確定拠出年金の掛金拠出限度額見直しと留意点
2024年12月1日施行の法改正に伴い確定給付企業年金等を実施している企業の企業型確定拠出年金および個人型確定拠出年金の掛金拠出限度額が変更となります。本稿ではその内容に触れるとともに、法改正を踏まえた企業型DCの活用方法、留意点等を解説します。
2024年12月施行の法改正による確定拠出年金の掛金拠出限度額の見直し内容と、それに伴う企業型DCの活用方法、並びに留意点
はじめに
2024年12月1日施行の法改正に伴い確定給付企業年金(以下、DB)等を実施している企業の企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)および個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)の掛金拠出限度額が変更となります。本稿ではその内容に触れるとともに、法改正を踏まえた企業型DCの活用方法、留意点等を解説します。
本稿のポイント
|
確定拠出年金の掛金拠出限度額の見直し内容
2024年12月1日施行の法改正に伴い、企業型DCおよびiDeCoの掛金拠出限度額が変更となります。これまで、DB等を実施している企業の拠出限度額は、企業型DCでは一律2.75万円/月、iDeCoでは毎月2.75万円から各月の企業型DCの事業主掛金額を差し引いた額(ただし、1.2万円/月を上限とする)となっていましたが、今後は5.5万円から毎月の企業型DCの事業主掛金額およびDB制度の水準等に応じた他制度掛金相当額を差し引いた額(iDeCoは月額2万円/月を上限とする)が掛金拠出限度額となります。
【改正前】 | 企業型DCのみに加入する場合 | 企業型DCとDB等の他制度に加入する場合 |
企業型DCの事業主掛金額 | 月額5.5万円 | 月額2.75万円 |
iDeCoの掛金額 | 月額5.5万円ー各月の企業型DCの事業主掛金額 (ただし、月額2万円を上限) |
月額2.75万円ー各月の企業型DCの事業主掛金額 (ただし、月額1.2万円を上限) |
【改正後】 | |
企業型DCの事業主掛金額 | 月額5.5万円ー他制度掛金相当額(経過措置あり) |
iDeCoの掛金額 | 月額5.5万円ー(各月の企業型DCの事業主掛金額+他制度掛金相当額) (ただし、月額2.0万円を上限) |
出典:「確定給付企業年金制度の主な改正(令和6年12月1日施行)」(厚生労働省)を加工して作成
他制度掛金相当額は給付水準や各DBの予定利率等によって変わってくるため、今後、企業型DCの掛金拠出限度額は実施企業ごとに変わることになり、一般にDBの給付水準が高ければ高いほど企業型DCへの掛金拠出限度額が低くなります。
ただし、企業型DCの掛金拠出限度額については経過措置が設定されており、法改正の時点で他制度掛金相当額が2.75万円以上となり、企業型DCの掛金拠出限度額が従前より減少してしまう企業型DCについては掛金拠出限度額を法改正前と同額の2.75万円/月とすることが可能となっています。ただし、経過措置は恒久的なものではなく、企業型DCにおいて、事業主掛金を変更した場合やDBの給付設計を変更し、掛金を再計算した場合については経過措置の適用が終了となり、他制度掛金相当額を考慮した法改正後の掛金上限額が適用されることになります。iDeCoについては経過措置が無く、即時に法改正後の内容が適用されることにも留意が必要です。
掛金拠出限度額の拡大に伴う企業型DCの活用について
今回の法改正に伴い、多くのDB実施企業では企業型DCの掛金拠出限度額が上がることになると言われています。従って、以前は上限額が2.75万円/月であったためにやむを得ずDC移行が限定的になっていた企業にとっては、掛金拠出限度額が上昇することで追加のDC移行が可能となります。
ただし、DC移行を行うとそれに伴う会計処理が必要となる点には留意が必要です。過去分を含めて企業型DCに移行を行う場合は制度の一部終了(制度全体を移行する場合は全部終了)に該当することになり、終了処理が必要となります。一方、将来分のみを企業型DCに移行させる場合は支払等が伴わないため、退職給付債務(PBO)の変動額を過去勤務費用として認識する必要が生じます。
なお、DCの掛金を一定の算式で計算したうえでそれが掛金上限額を超える場合における超過分を退職一時金やDB制度で積み立てている制度の場合等は、仮にDC掛金上限額が上昇すると、DC掛金が増額、結果として退職一時金やDB制度での積立が減少することが考えらます。つまり、この場合においても前述の将来分のみを移行させるケースと同様の会計処理が必要になってくる可能性があり留意が必要です。
また、企業型DCでの活用について、事業主掛金を変えないとしても掛金拠出限度額が増額した分を加入者掛金の拠出(以下、マッチング拠出)に充てることも可能です。事業主掛金が高く十分にマッチング拠出の枠を確保できていなかった場合はマッチング拠出の増額により、事業主掛金と同額または近い水準まで拠出できるようになる可能性があります。
今後の制度変更時の留意点
前述の通り、今回の法改正時には経過措置が設定され、他制度掛金相当額が2.75万円を超える企業であっても法改正前の掛金拠出限度額(2.75万円/月)を適用することが可能となっています。そのため、法改正時にDCの掛金拠出限度額を引き下げる必要はありません。
ただし、企業型DCにおいて、事業主掛金を変更した場合やDBの給付設計を変更し、掛金を再計算した場合等は経過措置の適用(法改正前の旧掛金制度の適用)は終了し、新掛金制度が適用されることとなります。そのため、経過措置を適用している企業が退職給付制度の改定が必要となった場合、今後はDB、DC制度の大幅な見直しが必要となる可能性があります。定年延長や等級制度の変更等の人事制度全体の改定時は退職給付制度を実質的には変えないように設計するケースもありますが、そのような設計を行う際には法改正後の掛金拠出限度額の適用(つまり、この場合においては掛金拠出限度額の引下げを意味する)が制約条件になり得ると考えられます。退職給付制度の改定が必要となる際は事前に十分な検討をしておくことが重要です。
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
金融アドバイザリー事業部
ディレクター 普照 岳