KPMG、「Pulse of Fintech 2023」を発表

不動産テック投資額は2022年の41億米ドルから134億米ドルへと3倍以上増加、苦境の年にも明るい兆しを見せる

KPMGインターナショナルは、世界のフィンテック投資の動向に焦点を当てた報告書「Pulse of Fintech 2023」を発表しました。

  • 2023年、南北アメリカは世界のフィンテック資金総額の約70%を占め、783億米ドルを集めた
  • 2023年におけるフィンテックへのグローバルVC投資は、2022年の888億米ドルから463億米ドルに半減

(本プレスリリースは、2024年2月6日にKPMGインターナショナルが発表したプレスリリース の日本語の抄訳版です。内容および解釈は英語の原文を優先します)

 

KPMGインターナショナル(チェアマン:ビル・トーマス)は、世界のフィンテック投資の動向に焦点を当てた報告書「Pulse of Fintech 2023」を発表しました。世界のフィンテック投資総額は、2022年の7,515件1,966億米ドルから2023年には4,547件1,137億米ドルへと減少し、過去6年間で最低の水準となりました。ウクライナ・中東での紛争、高金利環境、そして世界各地でイグジットが停滞する状況下、フィンテック投資家は年間を通して現金を手放さず、フィンテック市場にとって厳しい年となりました。

2023年下半期のフィンテック投資は、上半期の555億米ドルから582億米ドルへとわずかに増加しました。この結果には10億米ドル以上の取引が6つ含まれており、米国Black Knightがインターコンチネンタル取引所(ICE)によって117億米ドルで買収された取引や、ナスダックによる米国Adenzaの105億米ドルの買収、英国Finastraによる69億米ドルのPE調達、Ceteraによる米国Avantaxの12億米ドルの買収、米国Generateによる10億米ドルのVC調達、米国VisaによるブラジルPismoの10億米ドルの買収など10億米ドル以上の取引がこの結果に大きく貢献しました。一方、VC投資は振るわず、2023年上半期から下半期にかけて275億米ドルから188億米ドルに減少しました。

地域別では、南北アメリカが2023年のフィンテック資金全体の70%近くを占め、2,136件の取引で783億米ドルに達しました。そのうち、米国がこの投資の大部分(735億米ドル)を占める結果となりました。これに対してEMEA(欧州、中東およびアフリカ)地域では1,514件の取引を通じて245億米ドルのフィンテック投資が行われ、アジア太平洋地域では882件で108億米ドルが投資されました。
セクター別では、決済分野が世界のフィンテック投資で最大のシェア(207億米ドル)を占めましたが、これは2022年の580億米ドルから大幅に減少したものです。一方で、不動産テックとESGは投資家の間で非常に人気がありました。不動産テック投資は2023年に史上最高額の134億米ドルに達し、ESGに特化したフィンテック投資は前年の12億米ドルから23億米ドルに増加しました。

KPMGインターナショナル 金融サービス部門 フィンテック&イノベーションのグローバル統轄であるアントン・ルーデンクロウは次のように述べています。
「2023年、フィンテック市場は広範な投資環境に影響され、やや苦境に立たされました。それでもまだ良い取引がありましたが、投資家は明らかに収益性へのフォーカスを強めていました。全体的にフィンテック市場全体が低迷していた中で、不動産テック、ESGフィンテック、およびAIに焦点を当てたフィンテックへの投資は明るい材料であり、とりわけ最後の6ヶ月間はその動きが大きく貢献しました。」

2023年の主な調査結果

  •  2023年の世界のフィンテック投資額は、4,547件の1,137億米ドルで、2022年の7,515件の1,966億米ドルからは減少した。
  •  2023年には、南北アメリカで2,136件の取引を通じて783億米ドル(うち米国は1,734件の735億米ドルを占める)、EMEA地域は1,514件で245億米ドル、アジア太平洋地域は882件で108億米ドルの投資を呼び込んだ。
  •  グローバルM&A案件の総額は、2022年の982億米ドルから2023年には564億米ドルに減少。グローバルVC投資も、前年の888億米ドルから463億米ドルに減少した。一方、PE投資は最も回復力があり、2022年の96億米ドルから2023年には110億米ドルに増加した。
  • 決済分野は2023年においても世界的に最も強力なフィンテック投資分野で、207億米ドルが投資されたが、2022年の580億米ドルからは大幅に減少となった。他の注目すべきセクターへの投資額は、不動産テック(134億米ドル)、インシュアテック(81億米ドル)、暗号資産とブロックチェーン(75億米ドル)、レグテック(26億米ドル)、ESGフィンテック(23億米ドル)、サイバーセキュリティ(13億米ドル)がある。
  •  全世界の企業参加型VC投資は、2022年の459億米ドルから2023年には252億米ドルに減少した。

ESGフィンテック投資は史上2番目に投資額の多い年に

2023年のESGフィンテック投資額は23億米ドルを記録し、2021年に記録した史上最高投資額である37億米ドルに次ぐものとなりました。最大規模の取引が行われた米国では、サステナブルインフラのスタートアップGenerateによる11億米ドルの取引、炭素貯蔵プラットフォームのRubicon Carbonによる10億米ドルのPE調達、環境関連会社Xpansivによる5億2,500万米ドルのVC調達、クリーンテック投資会社CleanCapitalによる5億米ドルの調達などがありました。進行中の規制改革と政府および企業による野心的なネットゼロの公約が組み合わさることで、ESGに焦点を当てたフィンテックソリューションへの投資は、2024年に向けて好調なトレンドを維持すると言えます。

人工知能 (AI) は投資家にとって重要な優先事項

人工知能(以下、AI)への関心は、2023年の投資市場全体で大きく高まり、フィンテック市場も例外ではありませんでした。AIを活用するフィンテック企業は、2023年に121億米ドルの投資を占めました。これは、2022年の281億米ドルに比べて資金調達額が大幅に減少したことを反映していますが、投資額の減少はこの分野への関心の低下を示しているわけではありません。2023年には、多くの金融機関やフィンテック企業が直接投資ではなく、提携や製品開発を通じてAIを取り入れることを選んだためです。

南北アメリカのフィンテック投資額783億米ドルのうち、米国が735億米ドルを占める

2023年の南北アメリカ全体の年間フィンテック投資額は、2022年の3,467件の954 億米ドルから、2,136件の783億米ドルに減少しました。その大半は米国でのフィンテック取引であり、1,734件で735億米ドルの投資を占めました。ブラジルは111件で26億米ドル、カナダは109件・9億2,000万米ドルを獲得しました。この地域のVC投資額は急激に落ち込み、前年の447億米ドルから266億米ドルに減少しました。このうち、コーポレートVCは150億米ドルを投資しています。
2023年下半期は、特に南北アメリカのフィンテック市場が低迷し、916件で384億米ドルの投資が行われ、その内訳は350億米ドルが米国でした。

EMEA地域のフィンテックへの投資は2023年に過去7年間で最低の245億米ドルまで減少すると見られる

EMEA地域におけるフィンテックの投資額は、2022年の2,478件の投資額496億米ドルから、2023年には1,514件で245億米ドルに急減しました。2023年下半期では、年初と比較して82億米ドルから163億米ドルの増加がみられましたが、英国Finastraが69億米ドルのPE調達を行ったことが、この半分以上を占めています。
2023年下半期は、EMEA地域のフィンテック市場の地理的な多様性を示し、7カ国のフィンテック企業がトップ10案件に名を連ねました。英国に加えて、スウェーデン (Macrobond Financial-7億6,380万米ドル) 、オランダ (PayU-6億1,000万米ドル) 、イタリア (Banco BPM-5億4,890万米ドル) 、アラブ首長国連邦(Tabby–9億5,000万米ドル、Haqqex–4億米ドル)、フィンランド (Nomentia-3億8,510万米ドル) 、スペイン (GestiónTributaria Territorial-3億2,570万米ドル) が大規模なフィンテック取引となりました。

アジア太平洋地域のフィンテック投資は75%以上減少

2023年のアジア太平洋地域へのフィンテック投資は、2022年の513億米ドルから大幅に減少して882件で、わずか108億米ドルとなりました。だたし、2022年の数字はオーストラリアを拠点とするAfterpayの290億米ドルの買収によるものです。特にインドのフィンテック投資は低調であり、2022年から2023年にかけて68億米ドルから30億米ドルに減少しました。また、シンガポールでも45億米ドルから22億米ドルに投資が減少しました。一方、中国のフィンテック投資は前年比で増加し、過去10年間で最低額であった8億米ドルから19億米ドルに上昇しました。アジア太平洋地域のVC投資は2022年の154億米ドルから2023年には78億米ドルに減少し、そのうち41億米ドルがコーポレートVCの投資となりました。
2023年下半期のアジア太平洋地域はやや鈍化し、34億米ドルとなりました。この投資額の大部分はVC投資によるもので、香港のMicro Connect(4億5,800万米ドル)やシンガポールのboltech(2億4,600万米ドル)、インドのPerfios(2億2,900万米ドル)、日本のGojo & Company(1億1060万米ドル)などが含まれます。

フィンテック投資は2024年上半期も低調になる見込み

現在の世界的な紛争や高金利環境、そしてイグジットの継続的な低迷を考慮すると、世界のフィンテック投資は2024年第一四半期に向けて引き続き低調であると予想されます。しかし、金利が安定し、あるいは下がり始めると、投資は活発化する可能性があります。AIやB2Bソリューションは、投資家にとって引き続き注目の対象になると言えます。また、資産の低迷を真剣に検討する投資家が増えることで、M&A活動も回復する可能性があります。

KPMGインターナショナル 金融サービス部門のグローバル統轄であるカリム・ハジは次のように述べています。
「フィンテック市場は2004年に始まり、本格的に成熟してきた2008年以来継続的に進化を遂げてきました。フィンテックの基盤となる技術は常に変化しており、現在ではAIや生成AIの活用によって再び変化が起きています。
フィンテックの次の波が来ていると言えるでしょう。足元の市況の影響を受けて投資件数は低調だが、来年はフィンテック分野でのイノベーションが非常に活気づく年になる可能性があります。」

 

「Pulse of Fintech 2023」 報告書(英語)はこちら

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