DePIN(Decentralized Physical Infrastructure Network)とは、分散型物理インフラネットワークと訳され、トークンをインセンティブとして分散されたリソースを有効活用することで、世の中に必要とされるインフラの構築または維持するコンセプトのことを指します。トークンを活用し人々の行動が価値として認識されることで、従来はアプローチが困難だった社会課題に対する新たな解決策として期待されています。
本稿では、DePINの現況を解説するとともに、この先の展望について筆者の見解を述べます。

1.DePINとは

【DePINの概要】

DePINとは、分散型物理インフラネットワークというように、分散されたリソースを有効に活用することで、効率的に物理インフラの構築および維持に貢献することを目指す概念です。

現在インフラの構築や維持には、企業や自治体などの組織が莫大な費用と労力を投じています。そのため、費用対効果が高いインフラの構築や維持が強く求められており、そうでないインフラは増加する維持コストに耐えられず、やむを得ずに衰退していく例も見受けられます。特に、人口減少が進む日本においては、従来どおりの限られたリソースを効率的に活用することが重要な課題となっています。

こうした状況下では、Web3.0の技術を活用したトークンをインセンティブとし、組織の垣根を越えて、分散した個の力を活用することでインフラを構築、維持するという新たなプロジェクトがいくつか登場しました。初期のプロジェクトは、個人が所有するコンピュータデバイスの空きストレージやGPUを需要者に共有することで、遊休コンピュータリソースを有効活用するといった、デジタルインフラの構築が中心でした。最近では、そうしたリソースの有効活用を、現実社会のインフラの構築や維持にも適用する方法が注目されています。分散型の仕組みを活用した新しいインフラ構築の考え方はDePINとして知られるようになり、こうした概念が前述した課題を解決し、持続可能なインフラの構築や維持を実現させることが期待されています。

【インフラ維持の仕組み比較】

DePIN ~分散型ネットワークがもたらすインフラと社会の変革~_図表1
【ブロックチェーンを用いる意義】

DePINの重要な特徴として、ブロックチェーンを基盤としたトークンをインセンティブに用いる点が挙げられますが、その意義はどこにあるのでしょうか。主に以下の2点が考えられます。
 
  • 分散的なリソースの集約

    DePINでは、分散しているリソースを効率的に集約することで、大きな力を生み出し、社会インフラの構築や維持に貢献することが可能になります。トークンによるインセンティブにより、その貢献に携わる多くの人々に対して報酬を支払い、これまで特定の組織や企業だけでは解決が難しかった課題にも対応できます。つまり、不特定多数に対して効率的に価値を移転させるために、トークンを用いる利点があると言えます。

    さらに、誰でもネットワークに参加することができ、簡単な作業やゲーム感覚で報酬を受け取ることが可能であるという気軽さも、DePINというネットワークの拡大と普及に役立つと考えられます。

  • スマートコントラクト(契約の自動執行)による効率化

    従来のインフラの構築や維持には莫大な費用と労力がかかるということは上述のとおりですが、ブロックチェーンを基盤として用いることで、運用にかかる負担を軽減することができると考えられます。これは、ブロックチェーンの特徴であるスマートコントラクト(契約の自動執行)を活用することで、あらかじめ設定されたルールに基づき、自動的かつ効率的に処理を実行できる仕組みによるものです。さらに、スマートコントラクトを通じてトークンが効率的な価値の移転が可能になるという点も意義の1つと言えます。

2.DePINの事例

本節では、3つの事例を通じてDePINの活用における可能性と実際の取組みを紹介します。それぞれの事例がどのようにして分散型ネットワークを活用し、課題解決や価値創出につながっているかを考察します。
 
  • Filecoin(FIL)

    Filecoinは、ユーザがデバイスの空きストレージを貸し出すことで、報酬が得られる分散型ストレージネットワークです。独自トークンのFilecoinが発行されており、ストレージやネットワーク提供者に対する報酬として活用されています。また、世界中にFilecoinにおけるストレージ提供者が存在しており、web3.0マーケット分析企業であるMessari社のレポートによると、2024年6月末時点で約2,400人と報告されています。

  • Hivemapper

    Hivemapperは、専用のドライブレコーダーで撮影されたデータを基に地図を構築する分散型マッピングネットワークです。ネットワークの貢献者は、車に専用のドライブレコーダーを取り付けて道路を走行し、その際に収集されたデータをHivemapperに提供します。その報酬として、HONEYという独自トークンを受け取ることができ、構築された地図データの購入にもHONEYが利用されます。
    日本では、2024年8月にDMM Crypto社がHivemapperと提携し、国内での普及を支援するための実証実験を行うことを発表しています。

  • ピクトレ

    ピクトレは、参加者が撮影した電柱やマンホールの写真を設備保守に活用する日本発のDePINプロジェクトです。東京電力パワーグリッド社やDigital Entertainment Asset(DEA)社等が共同で開発・提供を行っています。対象地域の電柱やマンホールを撮影して提供することで、報酬としてDEA社が発行するDEAPコイン、もしくはギフト券を受け取ることができます。
DePIN ~分散型ネットワークがもたらすインフラと社会の変革~_図表2

3.DePINがもたらすインフラと社会の変化

分散されたリソースの集約によってインフラ構築を目的とするDePINは、インフラの枠を超えて社会全体に多大な影響を与える可能性を秘めています。DePINは、具体的にどのような変化をもたらすと期待されているのでしょうか。その可能性を探るとともに、以下の3つの視点からDePINが社会やインフラにもたらす変化を解説します。

【高度なシェアリングエコノミーの構築】

DePINは、遊休資産の活用やリソースを効率的に集約する点で、シェアリングエコノミーに近い概念ですが、既存のシェアリングエコノミーとは異なる特徴を持っています。シェアリングエコノミーの普及・発展の過程で、ライドシェアやデリバリーサービスなどの遊休資産やリソースを有効に活用した新たな労働の形が誕生しました。これにより、人々はより柔軟な働き方を通して、対価を得るということが可能になりました。

一方で、DePINは日常生活の中の行動が、シームレスに社会への貢献につながり、より柔軟な形でその対価を得るということが可能になりました。つまり、従来価値を見出すことが難しかった日常の行動が貢献として認識され、その貢献に対して価値がつくようになったということです。この観点において、DePINは個人の行動の規模にかかわらず、それらの貢献を集約し、社会全体に広く反映する仕組みを提供します。これにより、持続可能な社会の実現に向けて大きな可能性を秘めています。

【インフラにおける最新情報の共有】

現実社会のインフラを維持するDePINプロジェクトでは、多くの参加者によってインフラの点検が行われるため、従来よりも高頻度で設備点検や情報更新が行われることが期待されています。この取組みにより、インフラ設備の劣化をいち早く検知し、事故や故障などの被害を抑制することができると考えられます。また、情報の鮮度が重要な領域では、DePINを通じて最新の情報を収集することで、従来は困難とされていた新たなサービスの構築も検討できます。

【インフラの維持にとどまらない社会貢献の可能性】

持続可能なインフラの構築や維持に加え、DePINには多様な方法で社会貢献を推進する役割も期待されています。

DePINの特徴として誰もが貢献できる仕組みが挙げられます。さまざまな背景を持つ人々が等しくネットワークに参加し、貢献することができます。どのような人であっても、意志のある人には社会貢献を通じて報酬を得る機会を提供できると同時に、各個人の能力を発揮することにもつながります。そのため、DePINは従来よりも多くの人に活躍の場を提供し、社会へ還元することができる可能性を秘めています。

4.課題と今後の展望

DePINに期待されることは上述のとおり多岐にわたりますが、依然としていくつかの課題があります。

【インセンティブ設計】

DePINは、多くの人々の貢献があって初めて成り立つ仕組みです。したがって、多くの参加者を集めるための効果的なインセンティブ設計がきわめて重要です。独自トークンを発行して提供する場合、そのトークンの価格が大きく変動しないよう安定した価値を保つ仕組みが求められます。トークンが下落し続ければ参加者も離れて行き、持続可能性が損なわれてしまいます。一方で、ギフト券やステーブルコインなどの価値が安定したものを報酬とする場合、持続的にその財源を確保できる堅実なビジネスモデルを構築する必要があります。

【参加資格】

DePINプロジェクトの中には、参加するために一定のハードルが存在するものもあります。たとえば、参加のために特定のデバイスを購入する必要があるようなプロジェクトでは、多くの参加者をネットワークに呼び込みたいにもかかわらず、ハードウェアの供給が地理的や法律的に、または生産コスト上の理由で制約を受ける場合があります。これにより、ネットワークへの貢献意欲がある人がいても、ハードウェアにアクセスできなければ、その潜在的な貢献を失う可能性があります。多くの参加者を呼び込むためには、すでに多くの人々が所有しているものや、容易に入手できるものを活用して、ネットワークに簡単に参加できるということが重要だと考えられます。

【情報の品質】

参加者によって集められた現実社会の情報をもとに、インフラの構築または維持を目指すDePINプロジェクトでは、情報の品質をいかに担保するかが重要となります。多くの参加者から情報を集めたとしても、それがインフラの構築や維持に役立たないようなものであれば意味がありません。一般的に、高品質な情報を担保するためには、精度を上げる仕組みや検証プロセスが必要となり、それに乗じてコストがかかります。そのため、品質を考慮したうえでインフラの構築または維持にかかるコストが妥当であるかを判断する必要があるでしょう。

5.まとめ

従来のように単独の事業者が莫大な費用や労力を投じてインフラを構築または維持していくには限界があると考えると、DePINは持続可能な社会の実現に向けた新たな可能性と言えます。また、さまざまな社会課題の解決にも活用し得るものであるため、実用的なビジネス展開が期待されています。

人が行動する理由は、必ずしも金銭的な要因だけではありません。社会への貢献意識ややりがいといった目に見えない部分に価値を見出し、リソースを集約し、さらに引き出す可能性を持つ点において、DePINの価値があるように感じます。DePINには、従来の労働や活動にとらわれない、新たな社会貢献の枠組みを提示し、持続可能な社会の実現に向けた可能性や今後の発展が期待されます。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

<参考>

執筆者

KPMGコンサルティング 
コンサルタント 佐藤 憲信

Web3.0 ~ブロックチェーンが支えるインターネット上の新しい世界観~

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