税務戦略を事業戦略の一環と位置付けることが、企業の持続的成長をもたらす

グローバルサプライチェーン構築や知的財産権の供与方法など事業戦略の策定において、税務戦略の有無が税引後利益に多大な影響を与えるケースは少なくない。今後は、税務も事業の一部として捉え、事業戦略を策定することがますます重要になるだろう。

事業戦略の策定において、税務戦略の有無が税引後利益に多大な影響を与えるケースは少なくない。税務も事業の一部として捉え、事業戦略を策定することがますます重要になるだろう。

税務戦略はオペレーション(事業)であるという認識

税務戦略はオペレーション(事業)であるという認識

事業計画に税務の視点を導入することの重要性

日本企業においては、収益を生み出す事業こそが重要であって、税務は利益が確定した後の「事後処理」にすぎない、とのイメージが根強い。しかし、こうした考え方は、適切でないばかりか企業価値を損なう可能性すらある。法令遵守の範囲内でタックスプランニングをすることは、企業にとって正当な行為であるばかりでなく、企業価値を最大化するために欠かせない手段であるといっても過言ではない。

欧米のグローバル企業は、税務もまた事業の一部であると認識し、税務戦略を事業戦略の一環と位置付けている。それが行きすぎて、BEPSによる租税回避の問題を引き起こしたことは前回も述べたが、この一件は、税務を念頭にビジネスモデルを組み立てることが、企業経営にいかに恩恵をもたらすかをはからずも証明する結果となった。

一方、日本では、税務の視点を入れて事業計画を策定している企業は、まだまだ少ないのが現状である。事業計画が完成した後で、税務上は大変な矛盾があることが発覚しても、「今さら、事業部が決めた事業計画を覆すことはできない」と、手をこまねいている税務部門も少なくない。

タックスプランニングなくして真のROE経営は実現しない

なぜ、こうした事態が起こってしまうのか。最大の理由は、日本企業の多くが、「税務は事業の一部である」ということを認識していない点にある。

例えば、海外に子会社を設立する場合、資本金の設定や商流の作り方、会社の形態などによって、現地での課税額は大きく変わってくる。課税額が増えれば増えるほど、税引後の利益は圧縮されてしまうわけであるから、本来、税務を事業と切り離して考えることはできないはずである。

近年、日本でも企業経営の投資対効果を重視する機運が高まり、ROE(Return On Equity)経営を掲げる経営トップが増えている。ここで言うReturnとは「税引後の利益」のことである。

このことは、税金に対する配慮なくしてROE経営は成り立たない、ということを意味している。にもかかわらず、日本では、ROE経営といっても売上増大やコスト削減に焦点が当たりがちで、タックスプランニングを重要な施策として掲げているケースは少ない。どのような事業設計をすれば節税できるのかを熟慮した上で、事業計画を立てるべきであるにもかかわらず、こうした取り組みはなかなか行われていないのが実情だ。

税務戦略の不在が事業にもたらすさまざまなデメリット

こうした税務戦略不在の状況は、事業面でもさまざまなデメリットをもたらす。

例えば、税務戦略の有無によって大きく明暗が分かれるのが、グローバルサプライチェーンの構築だ。仮に、世界各地に複数の製造拠点を持っている場合、各拠点がそれぞれ原材料を調達するよりも、低税率国の拠点に原材料の調達を集約し、そこから各国の拠点に向けて原材料を配送したほうが、トータルの税額が安くなる可能性がある。

また、知的財産権の供与に係るグローバルサプライチェーンモデルについても、税務戦略の不在が大きな損失につながるケースの1つである。例えば、研究開発にともなう知的財産権を日本の本社に帰属させて各国製造会社に技術供与しているケースでは、各国の製造子会社から日本の本社に対してロイヤリティの支払いが発生する。その際、源泉税が徴収され現地の税務当局へ納付されるが、問題は、日本の親会社が赤字を計上している場合である。本来なら、赤字企業として法人税コストが発生しないにもかかわらず、ロイヤリティについては現地国で源泉税を徴収されてしまい、税金の払いすぎが発生してしまうのである。

このように、サプライチェーンの組み立て方によっては大幅なタックスプランニングが可能であるにもかかわらず、その点に対する配慮が一切ないまま、多額の税金を納めている企業があまりにも多いのが実態だ。

ビジネスリーダーが率先して意識改革に取り組むことが重要

しかしながら、こうした事態の発生を防ぐ方法がないわけではない。1つの例として、日本を製造販売拠点にして製造原価と売上を計上し、海外の拠点に製造を「委託」するという方法がある。サプライチェーンの変更にともなう事業上のさまざまな検討事項が発生し、また、製造委託手数料の設定時に移転価格税制の観点から細心の注意を払う必要があるものの、この方法なら、ロイヤリティ自体が発生しないため、ロイヤリティにかかる源泉税を節税することができる。

このように、税務の観点を入れて事業全体の枠組みを設計することは、税引後利益の拡大に測り知れない効果をもたらす。今後は、税務も事業の一部であるという認識を会社全体で共有し、事業戦略の策定にあたって税務の視点を導入することがますます重要になるだろう。

そのためには、経営トップや事業部を率いるビジネスリーダーが旗振り役となり、改革を実行していくことが必須だ。税務を単なる事後処理ではなく、オペレーションの一部と認識できるかどうかで、5年後、10年後の成長率は大きく変わってくる。今こそ、日本企業は税務を事業戦略に欠かせない要素の一つと捉え、全社的な意識改革を進めていくことが肝要である。

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