勃興するインバウンド産業を下支えする「インバウンドテック」とその未来は?
本稿では、インバウンドテックに焦点をあて、勃興するサービスを解説し、発展の方向性と未来について考察します。
本稿では、インバウンドテックに焦点をあて、勃興するサービスを解説し、発展の方向性と未来について考察します。
ハイライト
- 成長が期待されるインバウンドマーケットにおいて、IT活用を得意する新しいインバウンドテックサービスが勃興してきている。背景には、旅行者のITリテラシーの向上と日本固有のインバウンドビジネス課題があり、既存のインバウンド事業者ではカバーできない領域に、新興インバウンドテックサービスが登場し、相互補完の関係を形成している状況がある。
- インバウンドビジネスの動向を整理し、勃興するインバウンドテックサービスに焦点をあて、既存のインバウンド事業者との関わり、IT活用方法、サービス提供領域を訪日外国人の動線に沿って解説する。
- また、海外では、シェアリングエコノミーの概念で、インバウンド領域で急速に事業を拡大している新しい事業者が存在感を増している。その動向から、今後のインバウンドテックサービスの発展の方向性とそれらサービスの活用、連携の戦略について考察し、既存のインバウンド事業者が取り組むべき方向性についても、モデルケースとなりうる取組みを紹介し、示唆をこころみる。
いま、インバウンドビジネスが注目を集めている。政府は、訪日外国人観光客数の目標を2020年に年間2,000万人から4,000万人、2030年に6,000万人に引き上げた。さらに2020年には訪日外国人旅行消費額を8兆円、地方部での外国人延べ宿泊者数を7,000万人泊、外国人リピーター数を2,400万人まで増やす目標値を発表した。かなり意欲的な目標であるが、少子高齢化に伴う日本の人口減少、内需の先細りが憂慮される中、訪日外国人の消費は景気刺激の特効薬であり、達成しなくてはならない目標値である。現在の訪日外国人旅行消費額は3兆4771億円であり、日本のGDP500兆円からすれば1%に満たないが、訪日外国人旅行消費額が5年間の平均で44%増加しており、日本全体の名目GDPは1.5%成長程度にとどまっていることから、GDP600兆円の達成に向けて決して無視できない重要なマーケットであると言える。
そうした注目を集めるインバウンド業界において、Fintechに代表される【業界特性】×【Technology(IT活用)】によって訪日外国人の満足度向上や収益性の向上を狙う潮流が押し寄せている。背景には、旅行者個々のITリテラシーの向上が主たる要因ではあるが、そもそも受入れに必要なインフラ・人材の不足・言語の壁という日本固有のインバウンドビジネス課題があり、急激に拡大するインバンドマーケットにおいて既存のインバウンド事業者ではカバーできない領域に、ITの活用を得意とする新興インバウンドテックサービスが登場し、相互補完の関係を形成している状況がある。政府発表の目標の達成、2020年の東京オリンピック後も見据え、インバウンドビジネスを持続的に成長させ日本が観光先進国を目指すためにも、新興インバウンドテックサービスは欠かすことのできない存在となってきている。
本稿では、【インバウンド業界】×【Technology】である【インバウンドテック】について焦点をあて、勃興してきている新しいインバウンドテックサービスを解説し、その未来について考察する。
訪日外国人旅行者数と消費額推移
目次
インバウンドビジネスの動向
まず、インバウンドビジネスの概況について解説する。外国人観光客は、団体旅行客と個人旅行客に分けられるが、個人旅行客、とりわけリピート客の割合が増加傾向にある。昨今よく取り上げられる中国人旅行者の爆買いは、主に団体旅行客の話であるが、その中国人旅行者においても、個人旅行者の割合は既に半数を超えており、ITリテラシーの高いリピーターの旅行客は自身の好みの旅行を設計し、より質の高い旅行経験を求めている。
そうした個人旅行客の増加に伴い、訪日外国人のニーズが単に「ショッピングがしたい」、「日本食を食べたい」、「日本酒を飲みたい」といった一般的な旅行客の消費ニーズから変化してきている。訪日外国人の消費動向アンケートによると次回日本を訪れた時にしたいことに、「四季の体感」「日本の日常生活体験」「日本の歴史・伝統文化体験」の回答が多くなってきており、現地の人との触れ合いなど“体験型”の旅行、さらには、ニューツーリズム(エコ、ヘルス等)へと多様化してきている。ニューツーリズムとは、これまで観光の視点でとらえていなかった地域独自資源を体験や交流という要素と組み合わせて旅行者に提供するものである。例えば、エコツーリズムは、地域ぐるみで自然環境や歴史文化など、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながっていくことを目指していく仕組みである。これは端的に言うと日本人と同じ生活をあらゆる面で経験したいという訪日外国人のニーズが高まっていることを表している。
SNS、口コミサイトなどの情報源の充実と旅行者のITリテラシーの向上により、観光地などの情報をより深く、多く知ることができるため、それに伴い旅行に対するニーズも広く、深くなった結果であると言える。
同様に訪問地も変化が起きており、東京~富士山~京都~大阪を巡るいわゆる「ゴールデンルート」、金沢~飛騨高山~名古屋を巡る「昇龍道」、北海道、九州、沖縄などの主要観光都市のみならず、日本全国津々浦々に広がりをみせている。
一方で、移動手段や宿泊施設のキャパシティ不足、通信環境や電子決済・免税等の環境整備、多言語での情報サービス等インフラレベルの整備・拡充が課題となっている。
勃興するインバウンドテックサービス
外国人観光客、特に個人旅行者の増加に伴うニーズの変化と日本のインバウンドビジネスの課題を背景に、既存インバウンド事業者を補完する様々な新しいインバウンドテックサービスが現れている。
スマートフォン・センサー・クラウド等のITを活用し、移動、宿泊、食事、買い物等の訪日中の局面で、既存のインバウンド事業者を支援し、訪日外国人の利便性を向上させるサービスや、旅行に関わる情報・資源・サービスをプラットフォーム化し、インバウンド事業者・現地の人間と旅行者のマッチング・ブッキングを行うサービスである。シェアリングエコノミーという仕組み(使われずに遊休しているものやサービスを共有して活用するもの)で空き家や空き部屋を共有して宿泊する民泊や移動手段として個人所有の車を活用するライドシェアも、プラットフォーム化の一例である。
では、旅行者の動線に沿って、インバウンドテックサービスを紹介していく。
旅行者と現地事業者・人をつなぐ
まず、旅行者が計画する段階では、いつか旅行する時の「目的地候補」に入るための情報発信が必要である。また、予算・目的地が決まっている、または複数の候補を比較している状態では、現地で何をすれば楽しめるのかといった、より詳細な情報を提供することが必要となる。
この段階での主役は、SNS、口コミサイト、インバウンドメディアである。【Facebook】【微博(ウェイボー)】等のSNSは、インバウンド事業者と旅行者の双方向のコミュケーションが可能であり、【TripAdvisor】【Yelp】等の口コミサイトは、寄せられた評価が直接的な需要につながる。インバウンド事業者側はこの段階で、これらのチャネルを利用して旅行予定者に対して魅力を訴えかけ、呼び込むための効果的な情報を発信する仕組みを提供することが重要となる。
代表的なサービスは、中国最大のSNSである【微博】をターゲットに影響力の高いソーシャルバイヤーに情報を提供し、訪日中国人の「爆買い」につながる“買い物リスト”へリストアップされる仕組みを提供する【Find Japan】、インバウンド事業者、自治体、現地に住む個人等が旅行予定者に多言語で情報を発信・共有するサービス【MATCHA】【JAPAN TIMELINE】、日本のツアーガイドなどとオンラインで相談して訪日中の旅程を検討する【GUIDEST】である。インバウンドメディア、SNS、口コミサイトを介し、インバウンド事業者のプロモーション(情報発信、情報提供)をサポートするサービスである。
勃興するインバウンドテックのサービス領域
旅行者に快適さと体験を提供
次に目的地や日程が決まった後は、目的地への移動や宿泊場所、訪れる場所やアクティビティの具体的な計画を立て、予約しておく必要があり、主に旅行会社、予約サイトなどが利用されることになる。
単に買い物や観光地を巡るだけではない「四季の体感」「日本の日常生活体験」「日本の歴史・伝統文化体験」「医療観光」などの多様なニーズを的確に把握し、サービスとして提供できることがこの段階では重要となる。
代表的なものを紹介すると、普段の暮らしに触れられるような現地の人と出会う機会を提供する【Voyagin】、家庭料理を食べたい人と自宅で料理する人を結び付ける【KitchHike】、体験を重視した現地密着型のツアー予約サイト【Viator】、中国最大のオンライン旅行会社【Ctrip】と提携し、訪日中国人向けに人間ドック・健診が予約できるサイト【ジャパンメディカル】である。
いずれも、「体験」をサービスとして提供するための新しいプラットフォームを構築し、旅行者と現地の人・インバウンド事業者のマッチング・ブッキングを行うサービスである。
そして、目的地に到着し、旅の目的である「体験」を得る段階では、現地のツアーガイド、電車やタクシーなどの交通機関、ホテルや旅館などの宿泊施設、飲食や小売りなど様々なサービスを利用することになる。現状、宿泊や移動といったインフラのキャパシティは、既存のインバウンド関連事業者だけでは今後の訪日外国人の増加に対応できない状況にある。観光庁の宿泊旅行統計調査によると、平成27年度の全国の客室稼働率は全体で60.5%、三大都市圏においては80%を超えており、中継ハブとなる主要都市の宿泊と地方の観光地への2次移動(特に観光バスの不足)のキャパシティの確保は重要な課題である。また、滞在期間中の言語、買い物・食事の決済、免税などの不便を解消しておくことが重要となる。
1点目のキャパシティの確保に向けては、民泊やライドシェアなどシェアリングエコノミーの概念で、ホテルや旅館以外の住居などを宿泊施設として旅行者に提供する【Airbnb】【Homeaway】、タクシーや個人所有の自動車を移動手段として提供する【Uber】【Lyft】などの遊休資産を活用するための新しいプラットフォーム上で、旅行者とのマッチング・ブッキングを行いインフラのキャパシティ不足を補うサービスが存在感を高めつつある。
2点目の旅行客の利便性向上に向けては、スマートフォンでカード決済ができる【Square】【Airレジ】、ペーパービーコン(センサー)にスマートフォンを乗せるだけでメニュー翻訳や注文ができる【Putmenu】、現在地からエリアガイドや目的別の施設検索、移動案内などを多言語で提供する【LIVE JAPAN】、インターネットを介して在宅主婦が顧客対応時の通訳を支援する【シュフティ】【クラウド通訳】、スマートフォンのGPS連動で観光スポットに近づくと音声案内を多言語で案内する【Wanderpass】などである。いずれも、移動、宿泊、食事、買い物等の訪日中の各局面で、既存のインバウンド事業者を支援し、スマートフォン・センサー・クラウド等の先端テクノロジーの活用により、電子決済、通訳、多言語での情報提供を行い、訪日外国人の利便性を向上させるサービスである。
共有・追体験でリピーターを増やす
最後に、旅先で得た「体験」を周囲との共有、追体験をする段階となるが、近年では写真や動画などSNSや予約サイトでのフィードバックなどといった形で共有・発信され、個人輸入や越境ECなどを通じて旅行先にあったものを購入するなど追体験がなされている。
越境ECとは、ECサイト同様、インターネットを使用した通信販売であるが、自国内向け(母国語)のサイトではなく、外国語のサイトを設け、積極的に海外の消費者に販売する形態である。
当然ながらSNSや口コミサイト、あるいは予約サイトに登録された情報は蓄積され、シェアした旅行者自身やその友人、知人さらにはその内容を見た外国人が旅行の計画を立てる段階において、意思決定に影響を与える重要な要素となる。
共有という点では既に紹介した【Find Japan】、追体験という点では、EC事業者向けに言語や通貨を各国に合わせて自動変換する【Jselection】、東南アジア市場向けのサイト開設、多言語対応、決済代行、物流をワンストップサポートする【EC-PORT】などである。日本の商品を外国から購入できる越境ECを実現するためのEC事業者を支援するサービスである。
このように、インバウンド事業者を支援し、訪日外国人の利便性を向上させるBtoCの分野と、旅行に関わる情報・資源・サービスをプラットフォーム化し、旅行者のニーズに対応した情報提供・情報共有と、インバウンド事業者と旅行者のマッチング・ブッキングを行うBtoC、CtoCの分野にインバウンドテックサービスが勃興し日本のインバウンド産業を下支えしている。
海外のインバウンドテックサービスの動向
海外のインバウンドテックサービスの動向はどうだろうか?日本より先行し市場規模が拡大しているシェアリングエコノミーの分野では、シェアリングエコノミーのプラットフォームを利用して新たなビジネスを展開するサービスが派生してきている。
自動車を所有していない個人が【Uber】【Lyft】でサービスを提供するために自動車をレンタルできる【BREEZE】、【Uber】なども考慮して目的地までの最適なルートを検索する【RideScout】、【HomeAway】などの別荘として利用される物件の管理・メンテンスを行う【Evolve】などである。
日本でも既に民泊で鍵の受け渡しを不要にするオンライン鍵管理サービス【Akerun】【Qrio Smart Lock】、物件運用者や投資家向けの民泊データ分析サービス【AirDNA】などが立ち上がっており、日本においても、今後これらシェアリングエコノミーのプラットフォームを活用するサービスが登場してくることが予想される。
また、旅行者向けサービス(BtoC)分野ではなく、インバウンド事業運営を支援するBtoB分野のサービスが海外では注目を集めつつある。ホテルの需要予測に基づきレベニューマネジメントをクラウドで提供する【Duetto】、航空業界・ホテル業界の各サイトの訪問データを市場予測や広告のターゲティングとして活用する【ADARA】などである。
インバウンドテックサービスの未来
日本におけるインバウンドテックサービスおよび海外の動向を紹介したが、これらインバウンドテックサービスは今後どのように発展をしていくのだろうか?まず、移動、宿泊、食事、買い物等の訪日中の各局面で訪日外国人の利便性を向上させるためのサービスは、スマートフォン、センサー、クラウド、AI等の先端テクノロジーの活用が進み、今後も続々と新しいインバウンドテックサービスが登場するのではないかと思われる。
一方で、旅行に関わる情報・資源・サービスをプラットフォーム化しマッチング・ブッキングを行うBtoC、CtoC分野は、シェアリングエコノミーを中心としてさらなる発展をしていくのでないかと思われる。
インバウンド市場規模自体の拡大に加えて、現地で本物の体験をしたい、つながりを持ちたいという借手のニーズと、自身の遊休資産を活用して通常収入以外の収入源を得たいという貸手のニーズをITの活用により容易にマッチングができ、個人間の支払いができるシェアリングエコノミーのプラットフォームは、旅行ビジネス全体の受け皿となり、旅行関連ビジネスを統合する旅行ビジネスのプラットフォーマーとなっていくのではないかと思われる。
旅行ビジネスのプラットフォーマー
旅行ビジネスのプラットフォーマーとは、【Airbnb】が宿泊の提供という枠を超えて、旅行者にあらゆるサービスを提供するプラットフォームに進化しようとしていることが代表例である。宿泊に加えて、移動、小売り、食事、観光施設を含めた旅行に関わるサービス全てを提供すると宣言している。旅行ビジネスのプラットフォーマーと言える。また、これらプラットフォームを利用し新しいビジネスを開始する派生サービスが多く登場し、旅行ビジネスの統合プラットフォームとしてさらに成長していくと考えられる。
また、特定のカテゴリーのサービスを統合するアグリゲーターも海外ではサービスを開始している。例えば、【Uber】なども考慮して目的地までの最適なルートを検索する【RideScout】を紹介したが、電車、バス、タクシーなどの既存の交通機関、自転車、相乗りなどのシェアサービス、【Uber】、【Lift】などの配車サービスも含めた最適な移動手段に加えて、それぞれの最適経路、予約も可能なサービスである。車に関するシェアサービスのプラットフォーム(【Uber】や【Lyft】)の上位に位置する移動にシェアサービスのアグリゲーターといえる。これらは、人の移動だけに止まらず物流サービスへの広がりも考えられる。
海外で登場しているサービスのアグリゲーター
インバウンドビジネスの未来は?
インバウンドテックサービスが今後さらに発展し、旅行ビジネスのプラットフォーマーやサービスのアグリゲーターが登場すると予想される中、既存のインバウンド事業者は、これらプラットフォーマーにどのように対処すれば良いのだろうか?
まず、先にも述べたが現状、宿泊や移動といったインフラキャパシティは、既存のインバウンド事業者だけでは今後の訪日外国人の増加に対応できない状況にある。インバウンドビジネスを日本全国に広げていくために、キャパシティの不足は、日本の観光先進国への足かせとなる可能性が強く、全体のキャパシティを押し上げることは必須である。既存のインバウンド事業者およびそれ以外の事業者においても、信用度(安全性、正確性)の高い製品、既存資源を有効に活用するチャンスでもある。
そのためには、前述のプラットフォーマーと連携・共存していくことが必要であると思われる。具体的には、遊休資源、製品、サービスのプラットフォームへの組込みや自社の人財、ノウハウを活かしたプラットフォーム上での派生ビジネスの展開である。
次に、既存インバウンド事業者は、どのような方向に進めば良いだろうか?
既存のインバウンド事業者は、プラットフォーマーにない国内旅行者向けに培ってきた現地運営のノウハウと訪日外国人の満足度に最も大きな影響を与える「体験」の源泉となる現地の人・周辺施設・観光コンテンツと直接的な接点を持っている。その利点を活かし、リピーターを生み出す訪日外国人向けのコミュニティの組成や日本において不足している富裕層向けサービスの整備、観光コンテンツの付加価値向上、ツーリストトラップ(地元の意向と旅行者の意向・目的とのギャップ)をなくす等の「滞在地域そのものの魅力・価値を高めるサービス」の拡充を行っていく必要がある。さらに、決済、免税、通信、物流といったインフラレベルの不便を解消する「利便性を高める旅行関連インフラ」の整備を行い、地域として訪日外国人のユーザーエクスぺリエンスを究極的に高めていくことが重要であると思われる。
これら地域の魅力や利便性を高める取組みを実現するためには、ITを活用するインバウンドテックサービスと積極的に協業し、地域のインバウンド事業者のサービスと価値を有機的に結合させる存在が不可欠であり、旅行会社や主要観光地を抱える交通機関各社や地域の主要産業がその役割(ローカルインテグレーター)を担っていくことが必要とされるのではないかと思われる。
地域の魅力・利便性を向上させるローカルインテグレーター
この方向性のサービス、インフラ整備に関してモデルケースとなる取組みが、福岡県の天神地下街で行われた訪日前プロモーション・商業施設向け同時通訳・位置情報・免税処理・電子決済をワンストップで提供する【トータルインバウンドサービス】の実証実験や、2020年の東京オリンピックに向けて総務省の都市サービスの高度化ワーキンググループが推進している【おもてなしICカード(仮称)】【IoTおもてなしクラウド事業】である。また、ローカルインテグレーターの担い手として期待されるのが、政府の施策である「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2015」に掲げられている観光地域づくりを行う「DMO(Destination Marketing/Management Organization)という組織・機能構想である。これらのモデルケース、組織構想は、実証実験、構想の段階であるが、実用的な取組みとして東京や主要都市、観光地のみで終わらせることなく、各地域に広げていくことが日本の観光先進国への重要なステップとなるのではないだろうか。
以上が、インバウンドビジネスの未来の方向性の1つである。冒頭でも述べたとおり、近い将来、日本の人口の半数に相当する外国人が訪れる時代を迎えようとしている。このインバウンド需要を取り込み日本が観光先進国を目指すためには、政府、関連各省庁、地方自治体、インバウンド関連事業者、インバウンドテックサービスのみならず、官民一体となったオールジャパン体制での取組みが必要である。インバウンドビジネス業界に限らず、この機会を重要なビジネスチャンスととらえ、自社資源をいかに活用するか、勃興するインバウンドテックサービスとどのように連携、協業していくか、オールジャパンの一員として、インバウンドビジネスの戦略を検討する上での材料となれば幸いである。
執筆者
KPMGコンサルティング株式会社
マネジメントコンサルティング
ディレクター 秋澤 博文