カーボンニュートラルの実現を目指すべく、温室効果ガス(以下、GHG)を削減するためには、どの工程でどのくらい排出されているかを把握することが重要であり、原材料調達、製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルというライフサイクル全体を考慮することが必要です。製品のライフサイクル全体で排出されるGHGの総量を示すカーボンフットプリント(以下、CFP)を算定する企業が増えましたが、CFPに取り組む目的が不明確であったり、算定はしているものの効率的に削減につなげられていなかったりといった課題があります。

本稿では、CFPに取り組む目的を整理したうえで、現状のCFPの可視化やGHG削減の必要性、実行のためのIT導入のポイントについて解説します。

1.CFP可視化・削減の必要性

バッテリー規制など、欧州を中心にCFPに着目した規制の検討が進められており、日本においても、CFPの可視化・削減の取組み強化が進んでいます。

このような背景を受け、CFPを算定し、GHG削減の取組みにつなげている日本の企業は増加しており、サプライヤーへの要求として、CFPの開示を求めたり、将来的にCFPを調達条件として考慮することを検討したりする動きが見られます。競合他社および規制に先駆けてCFPの可視化・削減に対応することにより、低/脱炭素製品によるブランド価値向上・取引拡大・新市場創出へつながる機会となる一方、対応しない場合、製品の提供価値の低下や取引縮小につながるリスクがあります。

2.CFPの取組みにかかわる課題

CFPに取り組むうえで、算定方針の検討、算定範囲の設定、CFPの算定、検証・報告・活用、削減の各ステップにおいて、以下のような課題が生じています。

CFPにかかわる取組み よくある課題例
1.算定方針の検討
  • CFPに取り組む意義や目的が不明瞭である
  • 削減目標の設定が難しい
2.算定範囲の設定
  • 部品数が多く、すべての部品を把握するのに手間がかかる
3.CFPの算定
  • 製品数・部品数が多く、CFP算定の工数が大きい
  • サプライヤーから1次データを入手するのが困難である
4.検証・報告・活用
  • 同一算定ルールに基づいていないため他社製品と比較できない
  • 算定結果を商品販売戦略に活かすことができない
5.削減
  • 設計段階でCFPが予測できず効果的な削減ができない
  • 検討した削減施策を評価することが難しい

3.CFPを効率的に削減するポイント

(1)1次データの取得・活用

データベースから得られる排出係数の2次データの活用により、効率的にCFPの算定ができますが、GHG排出量が大きいプロセスでは1次データの取得・活用が推奨されます。サプライヤーからのデータを取得する難易度は高いものの、より精緻な数値になり、サプライヤーの削減努力も反映されます。

(2)企画・設計段階でのCFP算定

商品企画・設計開発、生産準備、調達、製造という製造業のバリューチェーンのなかで、製品の機能、性能、コストを満たすために、どのような仕様の部品や素材を選定して設計するかを決める商品企画・設計開発段階において、CFPの大部分の要素が決定されます。このため、商品企画・設計開発の段階でCFP削減の取組みをすることが大きな削減効果につながると考えられます。

製造業における効率的なCFP削減のポイント_図表1

4.まとめ~効率的なCFP削減のために

CFPの可視化・削減を効率的に進めるには、まずCFPにかかわる社会や企業動向の調査、CFPの可視化・削減に取り組む目的を整理したうえで、取組みのロードマップを策定することが肝要です。

【目的整理およびロードマップ策定の要点】

  • 社会動向の調査
    • 社会全体の動向調査
  • 他社動向の調査
    • 製品セグメントに対する顧客層を整理
    • 顧客層の要求を調査
  • 目的の整理とロードマップ策定
    • CFPの可視化・削減に取り組む目的を整理
    • 取組みのロードマップを策定

次に、CFPの可視化、削減施策の発案・実装、CFPの可視化・削減にかかわるIT導入の構想策定、要件定義、インプリメンテーション、運用を行います。

【現状のCPF可視化と施策発案・実行の要点】

  • CFPの可視化
    • 代表製品の現状のCFPを可視化し、ホットスポットを分析
  • CFPの目標値を設定
    • 削減施策の発案、実装
    • 削減施策の先進事例を調査
    • 削減施策を発案し、施策ロードマップを策定
    • 施策実行にあたっての社内の仕組みを構築

【CFP可視化・削減に係るIT導入の要点】

  • 構想策定
    • CFP可視化・削減に係る業務・ITの現状課題とあるべき姿を整理
  • 要件定義・インプリメンテーション・運用
    • あるべき姿としての業務フローを定義
    • 要件定義(機能要件、非機能要件)
    • ITシステムを導入し、トライアル運用、教育、定着を支援

システム要件定義やインプリメンテーション・運用はITベンダーにて実行するため、ITベンダーの選定も必要になります。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 掘井 祐貴

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