2025年の年金改正法と退職給付制度の見直し
2025年6月13日に年金改正法が国会で成立しました。企業年金に関しては企業型DCのマッチング拠出の見直しや企業年金の運用の見える化等が盛り込まれています。7月下旬には施行のスケジュール(予定)も公表されました。本稿では、改正法の内容に加え、それを踏まえた退職給付制度見直しの検討について解説します。
2025年年金改正法について企業年金関連を中心に解説し、それを踏まえた退職給付制度の見直しについても解説します。
1.2025年の年金改正法
改正法の内容
2025年6月13日に年金改正法が国会で成立し、6月20日に公布されました。私的年金に関する主な改正内容は下表のとおりです。
図表1 私的年金に関する主な改正内容
改正事項 | 改正内容 | 施行日 | |
---|---|---|---|
確定給付企業年金(DB年金) | 企業年金運用の見える化 | 事業報告書・決算に関する報告書の記載事項のうち、厚生労働省令で定めるものを公表。 | 公布から5年以内の政令で定める日 |
事務の簡素化 | 死亡の届出を簡素化。 | 2026年4月1日 | |
企業型確定拠出年金 (企業型DC年金) |
企業年金運用の見える化 | 事業主報告書等の記載事項のうち、厚生労働省令で定めるものを公表。 | 公布から5年以内の政令で定める日 |
マッチング拠出の要件緩和 | 加入者掛金額は事業主掛金額を上限とする要件を廃止。 | 公布から3年以内の政令で定める日 | |
簡易型DCの廃止 | 簡易型DCを廃止。(通常の企業型DCに統合) | 2026年4月1日 | |
事務の簡素化 | 死亡の届出を簡素化。規約承認申請の添付書類を簡素化。 | 2026年4月1日 | |
拠出限度額の引き上げ注1 | 5.5万円/月→6.2万円/月。(DB年金等の他制度掛金相当額を控除) |
― |
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個人型確定拠出年金 (iDeCo) |
加入可能年齢の上限引き上げ | 働き方に関わらず70歳までiDeCoに加入可能とする。 | 公布から3年以内の政令で定める日 |
事務の簡素化 | 死亡の届出の簡素化。 | 2026年4月1日 | |
拠出限度額の引き上げ注1 | 被保険者の区分に応じて引き上げ。 第1号被保険者は6.8万円/月→7.5万円/月。 第2号被保険者は5.5万円/月→6.2万円/月。(DB年金等の他制度掛金相当額を控除) |
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注1:企業型DC年金およびiDeCoの拠出限度額の引き上げは、令和7年度税制改正大綱にて定められた。
出所:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html)を基に筆者作成
以下、注目すべき改正事項のポイントを確認します。
まず、DB年金および企業型DC年金における「企業年金運用の見える化」は、企業年金の運用に係る情報を厚労省が集約して他社と比較可能な形で一般に開示することが想定されています。企業側の事務負担はさほど想定されないものの、仮に個別企業名を伴った開示がされる場合は、例えば自社と同業他社の資産運用方針やDC年金の商品ラインナップ等の相違について、従業員や自社マネジメント、および外部に対してその理由等を説明する負担が生じる可能性があると考えられます。
次に、企業型DC年金の「マッチング拠出の要件緩和」は、マッチング拠出額(加入者掛金額)が事業主掛金額を上回れないとする現行の要件を廃止するものであり、事業主掛金の水準によってはマッチング拠出の限度額が拡大されます。また企業型DC年金やiDeCoの「拠出限度額の引き上げ」は非課税での拠出枠が拡大するものであり、こちらも制度の魅力が向上するものと言えます。
2.追加のスケジュール
法改正後に追加公表されたスケジュール(予定)
年金改正法の公布に続き、施行日が「政令で定める日」とされていた改正に関して、2025年7月下旬に施行スケジュール(予定)が以下の通り公表されました。
図表2 施行スケジュール(予定)
改正事項 | 改正法での施行日の記載 | 厚労省HPで公開されている施行スケジュール(予定) | |
---|---|---|---|
DB年金 | 企業年金運用の見える化 | 公布から5年以内の政令で定める日 | 未定(言及なし) |
企業型DC年金 | 企業年金運用の見える化 | 公布から5年以内の政令で定める日 | 未定(言及なし) |
マッチング拠出の要件緩和 | 公布から3年以内の政令で定める日 | 2026年4月1日予定 | |
拠出限度額の引上げ |
― |
2027年の控除分からの実現を目指して、準備を進める | |
iDeCo | 加入可能年齢の上限引き上げ | 公布から3年以内の政令で定める日 | 2027年の控除分からの実現を目指して、準備を進める |
拠出限度額の引上げ |
― |
2027年の控除分からの実現を目指して、準備を進める |
出所:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/2025kaisei.html)を基に筆者作成
あくまで上記時点における予定であり、厚労省HPにてスケジュールがアップデートされる可能性があります。
3.現行退職給付制度の見直し
改正法を踏まえた退職給付制度の見直しの検討
前述のマッチング拠出の要件緩和と企業型DC年金の拠出限度引き上げは、特に退職給付制度の給付設計に影響する改正内容と考えられます。従業員ウェルビーイングの向上が期待される中、この改正を活かして、以下のような制度見直しの検討を行うことが望ましいと考えられます。
- 企業型DC年金を導入している企業では、マッチング拠出の導入や規約変更(加入者掛金額は事業主掛金額を超過しないものとする記載の変更)により、従業員の希望により加入者掛金の拠出や増額を可能とする。
- 拠出限度額の引き上げ(5.5万円/月→6.2万円/月)について、すでに事業主掛金額が現行の限度額に達している場合は、事業主掛金額を引き上げる。(近年のインフレも踏まえて、事業主掛金額を見直していくことが考えられる。)
- 企業型DC年金を導入していない企業は、拠出限度額引き上げやマッチング拠出の利便性向上を踏まえて、DC年金の導入を行う。(DB年金からの移行の場合は、一般に企業の資産運用リスクの低減にもつながる。)
なお、拠出限度額引き上げはiDeCoでも行われる予定ですが、企業型DC年金のマッチング拠出とiDeCoの両方に加入者が掛金拠出することはできず、各加入者がいずれかを選択して利用することに留意が必要です。
また、スケジュールとしては、マッチング拠出の要件緩和は2026年4月1日施行予定、拠出限度額の引き上げは2027年の控除分からの実現を目指すとされているため、それに合わせて厚労省への申請スケジュールも踏まえて計画的に制度見直しの検討を進めることが考えられます。
執筆者
有限責任 あずさ監査法人 金融アドバイザリー事業部
マネージング・ディレクター 萩原 浩之