2024年11月14日(日本時間)にポルトガルのリスボンで開催された「Global Tech Innovator Competition 2024」世界大会。世界各国における1,500もの企業のなかから選出されたスタートアップ23社がレベルの高いピッチを行うなか、最優秀賞を受賞したのは日本代表のThermalytica社。世界大会で登壇した同社最高技術責任者のCTO (FOUNDER)のラダー・ウー氏は素晴らしいピッチで世界を制しました。快挙を成し遂げたウー氏に、KPMGジャパン/あずさ監査法人の阿部博がインタビューを行いました。

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将来は起業することを見据え来日を決めた

阿部 世界大会での優勝おめでとうございます。ウーさんはさまざまな国でキャリアを築いていらっしゃいますが、今までのご経歴などを簡単に教えていただけますか?

ウー氏 私は台湾で生まれ、中学卒業後に家族とともにカナダに移住して、カナダでトップクラスとされるブリティッシュコロンビア大学(UBC)に進学しました。当時から材料工学に強い興味を抱いており、卒業後は材料工学で世界的に有名なインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)に留学、修士号と博士号(Ph.D)を取得しました。その後来日し、2009年にフェローとして茨城県つくば市にある国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の若手国際研究センター(ICYS)に入りました。

阿部 日本に来られたのにはどのような理由があったのでしょう?

ウー氏 「21世紀はアジアの時代」と言われていますし、ずっとアジアに戻りたいという気持ちがありました。NIMSは材料工学では世界でもトップクラスの研究機関で、イギリスの大学院で学んでいるころから論文などでその名を目にする機会もありました。さらに私はいつか起業したいと思っていたのですが、起業する場合はその国の市場規模が重要です。日本は当時、世界第2位の経済大国でしたから、その点も魅力でした。

阿部 その後、GTICでもプレゼンされた超断熱新素材TIISA®を開発し、特許を出願されたわけですね。開発にあたって留意されたことはあるのでしょうか?

ウー氏 方向性が似たような研究グループが多いなか、いかに自分ならではのオリジナリティを追及するかに腐心しました。特許を取得するには進歩性、新規性、経済性の3つが揃うことが大切だと考えています。TIISA®は熱伝導を大幅に減少させる画期的な超絶熱エアロゲルで、2016年の開発後、2021年にはベンチャー企業Thermalytica社のCTO(FOUNDER)となりました。

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ラダー・ウー氏(Rudder WU)

株式会社Thermalytica CTO (FOUNDER)

(略歴)
台湾生まれ。中学卒業後カナダに移住。ブリティッシュコロンビア大学卒業後、イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンでPh.Dを取得。2009年に来日。NIMS主任研究員を務めるほか、2021年に株式会社Thermalyticaを設立、CTOを務める。

将来ではなく目の前の課題を解決できることをアピールした

阿部 日本予選ではHead of Corporate Strategy(経営戦略部 部長)の篠本遼さんが登壇され、リスボンでの世界大会では英語が堪能なウーさんが登壇されました。現地には大変優秀な人々が集まり、各国代表が素晴らしいピッチを披露して、まさにどこが勝ってもおかしくないという状況でしたが、そのようななかでThermalytica社が優勝できた要因はどこにあると思いますか?

ウー氏 将来的な可能性という点では高い技術力を持つスタートアップがいくつかありましたが、彼らと差別化を図るにはどうしたらよいかと考え、「我々の技術は“将来”ではなく、目の前にある環境問題をすぐに解決できる」という点が伝わるようにアレンジしました。その方がよりインパクトを与えられるだろうと考えたのです。

阿部 技術力そのものがすごいのはもちろんですが、ウーさんのピッチはわかりやすく、皆さんがその技術力の高さをすんなりと納得できたと感じました。技術力と英語力とピッチ力、これらが揃わないと世界ではなかなか勝てないかもしれません。

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阿部 博(Hiroshi ABE)

KPMGジャパン プライベートエンタープライズセクター スタートアップ統轄パートナー/あずさ監査法人 企業成長支援本部 パートナー

(略歴)
監査業務のほか、大学発スタートアップへのサポートや、オープンイノベーションのイベントを推進。KPMGジャパンの活動として、スタートアップの発掘・育成支援に従事している。

日本の研究者はもっと起業に目を向けるべき

ウー氏 スタートアップのピッチと研究者の発表は全然違いますよね。研究者の“発表”は皆さんにもっと理解していただきたい気持ちが強いため、情報量が多く長くなりがちです。一方、スタートアップのピッチは「One slide one message(1つのスライドには必ずワンメッセージでクリアに)」が鉄則です。

阿部 そういう意味では、ウーさんは研究者でもありながら、やはり起業家なのかなと感じます。

ウー氏 Thermalytica社の本拠地である茨城県つくば市は研究者が非常に多い街です。つくばに眠る“技術の埋蔵量”はすごいものがあると思っています。日本の研究者は非常にまじめで優秀なのですが、研究に没頭しすぎて起業のことを考えていないのはもったいないと思います。研究者自身が起業するか、起業したい若者などと連携することなどがもっと必要ではないでしょうか。

阿部 実は世界大会が終わったあとの交流会で、他国のKPMGの人から「グッド・チョイス」と声をかけられたんです。ウーさんもおっしゃったように、つくばをはじめ日本にはすごい技術がたくさん眠っているわけですが、そのようななかで、世界で認められるような選択をしたのはよくやったね、という意味でした。KPMGジャパンとしては今後も、世界は何を求めていて、どうすれば世界で勝てるかという視点のもとに、スタートアップを支援していきたいと思っています。Thermalytica社に続くようなスタートアップが日本からどんどん出てくれば、もっともっと日本は発展していくのではないかと思います。

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