欧州ではさまざまな産業領域でGaia-X承認プロジェクト(認定プロジェクト、ライトハウスプロジェクト、ライトハウスデータスペース)が推進されています。本連載では第4回までの製造業のデータスペースの解説、第5回ではヘルス領域のデータスペース構築を目指すHealth-XdataLOFT(以下、Health-X)について解説してきました。第6回目となる本稿では、エネルギー領域のデータスペース構築を目指すomega-x、およびその他のデータスペースの状況について解説します。

1.omega-xのコンセプト

エネルギー領域のデータスペースであるomega-xの概念、およびアーキテクチャは、データスペースに関する欧州の主要なリファレンスであるインターナショナル・データ・スペース・アソシエーション(IDSA)とGaia-Xの両方で採用されているアプローチに大きく依存しており、FIWARE、BDVA/DAIRO、SGAM(純粋なエネルギーセクター)などの追加のリファレンスも含まれています。

IDSAアプローチはデータ主権に重点を置くもので、特定の企業または個人が自身の保有するデータに対して自己決定的に行動するものとしています。したがって、そのリファレンスアーキテクチャの主な目標は、健全で安全、かつ信頼できるデータ取引のための適切な要件を導き出すことです。

エネルギー業界におけるomega-xの動向_図表1

出典:omega-X「Concept」を基にKPMG作成

2.omega-xのアーキテクチャ

データは新しい資源の源であり、データ共有はその価値を引き出す鍵となります。しかし、データ共有は、セキュリティ、プライバシー、ガバナンス、相互運用性の面で大きな課題をもたらします。omega-xのアーキテクチャは、これらの側面を犠牲にすることなく、異なるドメインやプラットフォーム間でデータ共有を可能にすることを目的としています。このアーキテクチャの主要コンポーネントは、Eclipse Dataspace Connector(EDC)です。

EDCは、セキュリティ、プライバシー、ガバナンスを維持しながらデータ共有のソリューションの提供を目的としたオープンソースプロジェクトです。EDCは、データ交換の共通ルールと標準に同意するデータプロバイダーとコンシューマーのネットワークであり、安全でスケーラブルなデータスペースを構築できるフレームワークです。EDCは、International Data Spaces(IDS)や、Gaia-Xなどの既存のデータスペースパラダイムを活用して、さまざまなクラウド環境やエッジ環境間でのデータ共有を容易にします。

EDCは、小さなコアコンポーネントと追加機能を提供する拡張機能からから構成されており、拡張可能になるように設計されています。コアコンポーネントは、ID管理、ポリシーの適用、データ転送、監査など、データスペースの作成と管理のための基本機能を提供します。拡張機能は、特定のクラウドプラットフォームやプロトコルのコネクタなど、コアにプラグインできる追加機能を提供します。さらに、エネルギー、産業、IoT、医療など、さまざまなシナリオでEDCを使用する方法例を提供するサンプルリポジトリもあります。

EDCはモジュール式で、柔軟性と拡張性に優れています。各データスペースの特定のニーズと要件に応じてカスタマイズし、さまざまなシステムやアプリケーションと統合できます。また、EDCはオープンソースとオープンスタンダードの原則に従っており、透明性、相互運用性、および他のデータ共有イニシアチブとの互換性を確保しています。

omega-xプロジェクトは、EDCを共通の構成要素として使用することで、ドメイン間および国境を越えたデータコラボレーションをサポートできる、フェデレーションされたスケーラブルなデータ空間インフラストラクチャを作成することを目指しています。また、このプロジェクトは、信頼、主権、イノベーションに基づくヨーロッパのデータ経済を促進するEDCのさらなる開発と採用への貢献も目的としています。

エネルギー業界におけるomega-xの動向_図表2

出典:omega-X「OMEGA-X’s Technical architecture insights: the Eclipse Dataspace Connector」を基にKPMG作成

3.omega-xの現状

omega-xプロジェクトには、エネルギー関係者がピックアップした特定の問題に対して共通のデータスペースを持つことの価値を示す4つのユースケースファミリーの設定が含まれています。

エネルギー業界におけるomega-xの動向_図表3

出典:omega-X「Pilots」を基にKPMG作成

  • 再生可能エネルギー

再生可能エネルギー源(RES)の利用可能性を高め、CO2排出量を削減するために、再生可能エネルギープラントの所有者とサービスプロバイダーが運用とメンテナンスを最適化できるようにします。

この omega-xユースケースファミリーは、スペイン(カラバカ/バリェス・ウリアンタル、ラ・カルロータ/コルドバ)とフランス(ナルボンヌ)の3つのパイロットで構成されています。

  • 地域エネルギーコミュニティ

異なるエネルギーベクトルからのデータを活用して、各ベクトルを個別に最適化するのではなく、地域社会全体のパフォーマンスを最適化します。

このOMEGA-Xユースケースファミリーは、スペイン(グラノリェルス)、イタリア(オーシモ)、セルビア(ベオグラード)、ポルトガル(マイア市)の4つのパイロットで構成されています。

  • 電気自動車

データ共有によって、予約などのサービスを容易にし、規模を拡大する方法や、再生可能エネルギーの国境を越えた自家消費などの革新的なサービスを構築する方法を示します。充電ポイントから送電システムオペレーター(TSO)までの電力システムが国境を越えて関与します。

このomega-xユースケースファミリーは、フランス/ベルギーの1つのパイロットで構成されています。

  • 柔軟性

サービスプロバイダーが複数のソースからの拡張データセットにアクセスできる場合に、地方自治体レベルでの柔軟性の識別と提供のために達成できるパフォーマンスの向上を実証することを目指します。

このomega-xユースケースファミリーは、ポルトガル(マイア市)の1つのパイロットで構成されています。

4.エネルギー関連におけるその他のデータスペースの状況

データスペースを構築する際の枠組みとして代表的なものはIDSAとGaia-xがあります。エネルギー関連のデータスペースは現在のところIDSAに準拠したものが多く存在している状況です。

IDSAはデータスペースの標準の作成に取り組んでいる非営利団体です。データスペースは、指定されたガバナンスフレームワーク内で参加者間の安全なデータ共有を保証し、信頼を構築し、データ主権を維持するように設計されています。参加企業はおよそ170社、31ヵ国に及んでいます。

IDSAにて発行している「The Data Spaces Radar(Version 4 March 2024)」によると、21件のエネルギー関連のデータスペースが登録されています。製造業や自動車関連はGDSOやCatena-Xのように拡張・運用段階のデータスペースがある一方で、21のエネルギー関連のデータスペースは、多くが実装・準備段階の状況です。

エネルギー業界におけるomega-xの動向_図表4
Phase Energy Mobility Manufacturing
Scaling Stage 0 1
-GDSO
0
Operational Stage 0 1
-Catena-x
1
Implementation Stage

4
-Energy Data Space
-PLATOON:Smart Grids
-PLATOON:Wind Energy
-Wind Energy Generation Data Space

2 16
Preparatory Stage 12
-omega-x 他11
2 5
Exploratory Stage 5 0 2

出典:International Data Spaces Association「The Data Spaces Radar」を基にKPMG作成

5.IDSAにおける実装段階のデータスペース

Implementation Stageにあるデータスペースについて、いくつか紹介します。

PLATOON:Smart Grids, Wind Energy

PLATOONの目的はエネルギー部門をデジタル化し、破壊的技術の導入によってより高いレベルの運用の卓越性を実現することです。プロジェクト期間中、PLATOONは分散エッジ処理とデータ分析技術を展開し、エネルギー分野の専門家が簡単にリアルタイムのエネルギーシステム管理を最適化できるようにしました。エネルギーバリューチェーンにおける複数当事者間のデータ交換、調整、協力のためのさまざまな利害関係者間のデータガバナンスは、IDSベースのコネクタによって保証しています。

Wind Energy Generation Data Space

非営利財団のTeknikerによるプロジェクトです。現在、風力タービンの運用から収集されたデータは風力発電所の運営者と機器メーカによって保持されておりデータ共有が進んでおらず、データの所有者である彼らだけが付加価値を引き出すことができ、コンポーネントサプライヤーやサードパーティーのサービスプロバイダーなど、バリューチェーンの他の関係者は風力タービンの運用データを分析し、そこから学ぶ機会を得ることができていません。この点に関して、IDSAの提供するリファレンスアーキテクチャを利用して、風力エネルギーデータ空間に沿った信頼できるデータ共有を促進することを進めています。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 田野岡 雄介

デジタルの新たな潮流、欧州インダストリアルデータスペース

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