KPMGジャパン「日本企業の統合報告に関する調査2020」を発行

KPMGジャパン(東京都千代田区、チェアマン:森 俊哉)は、第7回目となる「日本企業の統合報告に関する調査2020」を発行しました。

KPMGジャパン(東京都千代田区、チェアマン:森 俊哉)は、第7回目となる「日本企業の統合報告に関する調査2020」を発行しました。

KPMGジャパン(東京都千代田区、チェアマン:森 俊哉)は、第7回目となる「日本企業の統合報告に関する調査2020」を発行しました。本調査は、質の高い企業報告を推進し、企業の持続的な存続および経済の安定と発展、そして社会価値の向上を実現することを目的としています。今回の調査では、前回に引き続き統合報告書の継続的な調査・分析に加え、有価証券報告書の記述情報についても調査を実施しました。統合報告書と有価証券報告書の比較を行った上で、KPMGジャパンの提言をまとめています。

本調査は、2020年1月~12月に「自己表明型統合レポート*1 」を発行する国内の企業等579社が発行した統合報告書、および日経225構成企業が発行した統合報告書と有価証券報告書を対象に実施しました。
企業内容等の開示に関する内閣府令の一部改正の適用初年度となった2020年の有価証券報告書は、全般的に記述情報の量に増加がみられました。また統合報告書についても、2年、3年と発行を重ねながら、内容の充実に繋げている企業が増え、長期視点の戦略を説明する企業が増加するなど、新型コロナウイルス感染症の影響がある中でも、自社の将来像を伝えようとする姿勢がみられました。
一方で、そのような統合報告書における試みを、有価証券報告書の記述情報にも反映している企業はまだ一部にとどまり、今回の制度改正の趣旨を鑑みると、なお課題が残るといえます。統合報告書においても、利用者や作成目的を考慮した上で、コミュニケーション全体を俯瞰し、任意の報告書を作成する意義を見つめ直す必要があるといえます。

本調査結果の主なポイント

中期経営計画の記述は前年比で減少した一方、長期戦略の記述は有価証券報告書で2割増、統合報告書で1割増

中期経営計画についての記述は、前年比で、有価証券報告書で10%減の188社、統合報告書で5%減の155社になりました。コロナ禍で中期経営計画の前提条件が変化し、説明が困難になっていることに起因すると考えられます。一方、長期戦略と中期経営計画を併記する企業は、有価証券報告書で20%増の85社、統合報告書で11%増の89社になりました。中長期的な思考の浸透がうかがえるとともに、コロナ禍においても、自社の将来像を伝える企業の姿勢が見られます。

図表1

TCFD提言に関連した開示は、賛同企業の76%が統合報告書で記述する一方、有価証券報告書での記述は8%にとどまる

日経225構成企業のうち、2020年12月末時点で、気候関連財務情報開示タスクフォース(以下、TCFD)に賛同する145社について、統合報告書でTCFD提言に関連した開示を行った割合は76%であった一方、有価証券報告書における記述は8%にとどまりました。TCFDは、気候変動関連の情報を財務インパクトの評価に資するよう法定開示資料において示すことを提唱していますが、現時点では、任意の報告媒体である統合報告書における情報提供が先行している状況といえます。

図表2

取締役会が主体的にマテリアリティを評価する企業は、依然として少数にとどまる

マテリアリティとは、ビジネスモデルとその成果に大きな影響を与え得る事象の「重要度」という意味合いを持ちます。企業の価値創造ストーリーの土台となるマテリアリティの認識を、ビジネスモデルの持続性の観点で示している企業は、有価証券報告書では37社(全体の16%)、統合報告書では90社(同40%)にとどまります。そのうち、取締役会が主体的にマテリアリティ評価に関わっていることがわかるのは、有価証券報告書では5%と前年比で増加したものの、統合報告書では21%と前年と同水準でした。経営判断の核たる情報を、経営を監督する取締役会の目線を反映したものとして示すという点で、課題が残ります。

図表3

事業戦略の達成度の説明に非財務情報が用いられた有価証券報告書は12%、統合報告書は37%と、前年比で大幅な進展は見られず

事業戦略の達成度の説明に用いられた指標の類型を調査した結果、財務指標のみを用いている有価証券報告書が71%であったのに対し、統合報告書は33%でした。一方で、財務・非財務の両方の指標を用いた有価証券報告書は前年より減少して12%、統合報告書は前年と同水準の37%という結果でした。財務的な成果が経営成績を測る指標として重視されるのは当然ではあるものの、戦略遂行を通じて財務成果に影響を与える非財務指標の動向を踏まえた説明には、いずれの報告書においても改善の余地があります。

図表4

KPMGジャパンからの提言

KPMGジャパンは、今回の調査結果をふまえ、投資家と企業の建設的な対話に資する統合的レポーティングを目指すため、以下を提言します。

1.何のための有価証券報告書か – 法令順守を超えた目的意識を

法定開示資料において、記述情報を拡充する動きは世界的な潮流となっています。企業に求められるのは、法令順守のための開示ではなく、自らの存在意義を踏まえてそれをどう実現するかを、わかりやすく伝えることです。そのような報告に基づくステークホルダーとの対話が、社会の信頼や共感の獲得、さらには企業の持続的な成長につながります。

2.任意で統合報告書を発行する意義に立ち返り、企業価値に影響するマテリアリティの整理を

今回の調査では、「統合報告書に比べて、同企業から発行された有価証券報告書のほうが情報を探しやすく、読みやすい」という状況が見受けられました。これは、有価証券報告書では、体系立てられた所定の項目に沿って、情報が簡潔に記載されているためであり、法定開示書類である有価証券報告書の利点の1つといえます。統合報告書を任意で作成する利点を活かし、ひな型に沿った報告書では表現できない価値創造ストーリーを伝えることが大切です。

3. 企業報告を、より適切な非財務情報を伴う企業独自のものへ

今回の調査対象とした報告書には、財務情報と一部の非財務情報を除き、どの企業にもあてはまるような定性的な記載が多く見受けられました。今後の課題として、定量的な情報に裏付けされた非財務情報を子会社等を含めた適切な領域にまで拡げて提示することや、企業報告をより企業固有のものへと洗練させていくことが必要だと考えます。

組織の根幹となる価値創造ストーリーとその実現に向けた取り組みの検討は、経営者に課せられた本質的な責務です。不確実性が増す環境下で、どのような課題が企業価値に影響するのかという視点に基づくマテリアリティを分析し、固有の価値創造ストーリーとして紡ぎ、トップダウンで組織に浸透させること、そして、それを組織内外に一貫して明確に伝えていくことの必要性がより一層高まっています。

調査概要

調査対象期間

2020年1月~12月

対象企業

 統合報告書の発行企業および統合報告書に関する基礎情報の調査:「自己表明型統合レポート」を発行する国内の企業等579社

 統合報告書と有価証券報告書の記述情報の開示状況の比較調査:日経225構成企業225社

調査方法

調査メンバー全員で判断基準を定めた上で、企業ごとに1人の担当者が、統合報告書、有価証券報告書の両方を通読し、確認する方法で実施

協力

企業価値レポーティング・ラボ
(「自己表明型統合レポート発行企業等リスト2020年版」提供)

日経平均株価(日経225)は株式会社日本経済新聞社の登録商標または商標です。

KPMGジャパンについて

KPMGジャパンは、KPMGの日本におけるメンバーファームの総称であり、監査、税務、アドバイザリーの3つの分野にわたる8つのプロフェッショナルファームによって構成されています。クライアントが抱える経営課題に対して、各分野のプロフェッショナルが専門的知識やスキルを活かして連携し、またKPMGのグローバルネットワークも活用しながら、価値あるサービスを提供しています。
日本におけるメンバーファームは以下のとおりです。
有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人、KPMGコンサルティング株式会社、株式会社KPMG FAS、KPMGあずさサステナビリティ株式会社、KPMGヘルスケアジャパン株式会社、KPMG社会保険労務士法人、株式会社KPMG Ignition Tokyo
 

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