2023年にWorld Business Council For Sustainable Development(WBCSD、持続可能な開発のための世界経済人会議)が『GUIDANCE ON AVOIDED EMISSIONS』を発行し、世界共通の削減貢献量の報告に一定の基礎が築かれました。しかし、削減貢献量の算定には仮定や不確実性が多く含まれるため、その定義や評価方法が十分に標準化されていない状況では、意図せずして、実態以上の環境貢献を装う「グリーンウォッシュ」とみなされるリスクが存在します。
こうしたリスクに対応し、企業がより信頼性の高い形で削減貢献量を算定・開示できるための実践的なガイダンスとして『GUIDANCE ON AVOIDED EMISSIONS』の改訂版v2.0(以下、「ガイダンスv2.0」という)が2025年7月に公表されました。
ガイダンスv2.0の公表により、企業は実務的な対応を具体的に検討・推進しやすくなります。以下に主な改訂点を示します。
- ソリューションや参照シナリオの定義、算定に使用するデータ等に関する考慮事項が具体化
- 適格要件の明確化
- 透明性のある報告のための開示内容の拡充
- 国際的な枠組みとの整合
削減貢献量の活用
削減貢献量とは、“あるソリューション(※1)が存在する”場合と“それが存在しない”参照シナリオ(※2)との間に生じるライフサイクルGHG排出量の推定差異と定義されています(図表1)。
※1 ソリューション:気候緩和または適応に貢献する、またはそれを可能にする活動、製品またはサービス
※2 参照シナリオ:ソリューションが存在しない場合に最も起こり得る状況
図表1
例: ある家庭や施設で暖房を導入する際、従来はガスボイラー(参照シナリオ)が使用されており、原材料の調達から製造、使用、廃棄に至るまでのライフサイクル全体で年間約1,500kg-CO2が排出されていました。これを、同じ暖房機能を持つヒートポンプ(ソリューション)を導入すると、同様のライフサイクルを通じて排出量は約600kg-CO2に抑えられます。 |
削減貢献量はライフサイクル全体のGHG排出量の削減効果を測定する指標です。削減貢献量を活用することは、自社の製品やサービスに関わる原材料の調達から廃棄に至るまでの一連のプロセスにおいて、ステークホルダーと協働しながらイノベーションを創出することにつながります。
また、このようなイノベーションへの投資を評価する際に、削減貢献量を用いてその効果を可視化する金融機関が増えており、投資先の選定や評価においても注目されてきています。企業は自社の脱炭素ソリューションの技術の高さを資金調達に結び付け、気候変動対策を成長戦略の一部として推進することにも、「削減貢献量」を活用することができます。
算定前の確認ポイント
グリーンウォッシュという批判を回避して、企業が削減貢献量を主張するには、企業自身および提供するソリューションがそれぞれ一定の要件を満たしているかを確認することが不可欠です。
まず企業自身が、GHG排出量の算定を行っており、ネットゼロの達成に向けて自社の排出削減に継続的に取り組んでいることが求められます。自社の排出削減についての取組みが不十分な企業が削減貢献量を主張することは、適切ではないということです。
さらに、削減貢献量の対象は、ネットゼロに向けた革新的な気候ソリューションであることが前提となり、そのソリューションが実際に世の中の脱炭素化に大きく貢献していることが必要です。
ガイダンスv2.0では、これらの要件がGate1、2、3として具体的に示されています(図表2)。
図表2
| 適格要件 | 内容 | |
|---|---|---|
| 会社の適格要件 | Gate1
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(推奨)目標の進捗状況を定期的にモニタリング・報告、移行計画の策定・公表 |
| ソリューションの適格要件 | Gate2 最新の気候科学との整合性 |
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| Gate3 貢献の正当性 |
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出典:WBCSD『GUIDANCE ON AVOIDED EMISSIONS』を基にKPMGジャパンにて作成
「Gate2:最新の気候科学との整合性」の要件に関して、必ずしも確立された情報源(IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書など)のみを根拠にする必要はなく、開発初期段階に関する技術についても一定の根拠があれば要件を満たすものとみなされます。これは、削減貢献量が企業のネットゼロに向けたイノベーションを促進するという役割を担っているからです。
化石燃料に関するソリューションの削減貢献量を算定する際には留意が必要です。これはネットゼロの最終目標とは整合しないため、基本的にはガイダンスv2.0の適用対象外とはなります。ただし、例えばEV用潤滑油や食品節約のためのプラスチックフィルムなど、化石燃料と関連している製品でも脱炭素を段階的に推進していく過程では大きく貢献する可能性があると考えられるソリューションは、一定の要件を満たした場合には対象となります。
削減貢献量は、製品やサービスの環境性能を示す補助的指標から、企業の戦略的な気候対応や社会全体の脱炭素化への貢献を示す重要な指標として位置づけられるようになっています。削減貢献量算定においては、事前に適格要件を確認し、科学的根拠と透明性を確保することが、信頼性のある情報開示の実現のために重要です。
KPMGによる算定・開示支援サービス
削減貢献量の算定は、参照シナリオの設定やデータの精度、社内での理解促進など、企業にとって新たな挑戦となることが少なくありません。
企業が直面する主な課題:
- 方法論の不確実性
- データの不足
- 社内理解の難しさ
- グリーンウォッシュへの懸念
こうした課題に対して、KPMGは、GHG排出量の算定・開示、その内部統制の構築に係る知見に基づき、ガイダンスv2.0と整合する形で、企業の削減貢献量に関する取組みを支援します(図表3)。