KPMGグローバルサステナビリティ報告調査「ネットゼロに向けて」日本版の発行
KPMGグローバルサステナビリティ報告調査「ネットゼロに向けて」日本版を発行します。
KPMGグローバルサステナビリティ報告調査「ネットゼロに向けて」日本版を発行します。
- 気候変動とそのリスクについて、CEOまたは取締役が年次報告書のメッセージで言及している割合が最も高いのはドイツ企業で59%にのぼる
- 気候変動リスクを開示している割合が最も高いのはフランス企業78%だが、2位は日本企業で、法的に要請されていないにも関わらず36%が開示
- 日本企業は、気候変動リスクの開示において、2つ以上のシナリオに沿った高品質な分析の提供の点では優れているが、明確なタイムラインを提示できていない
- 脱炭素化目標ネットゼロに向けた戦略の開示の割合が高いのは、ドイツ企業と自動車セクター企業
KPMGジャパン(東京都千代田区、チェアマン:森俊哉)は、2019年度Fortune Global 500の上位250社が、気候変動リスクと温室効果ガス排出量ネットゼロへの移行に焦点を当て、どのような報告を行っているかを調査し、その結果をまとめたKPMGグローバルサステナビリティ報告調査「ネットゼロに向けて」日本版を発行します。ネットゼロとは、温室効果ガスの排出と吸収を同じ量にするというカーボンニュートラル、すなわち脱炭素社会の実現を意味しています。
持続可能な社会のために、気候変動リスクは企業経営にとっても重要な課題となっています。KPMGインターナショナルが毎年実施している「KPMGグローバルCEO調査」において、2017年までは企業の成長への重要な脅威と認識されていなかった気候変動リスクは、2018年には上位に浮上し、2019年には最も重要な脅威となり、コロナ禍の影響が反映された2020年の調査でも依然としてトップ5に選出されています。
5年前までは開示の対象とされていなかった気候変動リスクについて、現在では250社のうち過半数が情報を開示し、さらに約半数の企業が取締役レベルに気候変動リスクの管理責任があると報告しており、ここ数年で大きな変化がみられます。しかし、本調査の結果、開示の質に関しては国・セクターによってばらつきが大きいことが明らかになりました。
「ネットゼロに向けて」の主なポイント
1)CEOまたは取締役が年次報告書で気候変動リスクについて言及しているか
上位250社の年次報告書のメッセージの中で、CEOまたは取締役が気候変動とそのリスクについて言及している割合は、ドイツ企業が59%と最も高い結果になりました。これは組織のリーダーが気候変動をビジネスの重大なリスクとして認識し、トップダウンでその対応に取り組んでいる結果と考えられます。
世界の平均値33%に比べて日本企業は54%と高く、企業が気候変動への取り組みに真摯に対応していることが伺えます。2020年10月に菅政権により「2050年カーボンニュートラル達成」という目標が宣言され、今後は日本においても企業の事業におけるネットゼロへの具体的な取り組みが期待されます。CEOが気候変動リスクに対し企業としてどのように取り組んでいるのか、開示に反映することが、ますます重要視されると考えられます。
2)気候変動リスクを年次報告書の明確なセクションあるいは個別レポートで開示しているか
年次報告書において気候変動リスクに関する明確なセクションを設けている、あるいは個別の気候変動リスク/TCFDレポートを発行している企業の割合は、2015年に上場企業に対して気候変動リスクの開示が義務化されたフランスでは78%と最も高い結果となりました。2位の日本は36%で、比較的多くの企業が自主的に開示に取り組んでいることがわかりました。
2020年11月に金融庁から「記述情報の開示の好事例集2020」が公表されました。その中には気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosure: 以下、「TCFD」*1)の提言に基づいた開示の好事例もいくつか含まれており、日本企業の気候変動リスクの開示を後押しするものとなっています。
3)気候変動のリスクと機会をどのように測定し開示しているか
TCFD提言の補足文書では、気候関連シナリオの種類やシナリオ分析の手法等について説明しています。2℃シナリオを含む複数の異なるシナリオに沿った分析*2や、企業の短期、中期、長期的な気候変動関連リスクプロファイルを理解するために、シナリオ分析にタイムラインを明確に定義し選択された理由を説明すること、などが推奨されています。
企業による気候変動リスクの分析、データ収集、管理などの手法は、改善が進んでおり、今後は気候変動リスクに関するより具体的な開示が広がり、開示される情報の量も情報の質も急速な向上が見込まれています。
2つ以上のシナリオに沿ったリスク分析をしているか
気候変動リスクの開示において2つ以上のシナリオ分析を含んでいるのは、上位250社のうち、世界全体では12%ですが、日本企業では36%と質の高い開示が進んでいることが分かります。
気候変動リスクに関するシナリオ分析は、開示企業にとって最も困難な作業のひとつですが、気候変動リスクに対する全社的な意思統一を図るためには重要なプロセスです。既に気候変動リスクが将来の企業業績に大きな影響を与えることは明らかになっており、各国・地域が2050年のカーボンニュートラルを宣言し、施策の立案と実施を進めている現状から考えると、もはや中長期的なリスクというよりも、短期的なリスクとしての認識が強くなっていると考えられます。
シナリオ分析は、ESGに注目している機関投資家だけではなく、広く一般投資家にとっても重要性を増しつつあるという現状に注目する必要があります。こうした新しい経営環境において、日本企業がシナリオ分析に前向きに取り組んでいる事実は、世界的にも評価されると考えられます。
シナリオ分析に明確なタイムラインを含んでいるか
一方、シナリオ分析に明確なタイムラインを含んでいる割合については、日本企業は25%と、相対的に低くなっています。
明確なタイムラインを設定して気候変動シナリオ分析を行うためには、例えば、2030年や2050年といった将来におけるシナリオ別の条件設定を行う必要があります。しかし、現状では条件設定を行うために利用できる情報が不十分な場合がほとんどであり、これが明確なタイムラインを設定することを困難にしています。今後は日本でも、シナリオ分析に用いることのできる情報を充実し、企業にはより明確なタイムラインを設定した気候変動シナリオ分析を行うことが期待されます。
4)ネットゼロ目標に向けた脱炭素戦略を開示しているか
脱炭素戦略を開示している割合は、ドイツ企業が88%と高く、他国の企業を大きくリードしています。目標達成に向けて段階的に排出量を削減し、持続可能な脱炭素戦略を策定し実行している企業は、ネットゼロ目標に真剣に取り組んでいると印象づけられます。日本企業の割合は11%で、フランスの17%や米国の14%よりも低い結果となりました。
日本では菅政権により「2050年カーボンニュートラル達成」が宣言されており、脱炭素化が今後は規制や投資を通じて、社会全体の価値観に大きな影響を及ぼす可能性があります。日本企業はこれまで以上に脱炭素化を具体的な戦略に落とし込み、課題の明確化、実行方法やタイミング、そして成果を、全ステークホルダーに明確に伝えていくことが求められます。
セクター別では、内燃機関エンジン車の販売規制という大きな課題を抱える自動車セクター企業の開示の割合が38%と高く、脱炭素化に対する非常に高い関心が伺えます。
世界の二酸化炭素の約25%は運輸部門から排出されており、その約4分の3を占める自動車業界*3では、欧州を中心とした燃費規制や内燃機関エンジン車販売規制の強化などにより、電気自動車や燃料電池車の開発、導入に向けた競争が激化しています。
電動化の潮流への対応、製品ライフサイクル全体でのゼロカーボンの達成に向けた取り組みは、自動化などいわゆるCASE*4対応の他の潮流とあわせ、自動車セクター企業にとって生存をかけた戦略上の重要論点であるため、開示に注力していると考えられます。欧州のみならず、日本、米国、中国といった主要マーケットでの脱炭素化政策推進に伴い、エネルギー業界などと併せ、今後脱炭素化戦略を開示する企業はますます増えていくものと考えられます。
KPMGジャパンの提言
すべての企業にとって脱炭素化は、気候変動政策やどのタイミングでどのような技術が利用可能になるのかといった、不確実な要因に左右されます。例えば、既に市場にある技術で、ある程度の二酸化炭素の削減が可能なセクターの企業は、比較的早い段階で削減を進めることができます。しかし、脱炭素化の技術の実現に20~30年を要するセクターの企業の場合、技術の実現まではゆるやかな削減にならざるを得ません。さらには、原料調達・製造・物流・販売・廃棄まで含めたサプライチェーン全体での排出量削減を達成しなければならないという側面からみると、セクター間の関係も大きな課題となります。
気候変動政策や技術的な展望の不確実性はありながらも、企業には目標だけでなく、その目標をどのように実現するのか、脱炭素戦略をより明確に打ち出していくことがますます期待されています。
*1 TCFDとは:金融安定化のため、金融コミュニティは気候関連課題にどう対処していくべきかについての議論を行うための国際的なイニシアティブ
*2気候変動リスクは中長期にわたるリスクであることから、シナリオ分析の結果は不確実性が高くなります。従って、単一シナリオによる分析だけでは十分でないと考えられており、複数シナリオによる分析が求められます。この複数シナリオに2℃シナリオを含めることの要求は、それが世界的な平均気温の上昇を産業革命前と比較して2℃以上に低くするというパリ協定の目標と整合的であるからだと考えられています。
*3出所:国際エネルギー 機関(International Energy Agency: IEA)
*4 CASEとは:Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(カーシェアリングとサービス/シェアリングのみを指す場合もある)、Electric(電気自動車)の頭文字をとった造語
「ネットゼロに向けて」について
KPMGインターナショナルは、2019年度Fortune Global 500の上位250社に対し、2019年7月1日から2020年6月30日に発行された年次報告書、統合報告書、サステナビリティ報告書および企業のホームページ上で公表されている情報をもとに、気候変動リスクと排出量ネットゼロに焦点を当て独自に調査を実施しています。主要5か国および7つのセクター(自動車、金融サービス、ヘルスケア、工業・鉄鋼・製造業、石油・ガス、小売、テクノロジー・メディア・通信)に関する調査結果と好開示例を中心に、紹介しています。
日本の視点を加えた「ネットゼロに向けて」日本版フルレポートは以下からダウンロードいただけます。
KPMGジャパンについて
KPMGジャパンは、KPMGインターナショナルの日本におけるメンバーファームの総称であり、監査、税務、アドバイザリーの3つの分野にわたる7つのプロフェッショナルファームによって構成されています。クライアントが抱える経営課題に対して、各分野のプロフェッショナルが専門的知識やスキルを活かして連携し、またKPMGのグローバルネットワークも活用しながら、価値あるサービスを提供しています。
日本におけるメンバーファームは以下のとおりです。
有限責任 あずさ監査法人、KPMG税理士法人、KPMGコンサルティング株式会社、株式会社KPMG FAS、KPMGあずさサステナビリティ株式会社、KPMGヘルスケアジャパン株式会社、KPMG社会保険労務士法人、株式会社KPMG Ignition Tokyo
KPMGインターナショナルについて
KPMGは、監査、税務、アドバイザリーサービスを提供する、独立したプロフェッショナルファームによるグローバルな組織体です。世界147の国と地域のメンバーファームに219,000名以上の人員を擁し、サービスを提供しています。KPMGの各ファームは、法律上独立した別の組織体です。
KPMG International Limitedは英国の保証有限責任会社(private English company limited by guarantee)です。KPMG International Limitedおよびその関連事業体は、クライアントに対していかなるサービスも提供していません。