Case Study:学校法人 早稲田大学

学校法人 早稲田大学が、国内の大学として初めてRPA(Robotic Process Automation)を本格的に活用した事務作業の効率化を成し遂げた。

学校法人 早稲田大学が、国内の大学として初めてRPA(Robotic Process Automation)を本格的に活用した事務作業の効率化を成し遂げた。

創立以来の進取の精神で、国内大学初のRPA本格導入に挑む

年間約22万件の伝票処理にRPAを適用。伝票入力担当者の手間の削減と処理の集中化によって人的負担の軽減を実現した。 

新緑のキャンパス

人のやらないことをいち早くやる校風

早稲田大学は、日本を代表する私立大学の1つだ。約4万人の学部学生と約8,000人の大学院生が学ぶ。グローバル化に熱意を持って取り組んでおり、1980年代に海外大学との協力関係を深め、90年代に大学院の国際化を加速。2000年以降は広く学部レベルでの交流へと段階的に進めてきた。現在は約7,500人の留学生を受け入れており、他方、4,000人以上の日本人学生が海外で学んでいる。

私立大学としての独立性を保ち、独自の校風がある。早稲田大学 理事 大野 髙裕氏は、「早稲田の校風は、悪く言えば泥臭くて不器用かもしれません」と語る。「しかし、人のやらないことをいち早くやる。リスクを取る人がいなくても、自分が行けると見たら先頭を切って突っ込んで行く。そういう人材が、早稲田らしいのです」

建学の精神は、「学問の独立」、「学問の活用」、および「模範国民の造就」。権力や時勢に左右されない自主独立で学問に取り組み、その学問を広く現実社会が抱える課題解決に生かす。そして“模範国民の造就”の精神は、留学生を広く受け入れた今、豊かな人間性を持ったグローバル人材の育成という命題へと飛躍した。

その早稲田大学は、創立150周年に向けた中長期計画「Waseda Vision 150」の只中にある。これは、大学組織としてはユニークな経営計画で、数値目標を明確化し、KPI(重要業績評価指標)を定めている。進化し続ける大学として、そして私学の雄として、新しい取り組みに果敢に挑む。その一環として、2018年4月にERP(統合基幹業務システム)のカットオーバーを迎えた。

学校法人 早稲田大学 大野 髙裕氏(写真中)/伊藤 達哉氏(写真右)/神馬 豊彦氏(写真左)

学校法人 早稲田大学
(中) 理事(情報化推進・本庄プロジェクト) 理工学術院教授 工学博士 大野 髙裕 氏
(右) 情報企画部 次期法人システム支援担当部長 兼 人事部 業務構造改革担当部長 伊藤 達哉 氏
(左) 情報企画部 マネージャー(情報システム担当) 神馬 豊彦 氏

ERPでは解決できない課題

ERP導入の最大の目的は経理業務の効率化および見える化であったが、事務負担軽減という側面も大きい。大学経営を支える職員の業務を標準化・効率化し、定型業務をERPで自動化する。それにより、研究や産学連携のサポート、学生の支援などのフロント業務や、企画などのコア業務に人材を振り向けられる。

ただし、ERPはすべてを自動化してくれるわけではない。システムに入力するのはやはり人の役割であり、なかには、個人に蓄積されたノウハウが必要な業務もあった。その最たるものが支払依頼業務であり、特に研究資金の支払関連業務については職員に多くの負担がかかっていた。

情報企画部 次期法人システム支援担当部長と、人事部 業務構造改革担当部長を兼務する伊藤 達哉氏は、「早稲田大学は、学部・大学院や研究所、法人による100以上の部門に分散した組織です。それぞれの部門が1つの学校のようなもの。その各現場で、職員が部門の予算管理に加えて、教員・研究者の研究費管理の実務を担っています。予算とひも付けて伝票を処理する必要があり、手間のかかる起票業務を行っています」と話す。

伝票入力のために複数の担当者がいる部門もあれば、1人の職員が別業務と兼務する部門もある。研究費は公的資金が充てられることも多いため、監査は厳しく、正確性が要求される。また、使途のルールも案件によって異なる。教員と密に連携しなければならないため、人的リソースを集約することは現実的な解決策にはならない。さらに大きな課題になったのは、件数が極めて多いことだ。伝票処理件数は年間約22万件にも及ぶ。

RPAの適用可能性を探る

2017年5月頃、ERP稼働に向けて準備を進めながらも、支払関連業務体制とその生産性に課題意識を持っていた情報企画部は、RPA(Robotic Process Automation)の存在を知り、別のITプロジェクトで関係のあったKPMGコンサルティング(以下、KPMG)より事例紹介を受けるなどした結果、支払依頼業務へのRPAの適用を考え始めた。同時期に、早稲田大学アカデミックソリューション(以下、WAS)も自社業務の効率化を目的としてRPAの検証を行っていた。

大野氏は、「新しいソリューションだからこそ、使ってみたいという思いもありました」と当時を振り返る。情報企画部はRPAの導入を検討し、業務に適用できそうだとの感触を得た。2017年7~9月にかけて準備を行い、3つのツールを比較した結果、「UiPath」を選定した。

WAS IT推進部 ジェネラルマネジャー 中田 治寿氏は、「UiPathを使い始めてすぐに、“これで課題を解決できる”と感じました」と話す。当初WASが検証したのは、深いIT知識がなくともロボットを作れる別のツールだったが、早稲田大学では“野良ロボット”の発生を避けたい意向があった。「現場で使われていた独自仕様のAccessとExcelが運用標準化の足かせになった経験がある」(大野氏)ためだ。UiPathは、機能的に要求を満たす上に、開発生産性も高く、技術者が主導して高度な仕組みを実装しやすかった。

支払依頼業務のPoC(概念実証:Proof of Concept)段階のパートナーには、KPMGを選んだ。情報企画部 マネージャー 情報システム担当 神馬 豊彦氏は、「PoC段階とはいえ、やりたい内容は決まっていました。ERPでカバーできない伝票入力関連業務の自動化です。他社は“実験をやってみましょう”という提案でしたが、KPMGの提案は“RPAを使って伝票処理業務の自動化を行えることを確認する”という、一歩踏み込んだものでした。また、ノウハウをWASに引き継いでもらいたいという依頼にもこころよく応じてくれました」と話す。

野良ロボット:管理者不明のロボットのこと。あまり容易に開発できると、従来のシステム開発のようなステップを踏む必要がなく、野良ロボットが増えやすいが、ガバナンスが効かず悪影響を及ぼすリスクが生じる。

株式会社早稲田大学アカデミックソリューション 中尾 幸久氏(写真中)/中田 治寿氏(写真左)/櫻井 勝人氏(写真右)

株式会社早稲田大学アカデミックソリューション
(中)専務取締役 中尾 幸久 氏
(左)IT推進部 ジェネラルマネジャー 中田 治寿 氏
(右)IT推進部 シニアコンサルタント 櫻井 勝人 氏

期間内に十分な検証結果を得る

KPMGは2017年10月より、RPAの先行導入および効果検証を支援した。伊藤氏は、「PoC期間内の12月に、実際に使用できるRPAを見せられたときには驚きました。さすがに完璧な状態ではありませんでしたが、わずか3か月で一通り動いて使えそうなシステムになるとは、期待以上の進展でした」と話す。

実は、現場の期待感と効果創出を高めるため、単純なRPA化(業務のロボ置き換え)だけではなく、複雑な要件の組み入れ・実装、業務改善(標準化・簡素化)も合わせて行う必要があり、一般的なRPA導入に比べると複雑で難易度の高いものであった。しかし、KPMGの支援は提案のとおり、通常のPoCの範囲を超えて、先々の運用体制の方針・方向性の検討にも及び、関係者とのディスカッションにより仮説のブラッシュアップを重ね、RPAを起点とした業務改革、まさしくトランスフォーメーションを検証するものになった。同時に、この3か月間に、WASに対してRPA導入のスキル・トランスファーを実施し、1月以降のロボットの追加開発や改修、環境整備などに加え、学内の他業務へのRPA展開を独力で行えるよう協力した。

入力担当者の負担を最小化

今回のRPA導入で気を配ったのは、伝票入力担当者の負担を最小限にすることだった。IT推進部 シニアコンサルタント 櫻井 勝人氏は、「起票を、紙からExcelに移行してもらうことで転記の手間を省きました。またシステムによる二重の検証プロセスを設けて効率化を実現しました」と話す。1つ目の検証プロセスは、Excel伝票の入力項目にチェック機能を設定したことだ。それにより入力ミスを回避する。さらに2つ目として、サーバに格納されたそれらのExcelファイルを、RPAのロボットが自動的に検証する。ここで不備があれば担当者に戻し、問題のない伝票はロボットが自動的にERPに登録する。試算では、1件あたりの処理時間が30%程度短縮され、大学全体では年間4万時間近くの職員の時間を節約できる見込みだ。

12月中にベースとなるRPAが出来上がっていたため、1月から3月の開発プロセスは現場の声を受けてロボットの性能をブラッシュアップすることが中心となった。神馬氏は、「すべてが前倒しで進みました。1月にWASに引き継いでもらってから、現場でのRPA導入後の業務検証およびマニュアル作りの時間を十分に取れたことで、4月のERPとRPAの稼働時はスムーズに業務を開始することができました」と振り返る。

2018年1月からは、ほぼWASのみで開発を進め、ユーザー教育や運用プロセスの確定、ドキュメント整備も行い、4月の稼働に間に合わせた。

支払依頼業務の業務改善およびRPAによる自動化(イメージ)

支払依頼業務の業務改善およびRPAによる自動化(イメージ)

大学の成長は、職員の力で

WAS 専務取締役 中尾 幸久氏は、「WASにとっても、今回のプロジェクトは大きなチャンスでありチャレンジでした。早稲田大学がより良い大学になるために力を尽くすと共に、このプロジェクトをモデルケースとして他大学に成功体験を横展開し、日本の大学全体をより良くすることにつなげたいと考えています」と話す。

また、大野氏は、「これからの大学は、職員の力が問われます」と語る。「以前は教員が中心となって大学を動かして来ましたし、早稲田大学の教授になることが教員のゴールでした。しかし今、グローバルで教員の流動化が進み、教員の早稲田精神に対するロイヤリティは醸成しづらくなっています。今後は、一生の仕事として職員の道を選び、早稲田精神を育んでくれる人材が長期的な視座から大学を動かしていくべきです。そのためにも、職員にクリエイティビティを発揮してもらえるよう、定型業務はどんどん標準化、自動化していきます」

学校法人 早稲田大学

概要 1882年10月21日に創設された東京専門学校が前身。1902年、現校名に改称。以来、”官学に匹敵する高等教育機関の育成”という大隈重信の理想を現実のものとし、”私学の雄”として数多くの逸材をさまざまな分野に輩出している。
こうした伝統を基盤に、2012年秋に策定された”Waseda Vision 150”のもと、世界の大学教育をリードする「WASEDA」であり続けるために、前進を続けている。
URL http://www.waseda.jp
本部キャンパス所在地 東京都新宿区西早稲田1-6-1

株式会社早稲田大学アカデミックソリューション

概要 早稲田大学の関連企業であり、情報システムの運用保守および利用者支援サービスを提供。教育・研究・大学運営支援のプロフェッショナルとしての大学向けサービスに加え、先進技術を生かした民間向けサービスも提供する。
URL http://www.w-as.jp
本社所在地 新宿区西早稲田1-9-12 大隈スクエアビル2階

KPMGの支援内容

プロジェクト名 RPA先行導入プロジェクト
期間 2017年10月~12月
支援内容 支払依頼業務を対象としたRPA導入支援、その業務効果および親和性の評価、RPA運用課題の分析・対応施策の策定、株式会社早稲田大学アカデミックソリューション(WAS)へのRPA構築・運用のスキル・トランスファー

KPMGコンサルティングより

この度は、大学へのRPA導入という国内初の試みに関与させていただき、光栄です。
本件は、KPMGがかかわったRPAプロジェクトの中でも最大規模かつ極めて複雑なものでしたが、今回の成果から、他にも多大な効果を見込める業務領域が数多く存在すると考えられます。早稲田大学様には、RPA導入ノウハウを取得された早稲田大学アカデミックソリューション様とともに、ぜひ改革を進めていただきたいと存じます。
KPMGは、RPAやAIなどのデジタル化技術を活用した、ビジネスプロセスの合理化・最適化の手法・経験を多数有しておりますので、引き続き、早稲田大学様のご発展を支援させていただけましたら幸いです。


KPMGコンサルティング株式会社
パートナー 関 穣
ディレクター 柴田 隆治

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