IFRS16号「リース」強制適用!移行準備・最終チェックの4ステップ解説~2:リースの基本方針の決定

IFRS適用済み企業(リース取引の借手)を前提に、新基準への移行までに解決すべき課題の検討ポイントを4ステップで解説。本ページではステップ2「リースの基本方針の決定」を詳説する。

IFRS適用済み企業(リース取引の借手)を前提に、新基準への移行までに解決すべき課題の検討ポイントを4ステップで解説。本ページではステップ2「リースの基本方針の決定」を詳説する。

ステップ2 リースの基本方針を決定する

ステップ1でリースの対象範囲が決まったら、次にステップ2としてリース会計処理の基礎となる事項を算定する基本方針を決定する必要がある。全体的な留意点は以下のとおりである。

  • 概念そのものは目新しくはないものの、オンバランスされる取引の拡大・多様化により、IFRS16号の適用を機に本格的な対応が求められることとなったものも多い。
  • 判断を伴う論点が多いため、社内でガイダンスを具体化するとともに、あらかじめ判断尺度等を監査人と協議しておくことが重要である。
  • データを収集し、適切な判断を行うための内部統制の構築のため、連結グループ内での方針の周知徹底、研修等を行う必要がある。

ステップ2 - 1 リース期間の算定方針

まずは、リース期間の判定方針を決めることが重要である。ステップ2のなかでもリース期間の検討を最優先と考えるのは、これが決まらないとリース料総額の範囲も定まらないうえ、後述の「短期リース」の免除規定適用の可否判断にも影響するためである。

リース期間の判断について、IFRS16号では、リースの解約不能期間に、(i)借手が行使することが合理的に確実である延長オプションの対象期間、および(ii)借手が行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間を加えたものとして決定しなければならない(IFRS16号18項)。そのため、リース期間は単なる契約書上の合意期間や解約不能期間といった「明示的な」期間ではなく、判断が必要となる。

リース期間の定義は今回見直しの対象とされていない。そのため、従来基準でも、リース期間を算定するためには、延長オプションや解約オプションの行使・不行使についての「合理的に確実」か否かの判断が行われていたはずとも考えられる。しかしながら、実務上は、明らかにオペレーティング・リースに該当するような取引では、リース期間の厳密な検討は行われていなかった場合が多いのではないだろうか。なぜなら、(i)従来基準ではオペレーティング・リースに関してリース期間を通じたリース料の配分が必要であったが、これが重要性を持つことは限定的であったとみられること、(ii)オペレーティング・リースの注記に必要なのは解約不能期間であり、必ずしもリース期間ではなかったこと、などが挙げられる。IFRS16号の適用に伴って賃貸借処理が行われていたオペレーティング・リースにまでオンバランスの範囲が拡大したことで、リース期間をどのように判断するかはリース会計適用上の最も重要な論点の1つとなっている。そのため、リース期間の判断について社内方針を策定する必要に迫られている会社も多いことが推察される。

前述のオプションの行使・非行使の判断においては、経済的インセンティブを生じさせるすべての関連性のある事実および状況を考慮しなければならない。たとえば、次のような判断を行うこととなる(IFRS16号B37項)。

  • オプション期間に係る契約条件と市場レート等との比較。延長オプション行使期間に適用されるリース料が同等物件に対して想定される市場賃借料に比べて極めて安価であるならば当該延長オプションを行使する可能性は合理的に確実といえるかもしれない。
  • 賃借資産の大幅な改良を契約期間中に実施した、もしくは実施予定である場合、この改良設備が、オプションを行使する時点で、なお、重大な経済的便益を有すると見込まれるか。たとえば、多額の内部造作への投資を行うと、延長オプションを行使して使用しないと「元が取れない」ような状況になっており、結果として延長オプションを行使する可能性は合理的に確実であるといえるかもしれない。

解約不能期間が短いと、相対的に延長オプション行使・解約オプション不行使の可能性が高まると一般的には考えられる。また、会計基準では、同じような資産を平均どれくらいの期間賃借していたか、あるいは、どのような場合にオプションを行使(非行使)してきたかといった、特定種類の資産の使用に関する過去の慣行やその経済的な理由も踏まえて判断すべきとされている(IFRS16号B39項、B40項)。

そのため、リース期間の社内方針について策定する際には、前記の観点をルールに反映し、担当者が適切に判断を行えるようにする必要がある。たとえば、テナントによる不動産賃借を例にとると、前述のような経済的インセンティブの内容や解約不能期間の長さに加え、これまで、同じような物件では平均どのくらいの期間賃借していたか、あるいは、どのような場合にオプションを行使(非行使)してきたかといったポイントを判断尺度の中に反映し、リース期間の判断を行う際のルール化を行うこと等が考えられる。

また、通常は、オプションの行使・非行使と、社内でのリース(賃借)に係る稟議での記載内容や社内予算は整合するものと考えられる。たとえば、ある不動産のリース期間を6年間と判断していながら、契約前の稟議書では10年間賃借することを前提に取引実施の判断が承認されている、あるいは、逆に、中期経営計画で当該不動産から3年後に移転する費用を計上している、といったような状況では、リース期間の見積りは不適切と判断される可能性がある。

ステップ2 - 2 リース料総額の範囲

リース負債の測定に含めるリース料の構成要素についてはIFRS16号27項に定められている。そのなかでも、「実質的な固定リース料」や「変動リース料のうち、指数またはレートに応じて決まる金額」については何をもって「実質的な固定リース料」とみるか、また、検討対象の変動リース料は「指数またはレートに応じて決まる」か否か、といった点につき、判断が入り得る。たとえば、指数またはレートに応じて決まる変動リース料の「指数またはレート」には消費者物価指数(CPI)や基準金利のほか、市場の賃料水準を反映して変動するものも含まれる(IFRS16号28項)。よって、たとえば、一定期間後に賃料の見直し条項がついた不動産契約等で、当該一定期間経過日以降の賃料が、現時点ではわからないから全額を変動リース料だとしてリース負債の算定範囲から除外する、といったようなことは認められない点に留意が必要となる。

なお、リース料総額の決定には、何年分の支払リース料を対象とするか、また、更新料の支払や解約損害金を含めるか否かがリース期間の判定における延長オプション・解約オプションの行使・非行使の判断と整合しているか、といった点が重要である。リース期間の判断との対応につき不整合な処理が起きないようにチェックする体制の構築が必要である。

ステップ2 - 3 割引率

借手の割引率について、IFRS16号では「借手の追加借入利子率」を使用すべきケースが示されている(IFRS16号26項)※1。従来基準においても、使用すべき割引率について、実務上算定可能な場合はリースの計算利子率とし、実務上不可能な場合には、借手の追加借入利子率とされてきたため、「借手の追加借入利子率」自体は目新しい考え方ではない。

しかし、従来はファイナンス・リースのみがオンバランスの対象であった。ファイナンス・リースは契約ごとに借手のニーズにあわせてカスタマイズされることが多いため、ファイナンス・リースにおけるリースの計算利子率は契約上明示されていることもあり、したがって、借手はリース会計適用上、当該利子率を反映して計算を行っていたケースが多かったのではないかと思われる。今後は、従来オペレーティング・リースとされてきたリース(たとえば、テナントの賃貸借契約等)についてもオンバランスすることが要求される。しかしながら、多くのオペレーティング・リース取引においては、借手の要請に応じて貸手がリースの計算利子率を開示することは想定されない。また、借手自身がリースの計算利子率を計算するには、原資産の公正価値やリース期間終了時の無保証残存価値の見積り、さらには貸手にかかる当初直接コストなどのデータが必要であり、通常、借手はこれらの情報を入手できない。そのため、多くの場合、借手はリースの計算利子率を使用できないと想定される。その場合には、「借手の追加借入利子率」を算定する必要が生じることになる。

借手の追加借入利子率は金融機関からの融資利率(会社へのスプレッド等を反映)を参考に必要な調整を行うことで算定されることが想定される※2。しかしながら、たとえば、いわゆる無借金会社等では、追加借入利子率の算定を行うことが実務上難しい場合があると考えられる。この点、IFRS16号の「結論の根拠」では、資産の性質およびリースの契約条件に応じて、借手が自己の追加借入利子率を算定する際の出発点として、容易に観察可能なレート(例として、不動産リースに適用する割引率を算定する際の不動産利回り)を参照できる場合があるとしている(IFRS16号BC162項)。しかしながら、この記述は、これらの観察可能なレートが追加借入利子率を算定する際のインプットの1つとして使用されることを示しているにすぎず、追加借入利子率自体としてそのまま使用することが認められているわけではない点に留意が必要である。ちなみに、多くの関係者が試行錯誤してはいるものの、不動産利回りについては、そこから調整して借手の追加借入利子率を求めることは実務上きわめて困難であるといわれていることは述べておきたい。これは日本だけでなく他国でも状況は同様なようである。

ただし、昨今の日本は超低金利下にあるため、リース期間が短く、リース料そのものも高額でないものは、割引率にどのようなレートを使っても財務諸表に大きな影響を与えない可能性もあることを念頭に、適度な落としどころを探ることも考えられる。

※1「リース料は、リースの計算利子率が容易に算定できる場合には、当該利子率を用いて割り引かなければならない。当該利子率が容易に算定できない場合には、借手は借手の追加借入利子率を使用しなければならない」とされている。

※2追加の借入利子率は、「借手が、同様の期間にわたり、同様の保証を付けて、使用権資産と同様の価値を有する資産を同様の経済環境において獲得するのに必要な資金を借り入れるために支払わなければならないであろう利率」と定義されている(IFRS16号付録A)。

本稿は、旬刊経理情報2018年11月10日号『強制適用まで残りわずか! IFRS16号「リース」への移行準備・最終チェック』に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
IFRSアドバイザリー室 マネジャー
公認会計士 橋本 浩史

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