本連載は、日刊工業新聞(2024年5月~7月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
協調とシェアリングによる通信業界の次なるステージ
通信業界の「競争」と「協調」をテーマに、国内外の事例や動向について考察してきました。
最終回である第6回は、日本の通信業界で今後起こり得るシナリオと、「競争」と「協調」によってもたらされる未来を考察します。
今後「協調」が進むことにより、技術とビジネスにどのような変化が起こるのでしょうか。技術面ではネットワークアーキテクチャが「中央集権型」から「自律分散協調型」に変わっていくと考えられます。従来の1社ですべてのネットワークを運用・管理するのではなく、複数社が「協調」する場合には自律分散協調型の方が効率が良いからです。加えて、この自律分散協調型アーキテクチャーは、マルチアクセス・エッジ・コンピューティング(MEC)、Web3.0、人工知能(AI)によるネットワークの自律制御などの高度化との相性の良さも追い風になるでしょう。
次に、ビジネスとしては、ビジネスモデルが「垂直統合型」から「水平分業型」へ変化することが考えられます。通信業界において複数社が設備を共有利用するインフラシェアリングがその典型と言えますが、米国の大手通信会社が自社のコア設備をクラウド事業者へ売却したように、シェアリングは無線アクセスネットワーク(RAN)だけではなく、コア領域にも広がってくるでしょう。
これらのネットワークアーキテクチャとビジネスモデルの変化は業界構造そのものの変化となり、新しいプレーヤーが出現するのではないでしょうか。たとえば、電力業界では電力の自由化によって垂直統合型から水平分業型へ移行しましたが、その変化により電力の需給バランスを最適化する「アグリゲーター」(特定卸供給事業者)が出現しました。
通信業界でも将来、アンテナや基地局などの通信インフラを土地や建物の所有者が持つことができるようになると、複数の所有者が持つ通信インフラを束ねて、通信事業者やインフラシェアリング事業者につなぐ、通信版アグリゲーターが出現するかもしれません。
一方、「協調」はすべてのプレーヤーが提供した価値に対する対価が平等にならないと成立しない難しさがあります。そのためのルール作りや制度設計は複雑ですが、生成AIの出現により「協調」ベースの未来の通信業界の実現可能性が一段と高まったのではないかと考えられます。今後の通信業界におけるネットワークアーキテクチャとビジネスモデルの変化動向を注視していく必要があるでしょう。
【「協調」による新しいビジネスモデルとネットワークアーキテクチャ】
日刊工業新聞 2024年7月26日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 石原 剛