進化する管理会計 管理会計のタイプに応じた高度化・効率化のすすめ
本稿では、あずさ監査法人でのプロジェクト事例を基礎とした、企業の管理会計のタイプ分類をご紹介し、タイプごとの特徴・課題を踏まえた、管理会計の高度化・効率化の方向性について解説いたします。
本稿では、あずさ監査法人でのプロジェクト事例を基礎とした、企業の管理会計のタイプ分類をご紹介し、タイプごとの特徴・課題を踏まえた、管理会計の高度化・効率化の方向性について解説いたし
ディスラプションの時代において、あらゆる将来リスクに備えて、CFO部門には経営層の迅速な意思決定を支援する情報提供が求められています。その実現に向け、CFO部門は、テクノロジーも駆使しながら、ロジカルかつ効率的に、予測・着地見込みを作成・提供できる仕組みを構築していくべきであり、また、事業部門においては、常にそれら予測・着地見込みを意識しながらアクションプランを立案し、実行・モニタリングできるようなPDCAを構築していくことがカギとなります。
本稿では、あずさ監査法人でのこれまでのプロジェクト事例を基礎とした、企業の管理会計のタイプ分類をご紹介し、そのタイプごとの特徴・課題を踏まえた、管理会計の高度化・効率化の方向性について解説いたします。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。
ポイント
- 管理会計高度化の方向性は、損益インパクト項目ベースの「予測値」をナビゲータとしたPDCA
- その実現には、テクノロジーも活用し、ロジカルかつ精度の高い予測値の算出と予測業務の効率化が不可欠
- KPMGでは、管理会計のタイプに応じた高度化・効率化の方向性を認識して推進すべきと考察
- 予測の高度化・効率化にAI活用を進めるため、機械学習によるアルゴリズム構築機能などについて、進化状況のウオッチを続ける
I.マネジメントが求める経営管理情報と管理会計の進化の方向性
1. マネジメントが求める経営管理情報は、結果指標のみでなく、質の高い見通し情報
現在のような、不確実かつ変化の速い経営環境下では、CEOが求める経営管理情報は、結果指標のみでなく、質の高い見通し情報であり、フロント側データと経営管理情報(財務情報)が連携した情報をタイムリーに把握し、それらを基礎とした、先を読む情報、すなわち、「予測」「着地見込み」情報により、迅速な意思決定に繋げたいというニーズが大きいと考えます。
今後、CFOおよび経理財務部門は常に先進的な取組みを吸収し、企業の「競争優位性」に繋がる、価値ある情報をどれだけスピーディーにマネジメントに提供できるかが問われています。
2. 管理会計の進化の方向性は、「「予測値」をナビゲーター・軸としてPDCAを回す管理会計」
マネジメントに意思決定に資する、価値ある情報を提供していくため、企業が構築すべき仕組みとは、「「予測値」をナビゲーター・軸としてPDCAを回す管理会計」です。
管理会計において、常に、ロジカルにかつ効率的に、「予測値」を算出し、その予測値を、当初設置した概算・予算を置き換え、経過月の実績累計+未経過月部分累計の予測で「着地見込み」を算出、事業部側にて「着地見込み」を常に意識したアクションプランを立案・実行し、またその結果を踏まえた「着地見込み」を見ていくといったPDCAサイクルが、管理会計の進化の方向性であり、究極的には、「月次ローリング予想によるPDCA」の確立を目指すべきと考えます。
その実現に向けての課題として、ロジカルかつ効率的な、「予測」の作成があげられます。
予測策定にあたっては、「損益インパクト項目」の設定・活用が不可欠です。
KPMGでは「損益インパクト項目」を「グループ全体・組織ごとの業績に対して、(最も)インパクトの大きい変動要因」と定義しており、その種類は、結果・成果指標だけでなく、活動指標や各種マーケットレートなどの外部変数も含まれます。
損益インパクト項目を設定し、自組織の利益等の予測ロジックを定義し、組織内でその定義を共通認識として共有のうえ、月次の管理会議では、「なぜその予測値になったのか?」という議論ではなく、「(定義されたロジックで算出した)予測値を基礎とすると、XXXといったアクションが次の打ち手として必要となる」「XXというアクションにより、着地見込みとしては当初目標のXX%の達成を見込む」といった議論をすべきと考えます。
また、KPMGの提唱する損益インパクト項目を軸とした管理会計の姿は、以下3つのポイントを充足していることが重要です(図表1参照)。
図表1 損益インパクト項目を軸としたPDCA全体像
- 損益インパクト項目が暗黙知から、「見える化」され、全社・全管理階層ベースで「共通言語」になっているか
- 損益インパクト項目が、事業業績管理と連結ベースの全社経営管理での共通の管理軸、すなわち、共通の「管理のナビゲーター」となっているか
- 外部へ公表・アピールする中計・IRと、社内のマネジメント(事業管理・予算管理、連結経営管理)も、損益インパクトも共通の軸となっているか
II.管理会計のタイプ分類
1. 予算編成・管理方法による管理会計のタイプ分類
管理会計の進化に向けて、まずは、自社の管理会計の特徴・タイプを認識すべきです。本章では、これまでの管理会計関連のプロジェクト事例から整理した、KPMGの考える、管理会計の4つのタイプ分類を紹介します(図表2参照)。
図表2 企業の管理会計のタイプ分類
[1]タイプA:グローバル一体経営&詳細分析型
Aは、ボトムアップ型の予算編成方針を採用し、結果分析重視型の管理を行っている傾向の会社が属するカテゴリーです。
(1)予算編成・管理に関する特徴
- 積上げ型予算編成(バリューチェーン関与者が多い/コスト構造が複雑で、積上げが多段階。また確定までの調整プロセス有)
- 結果(予算達成状況、予実差異)分析重視
- 製品の品種が多い/損益管理単位・原価管理単位が細かい場合、結果集計・分析・報告に時間と手間がかかる
(2)一般的に当タイプに分類される会社・業界等
- 日本型経営の最適地生産型企業(親会社の各機能が全世界の拠点に対して生産・輸送・販売戦略指示、グループ全体最適で機能配置・スケールメリット追及)
- 化学、自動車メーカー、部品メーカー等
(3)想定される課題
- 予算編成から確定に時間がかかる(会社全体で、現場(特に営業)・事業部経理担当・本社経理担当・企画担当まで負荷が大きく、グループで数値の標準化ができていない/精度に懸念がある)
- 予算管理・分析に時間がかかり、次のアクションの提案に手が回らない(分析結果が事業運営に十分活かされていない)
- 管理単位が細かく、予算・実績とも配賦計算が多く、管理不能コスト部分が多い
[2]タイプB:コミットメント経営&厳格管理型
Bは、トップダウン型の予算編成方針を採用し、結果重視・業績評価制度との連携を志向する会社が属するカテゴリーです。
(1)予算編成・管理に関する特徴
- トップダウンでの予算編成方針・予算目標値(目安)が明示される
- セグメント別には、目標のブレークダウン値を基礎とした予算編成方式
- トップダウンによる目標を基礎とした予算値に対して、各マネジメントへの責任範囲の割り当ては現場積上げ値(積上げ型)を調整して確定する。ハイブリット型もあり
- 目標・予算に対するコミットメントに対してその結果・達成度を評価する。組織・マネジメントの業績評価制度との連携を志向する
(2)一般的に当タイプに分類される会社・業界等
- 地産地消型グローバルメーカーや、事業部制・カンパニー制下で各組織マネジメントへの分権が進んでいる会社
- M&A(買収)が盛んな会社(M&Aにより事業拡大・新地域や新事業へ進出するようなステージにある会社)
(3)想定される課題
- 結果評価・業績評価目的の適切なKPIの設定(各組織マネジメントの業績評価KPIの設定・予算管理制度への組み込み、予算制度の充実(BS予算管理、投資対効果評価ニーズの高まり))
- ハイブリット型の場合、トップダウン予算≠Σ現場目標値積上げの調整に時間をかけて最終確定している
- 予算管理・分析に時間がかかり、タイムリーな結果評価・迅速な意思決定が困難(分析結果が事業運営に十分活かされていない)
- 管理単位が細かく、予算・実績とも配賦計算が多く、管理不能コスト部分が多い
[3]タイプC:グローバル一体経営&着地見込み重視型
Cは、ボトムアップ型で当初予算を編成し、管理はローリング予算と着地見込み管理を志向する会社が属するカテゴリーです。
(1)予算編成・管理に関する特徴
- 当初予算は積上げ型で編成し、年間予算として据え置くものの、より短いサイクルのPDCAは、ローリング予算と着地見込み管理中心
- 予算管理において、結果評価よりも、将来予想・着地見込みを随時・継続的にモニタリングすることにより、次のアクションの見直しに関する迅速な意思決定を可能にすることを重視する(変化適応型マネジメントを志向)
(2)一般的に当タイプに分類される会社・業界等
- 日本的経営スタイル(最適地生産型等)のグローバルメーカー
- 石油価格や為替変動の影響を大きく受ける業界、予想が当てにくい業界(予算が使用されるまでに、予算編成に活用された仮定自体が無効になってしまう)
- 石油化学事業会社、医薬等
(3)想定される課題
- 予想・着地見込みの精度向上・スピードアップ(シミュレーション機能の充実、損益に重要な影響を及ぼすパラメータ項目(損益インパクト項目)による予想PDCA)
- 「最前線にいるマネジャーの意思決定に必要なマネジメント・モデル」の構築(ローリング予想によるアクションプランの継続見直しの仕組みの構築)
- 業績評価制度との連携
- 予算編成から確定に時間がかかる(年間目標・コミットメント予算の確定、トップアジャスト対応等に時間がかかる)
[4]タイプD:スピード経営&PEST影響予想型
Dは、トップダウン型の予算編成方針を採用し、ローリング予算等での将来予測型管理の会社が属するカテゴリーです。
(1)予算編成・管理に関する特徴
- 予算はトップダウン型で編成、管理はローリング予算で将来予測型
- 予算編成方針とパラメータ値が決まれば、一定のルールで比較的容易に予算が確定
- 外部環境の影響が大きく、予算のコントロールが難しいため、管理のPDCAのスピードを早くし、意思決定に資するシミュレーション情報を迅速に提供することに重点が置かれる傾向
(2)一般的に当タイプに分類される会社・業界等
- 変化適応型組織を志向する会社・業界、また、そのために管理セグメント別組織への権限移譲を進めている傾向にある会社タイプC同様、石油価格や為替変動の影響を大きく受ける業界、予想が当てにくい業界
- ワールドワイドに事業展開する、商社、情報・サービス業
(3)想定される課題
- PDCAの頻度・スピードアップ
- グローバルDB構築、分析・シミュレーションデータの一元管理
- 予想・着地見込みの精度向上・効率化
- 業績評価制度との連携
2.管理会計のタイプに応じた高度化・効率化
管理会計のタイプを踏まえ、その特徴・課題に応じた高度化と効率化の方向性を目指していくべきです。
どのタイプであっても、高度化・効率化の実現に向けては、損益インパクト項目による予測の作成・管理への活用が不可欠と考えていますが、特に、ボトムアップ型の企業は、これまでの積上げ型文化からの脱却に向けて、社内の風土改革が重要となります。
また、昨今では、先端テクノロジーとして、統計的手法やAIを活用した、予測モデリングの仕組みを活用した管理会計の高度化も模索されていますが、現在、既に将来予想重視型の企業では、損益インパクト項目を基礎とした予測・着地見込み管理を行っているため、予測モデリングへのAI活用もなじみやすく、予測精度向上・効率化効果も期待しやすいため、積極的にテクノロジーの活用を模索していくべきと考えます。
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執筆者
有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
ディレクター 程原 真幾