経済安全保障と金融犯罪・マネロン対策等の交錯

サイバー領域における金融犯罪(特に詐欺や口座の不正利用)の脅威が世界各地で拡大しています。2024年に公表された「国民を詐欺から守る総合対策」が公表され、金融犯罪は「信頼と基礎とする社会の基盤を揺るがす脅威である」との認識が示されました。

本稿は、一般財団法人安全保障貿易情報センターのCISTECジャーナル2025年5月号に掲載された論考をご紹介するものです。

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近時の国際情勢の不安定化、サプライチェーンの特定国依存への懸念、先端技術の軍事利用などを背景に、各国政府において経済安全保障政策および関連法制の策定が進展しています。英国では、「詐欺は国家安全保障の脅威」として官民一体で対策が進められながらも被害は拡大しており、日本でも2024年に「国民を詐欺から守る総合対策」が公表され、金融犯罪は「信頼と基礎とする社会の基盤を揺るがす脅威である」との認識が示されています。FATFの第5次対日相互審査が射程に入ってきている中で、国家安全保障の観点も加えたマネロン対策と金融犯罪対策に関する対策と課題について考察しました。

拡大する金融犯罪の被害

2024年の一年間で、特殊詐欺、SNS型の投資・ロマンス詐欺の被害額の合計は約2千億円にも達し、クレジットカードの被害額も555億円と推定されています。これらを合計すれば、2024年の一年間に2千5百億円を超える資金が、国民から詐取され、犯罪者グループの手にわたっている可能性があります。これらの被害を防ぎ、犯罪者グループにこれらの資金を渡さないことは、我が国の国民生活及び社会経済活動の維持に不可欠な基盤を強靭化することにつながっており、戦略的自律性の強化とみることも可能です。

エコノミック・ステイトクラフトとしての金融犯罪、マネロン対策等

また、世界の安全保障を脅かす国家や者に対する資金供給ルートの断絶(金融制裁)、軍事など重要技術の流出など自国の安全を脅かす可能性のある対内直接投資に対する規制、マネロン・テロ資金供与・拡散金融(大量破壊兵器の拡散につながる資金の供与)など国際金融システムの悪用に対応するための政策協調(金融活動作業部会(FATF)における協調、ピア・プレッシャー)は、まさにマネロン対策等であり、守りだけではなく、攻めの要素も含んでおり、より、エコノミック・ステイトクラフトの色合いが強いものと考えられます。このように、金融犯罪対策、マネロン対策等は、我が国の経済安全保障推進法に規定されている施策ではないものの、国家安全保障、経済安全保障とも交錯する要素が少ないということを認識し、我が国の国民生活及び社会経済活動の維持に不可欠な基盤を強靭化する施策であるとの観点から、より一層、官民連携の強化を通じて、取り組みを高度化させてゆくことも重要であると考えます。

寄稿の全文は、添付のPDFからご覧いただけます。

なお、本文中の意見に関する部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。

執筆者

あずさ監査法人
金融統轄事業部 金融アドバイザリー事業部
エグゼクティブ・アドバイザー 尾崎 寛

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