Article Posted date
12 November 2025
KPMGグローバルCEO調査2025によると、エネルギー・天然資源・化学(ENRC)セクターのCEOは、経済政策・規制、地政学リスクやサプライチェーンの複雑化が続くなかでも、生成AIやエージェント型AIの導入を通じて、業務効率・意思決定力・リスク管理を飛躍的に高めていることが明らかになりました。
経済的見通し
- 化石燃料と再生可能エネルギー(再エネ)の双方に対する需要の増加に加え、エネルギー貯蔵システム、スマートグリッド、炭素回収、AIによるエネルギーマネジメントなどの革新的テクノロジーや重要鉱物への需要拡大を背景に、ENRCセクターのCEOの84%(前年比+12ポイント)が業界全体の成長に対して楽観的な見方を示しています。経済や地政学リスクが複雑化するなかでも、全体として前向きな見通しが一段と強まっているようです。
- 一方、短期的な経営課題として、「サプライチェーンの強靭性」(34%)、「AIの統合」(30%)、「気候リスク」(27%)が挙げられるなか、ENRC企業はスマートグリッドへの投資やサプライチェーンの再構築を進めています。多くのCEOは、今後3年間の成長実現に向けてM&Aなどの非有機的成長を最優先課題と位置づけ、エネルギー安全保障の確保、デジタルインフラの整備、再エネ拡大を目的とした投資を進めています。こうした動きを背景に、M&A(合併・買収)活動も緩やかに拡大しています。
- 78%のCEOが自社の成長見通しについて「前向き」と回答しています。この割合は高水準を維持していますが、規制変更やインフレ、化学分野におけるコスト上昇を背景に、前年の82%からやや低下しました。それでも、オペレーションの効率化やデジタル投資の進展により収益は安定しており、44%のCEOが年率2.5〜4.99%の成長を見込んでいるようです(前年比+14ポイント)。
AI主導の技術革新
- ENRCセクターでは、AIを単なる効率化ツールではなく、産業構造を変革する「ゲームチェンジャー」として捉える経営層が増えています。実際に、64%のCEOがAIを最重要投資分野として位置付けており、72%が投資・予算の10〜20%を、生成AIやエージェント型AIなどの関連分野に充てる計画を導入しています。これらの投資は、業務効率化やスマートグリッドの最適化、予知保全、重要鉱物の探査に加え、グリーン・デジタルツインや自律型システムの開発などを対象としており、セクター全体の変革を牽引する原動力となっています。
- AI投資を通じた収益拡大への期待も高まっており、66%のCEOが1〜3年以内の投資回収(ROI)を見込んでいます(前年の15%から大幅に上昇)。具体的には、「定型業務の自動化を通じた業務効率・生産性の向上(21%)」や「意思決定や分析の高度化(20%)」といった投資効果が期待されています。
- 一方で、倫理的懸念(55%)、データの断片化(49%)、規制の複雑性(47%)といった課題も依然として残っています。また、サイバーセキュリティとデータ保護は、引き続き最重要課題であり、不正アクセス(64%)や個人情報の盗難(59%)、サイバー攻撃(51%)が主要なリスクとして懸念されています。
AI時代に備えた人材戦略
- ENRCセクターでは、送配電エンジニアリング、CCUS、水素技術に対応するための、サイバーセキュリティやデータ分析、AI、デジタルイノベーションに関するスキル需要が急速に高まっていると同時に、すでに生成AIが系統運用やアセット管理、顧客対応、さらには採掘・輸送・O&Mにまで活用され始めています。こうした状況のなか、CEOの40%が、AIの影響を受ける職務に対するリスキリングやアップスキリングに加え、外部のAI専門家との協働を通じて、従業員全体へのAIの浸透・定着を図る取組みを積極的に進めています。
- 80%のCEOが自社のAIに対する理解度に、74%がデータ基盤の整備状況に自信を示しています。有望人材の定着・再教育(72%)、職務やキャリアパスの再設計(65%)、AI/テック人材の新規採用(64%)、AI関連職への再配置(57%)など、人材戦略を積極的に進めるENRC企業も多く見られます。
- 一方で、スキルギャップ(43%)や、テック分野などの他産業との人材競争(22%)といった課題にも直面しています。また、全社的なAI教育を提供している企業は18%にとどまり、AI導入による社員の役割への影響について社内でオープンに議論している企業も26%に過ぎません。さらに、 25%の企業では人材戦略がいまだ未整備の状況にあります。加えて、完全出社派と週3〜4日のハイブリッド容認派に二分される働き方の調整も課題となっていることも明らかとなりました。
ESGを通じた戦略的優位の確立
- 近年、世界的なエネルギー需要の増加を背景に、再エネと電化の拡大が進む一方、石油・ガス・石炭の生産も増加するという、いわゆる「マルチスピード型のエネルギートランジション」が進行しています。排出量が依然として拡大するなか、資産・エネルギー集約型であるENRC企業の72%がサステナビリティを企業戦略に統合していますが、資本配分にまで完全に組み込んでいる企業は約半数(38%)にとどまります。サプライチェーンの複雑性(28%)、低炭素技術やESG報告に精通した専門人材の不足(25%)、脱炭素化に要するコスト(12%)といった課題を背景に、 53%の企業がステークホルダーのサステナビリティに対する期待の変化に自社戦略が追いつけていないことを認めています。
- ENRCセクターでは、ESG報告の高度化に向けて、80%のCEOが新たな開示要件への準備を進めており、44%が規制対応への投資を拡大しています。さらに、半数近くのCEOが「パートナーシップを通じた技術革新(47%)」を推進したり、「エネルギー移行を直接支援する新製品・新サービスの開発(46%)」に取り組んでいることが明らかとなりました。
- また、AIの導入が加速するなか、82%のCEOが「AIは排出削減とエネルギー効率の向上に貢献できる」と考えており、さらに74%が「AIは気候リスク分析を高度化できる」と認識しています。このようにENRCセクターでは、AI活用の拡大を通じて、サステナビリティへの取組みや気候変動対応を一層加速させることへの期待が高まっています。
今後の方向性
ENRC企業は、AIの活用、人材開発、パートナーシップ戦略を統合し、電化・脱炭素・デジタル化によるトリプル・トランスフォーメーションを推進することで、持続的な競争優位性を確立していくことが可能となります。
1.AIによる技術革新と戦略的優位性の確立
今後、ENRC企業においては、スマートグリッドやAI分析、予知保全を中核に据えた技術革新を一層加速させることが重要です。AIによる需給管理や予測精度の向上は、需給バランスや資源探査・設備運用の最適化、市場需要の先読みを可能にし、限られたマージンのなかでも生産性と収益性の向上を実現します。
2.イノベーションによる競争力の強化
AIやデータ領域で機動力を発揮する中小企業との連携が、脱炭素化を加速させる鍵となるでしょう。また、サプライチェーンの透明性向上は、排出量やエネルギー効率、労働環境に関する洞察を深めるだけでなく、規制対応やリスク回避、コスト抑制を通じて企業競争力を高める重要な要素となっています。
AIやデータ領域で機動力を発揮する中小企業との連携が、脱炭素化を加速させる鍵となるでしょう。また、サプライチェーンの透明性向上は、排出量やエネルギー効率、労働環境に関する洞察を深めるだけでなく、規制対応やリスク回避、コスト抑制を通じて企業競争力を高める重要な要素となっています。
3.AI時代に適応した人材戦略
AI・テクノロジー分野の人材獲得競争が激化するなか、ENRC企業には、「エネルギートランジションの最前線で社会課題に挑む魅力的なキャリア」を提示することが求められています。同時に、AIを活用して継続的なイノベーションに対応できる人材基盤の構築に向け、社内でのリスキリングやアップスキリングへの取組みを単なる技術習得にとどめず、データ分析から得られる知見をビジネス価値へと転換し、全社的な経営判断に活かす能力育成の手段として深化させることが重要です。
AI・テクノロジー分野の人材獲得競争が激化するなか、ENRC企業には、「エネルギートランジションの最前線で社会課題に挑む魅力的なキャリア」を提示することが求められています。同時に、AIを活用して継続的なイノベーションに対応できる人材基盤の構築に向け、社内でのリスキリングやアップスキリングへの取組みを単なる技術習得にとどめず、データ分析から得られる知見をビジネス価値へと転換し、全社的な経営判断に活かす能力育成の手段として深化させることが重要です。