのジレンマと担うべき役割」「デジタルテクノロジーの活用は不可避」「多様な専門人材の確保と育成の見直しが急務」が軸として挙げられる。
- 将来を担うCFOを育てるには、新たなプログラムとキャリアパスの構築が鍵となり、個々の能力を活かすさまざまな育成方法を取り入れると同時に、これまでのCFOのキャリアと異なり、一直線ではない多彩なキャリアパスを描くことが必要となる。
I.CFOサーベイ2019の概略
KPMGジャパンでは、2019年に日本企業のCFOを対象とした調査を実施しました。この調査結果から、日本特有の経営文化の中でCFOを取り巻く現状が明らかになりました。本稿では、CFOが直面する課題と、CFOに今後求められることを紹介します。
II.日本のCFOが抱えるジレンマ
1.日本のCFOのジレンマと担うべき役割
近年、日本企業でもCEOと並びCFOの名称が広く使われるようになりました。今回の調査対象企業でも約半数が社内または社外でCFOという名称を使用していました。日本の会社法ではCFOの設置を義務付けていません。それにもかかわらずCFOという名称が浸透しているのは、海外子会社とのやりとりなどを通じてグローバルな対応が求められているためでしょう。
CFOが責任者となっている業務領域には、偏りがあります。調査では、財務経理領域(財務戦略、予算管理、IR)は60%以上ですが、戦略企画領域(投融資判断、経営計画、コーポレート戦略)は平均約50%程度となりました。リスク管理領域は、さらに減少して28%です(図表1参照)。日本企業の場合、戦略企画領域やリスク管理領域にはCFOと異なる責任者を配置することが多いためと考えられます。
図表1 CFOが責任者となっている業務領域(複数回答)
海外の企業では、CEO、CFO、COOの3人からなる「Cクラス型経営体制」がよく見られます。「Cクラス型経営体制」は、少人数でスピーディーな意思決定を重視するものです。ここではCFOは戦略企画機能をもち、企業の共同意思決定者としての役割を担います。
その一方で、日本は「合議型経営体制」が主流です。細分化された組織機能の中で、CFOは財務経理の責任者を担います。戦略企画責任者やリスク管理責任者はCFOと別に設置されている点が「Cクラス型経営体制」との違いです。
CFOインタビュー結果から、日本企業でCFOという肩書を有することで、あたかも「Cクラス型経営体制」における共同経営意思決定者の1人と誤解される状況が明らかになりました。日本の「合議型経営体制」においてCFOは財務経理の責任者ですが、戦略企画やリスク管理の機能も期待されてしまうのです。実際の立場と期待される役割やイメージのはざまで、CFOはジレンマを抱えています。
2.デジタルテクノロジーの活用は不可避
日本国内のCFOがCEOのビジネスパートナーとして、意思決定に影響を与えられるような情報を提供するためには、どうすればいいのでしょうか。ここでまたサーベイの回答を見てみましょう(図表2参照)。
CFOが意思決定サポートで改善すべき点として、「適時性」「柔軟性」はそれぞれ70%を超えました。ここから多くのCFOが「自らの情報提供に満足していない」ことがわかります。
ところが近年、最新のデジタルテクノロジーを活用することで、この問題を改善することが可能になりました。たとえばAIやビッグデータ、インメモリコンピューティングから生み出された、高度な分析と将来予測情報を用います。「CEOの意思決定をサポートするビジネスパートナー」となるCFOには、経営数値という共通の経営言語を活用し、戦略企画やリスク管理といった各責任者の意見を取りまとめる役割が求められます。それには経営数値をタイムリーかつ柔軟に入手できる基幹システムなどの基盤整備、そしてそれを活用できることがポイントでしょう。
なによりCFOの機能を高度化するためには、まず余力を生み出すことです。現在大きな負荷となっている情報処理や実績集計といった実務をRPAやIoTなどのテクノロジーで効率化することが急務です。それにより生まれた余力を、意思決定のサポートに向けるべきです。
最新のデジタルテクノロジーは、企業の競争力に大きな影響を与えます。CFOとしては実務や意思決定サポートなど、さまざまな場面でデジタルテクノロジーの活用は待ったなしと言えます。
3.多様な専門人材の確保と育成の見直しが急務
今回の調査では「グローバル人材が不足している」という結果が65%にのぼりました(図表3参照)。また、多くの企業では「規制や法令の専門家」「デジタル人材」の確保も課題となっています。CFO領域においても、新たな能力を併せ持つ人材が求められています。これからのCFOには、経営・ビジネスセンス、高いコミュニケーション能力、高度なデータ分析・解析能力など、今までにない専門能力が求められます(図表4参照)。
これほど多様な人材育成を自社で行うことは多くの企業で間に合っておらず、中途採用やアウトソーシングを活用して人材を確保するケースが増えています。短期的には外部リソースで人材を補うべきです。しかし、長期的な視点で考えれば、CFO機能の中で人材を育てることが求められます。
III.CFOに必要な人材育成における課題とは
「新しいCFO人材を育てるには10年かかる」。そんな声が挙がっています。なぜそれほどの時間がかかるのでしょうか。それは積み上げてきた伝統や格式の中で、キャリアパスの多様性が認められにくい土壌があるからです。将来を担う人材を育てるには、新たなプログラムとキャリアパスの構築が鍵となります。個々の能力を活かすさまざまな育成方法を取り入れると同時に、これまでのCFOのキャリアと異なり、一直線ではない多彩なキャリアパスを描くことが必要です。
日本特有の風土や文化の中では、日本特有のCFOが求められています。欧米型の経営を目指すのではなく、日本企業では日本の優れた点を活かしたCFO機能が発展していくことでしょう。
次世代のCFOは、デジタルテクノロジーを活用し、企業のデジタル化を率先する役割を担ってほしいと考えています。そのうえで新しい能力をもつCFOの育成に取り組むことで、企業のCFO機能はますます強化されていくことでしょう。
実施概要
対象企業 | 直近の連結売上高3000億円以上の企業(240社) |
調査時期 | 2019年2~6月 |
回答 | 162社 |
調査方法 | webアンケート(240社)。回答があった162社の中から、CFOインタビュー(24社) |
webアンケート項目 | CFO個人の能力、CFO機能およびそれを支えるCFO基盤について |
CFOインタビュー項目 | CFOを取り巻く環境、CFOの機能および基盤について 1.テクノロジーの急速な革新、内部経営環境(CFO機能)として 2.CFOの素質 3.CFOの関与領域 4.CFOの意思決定サポート 5.CFO機能の効率化、内部経営環境(CFO基盤)として 6.CFO基盤の評価 7.人材育成 |
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
パートナー 吉野 征宏