本連載は、日刊工業新聞(2024年5月~7月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
6G通信業界団体の最新動向と市場形成への取組み
海外の通信業界では「競争」と「協調」を戦略的に捉え、グローバル市場での競争優位性を確立するための取組みが進んでいます。第6世代通信(以下、6G)の覇権をめぐっての争いが熱を帯び始めるなか、多くのプレーヤーを業界団体へ引き込み協調することで、世界市場を狙っているのです。
欧州では、先端研究段階、実用化段階それぞれに業界団体が存在し、欧州連合(以下、EU)からの資金提供を受けている団体も多々あります。民間の雄が重職について団体の活動をリードし、産学官連携により世界の市場を開拓しようという構成になっています。欧州では、国の面積や経済規模のわりに 複数の通信キャリアが存在する国が多い傾向にあります。こうした状況から、各国の通信キャリアが協調して業界活動を推進し、EUとして世界をリードすることで市場形成を目指しています。その結果、各国、通信キャリア各社が潤うという設計思想で業界が回っているのです。
次に米国を見てみましょう。米国も6Gにおいてイニシアチブをとることを目的とした業界団体が存在し、あらゆる同国の主要な通信キャリア各社も加入しています。米国の団体は、次世代技術の実用化や商用化を主な目的に活動していますが、その背景には、軍事産業から新しい技術が勃興し、それが民需へと転換されるという米国の特徴があります。そのため、先端技術研究は軍需の一環として取り組まれるケースが多くみられますが、民需への転換の際には民間のプレーヤーが協調してその技術を実用化まで昇華させる枠組みとなっているのです。
そして現在、欧州と米国は手を取りつつあります。双方が協調して6Gを進めるロードマップのなかでは、技術実証やユースケースの創出、さらには人材育成戦略での連携も謳われています。その背景には中国の動きがあると考えられます。中国も欧米と同様に、6Gに関する業界団体が形成されており、大手通信ベンダーは第5.5世代通信(5.5G)を独自に制定し、それに対応した通信機器やさまざまなユースケースを展開しています。ここで実績を積み、6Gの普及に弾みをつける狙いがあるとみられます。
このような業界団体による「協調」は、すぐに経済的メリットを通信キャリアへもたらすものではありません。
しかし、「協調」することにより、1社だけでは成し得ない大きな市場を形成することができる可能性があります。
日本でも「協調」が進み、世界で大きな市場を獲得するムーブメントになることが期待されます。
【各国・地域の6Gに関する業界団体の動き】
国・地域 | 6Gに関する業界団体の動き | 連携状況 |
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欧州 | 先端研究段階・実用化段階それぞれに業界団体が存在する。 EU全体として世界をリードし、市場形成を目指す。 |
連携 |
米国 | 実用化を目指す業界団体が存在する。 軍事産業から新しい技術が勃興する場合も多い。 |
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中国 | 実用化を目指す業界団体が存在する。 大手通信ベンダーは独自に5.5Gのユースケースを展開している。 |
未連携 |
日刊工業新聞 2024年7月12日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。