不平等・社会関連財務開示タスクフォースが始動、2026年末のフレームワーク公表を目指す
2024年9月、不平等・社会関連財務開示タスクフォース(Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures(TISFD))が正式な設立を発表し、今後の具体的な活動方針を公表しました。
不平等・社会関連財務開示タスクフォースが正式な設立を発表し、今後の具体的な活動方針を公表しました。
2024年9月、不平等・社会関連財務開示タスクフォース(Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures、以下「TISFD」)はウェブサイトを更新し、正式な設立を発表するとともに、今後の具体的な活動方針を説明した“TISFD -People in Scope-"を公表しました注1 。
これまでの動向
2023年8月に、タスクフォースの統合を進めていた、不平等関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Inequality-related Financial Disclosures、以下「TIFD」)と、社会関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Social-related Financial Disclosures、以下「TSFD」)による設立準備組織は、両者の統合組織であるTISFDが発足予定であることを公表しました。
その後、TISFDの発足に向け、おもにTIFD、TSFDのメンバーから構成されるワーキンググループを設置、2024年5月にウェブサイトの公開と併せて、TISFDの概要に関する説明資料および活動方針案を公表し、TISFDとして取り扱うテーマやマテリアリティに対するアプローチ等、活動方針案の内容に対するフィードバックを受け付けていました。
そして、2024年9月23日にウェブサイトを更新して正式な設立を発表するとともに、フィードバックを踏まえた活動方針である“TISFD -People in Scope-”、およびフィードバックへの考え方にあたる“Summary of Findings on the Proposed Scope and Mandate and Proposed Governance Model”を公表しました注2 。
本稿では、公表された活動方針である“TISFD -People in Scope-” (以下、「活動方針」)を中心に、TISFDの不平等・社会課題に関する現状認識、開示フレームワーク策定のアプローチ、計画している成果物および今後の活動スケジュールについて解説します。
現状認識と開示フレームワークの必要性
TISFDは活動方針において、所得の偏りや気候変動・生物多様性といった課題に起因した不平等の拡大が、社会の分断につながるとともに、人的資本の形成や金融市場の安定性を脅かすリスク要因になっているという現状認識を示しています。
そのうえで、現在顕在化している不平等や社会課題に関するリスクには、企業や金融機関が、意図的であるか否かによらず、人々に直接的・間接的な影響を与えているとし注3 、同時に市場(経済)や公的機関(社会)に対しても、間接的な影響を与えているとしています注4 。
また、企業や金融機関による事業活動は、それを支える従業員・コミュニティ・消費者等(人々)の能力や技能等に依存していると同時に、事業を展開する市場環境(経済)や、公的機関(社会)による規制等の影響の下にあるとしています。このため、企業や金融機関は自らが人々・経済・社会に与えた影響に起因する不平等や社会課題のリスクに、システムとエンティティの2つのレベルでさらされている状態にあるとしています(下図を参照)。
(TISFD -People in Scope-(2024年9月、TISFD作成)を基にKPMGが仮訳作成)
TISFDのアプローチとマテリアリティ
TISFDは、開示フレームワークの検討にあたり、人々が核となるステークホルダーであることを踏まえつつ、企業や金融機関に関連する不平等・社会関連課題に対して、統合的かつ一貫性のあるアプローチを採用するとしています。
採用するアプローチの検討にあたっては、不平等を社会横断的な現象と捉えたうえで、不平等の誘因を生じさせるさまざまな側面(性別、賃金、地域)に関連する影響、依存、リスクおよび機会を検討し、財務リスク・機会に繋がる可能性のある不平等について考慮するとしています。
そのうえで、TISFDは社会課題や不平等に関連して取り扱うトピックが広範であることから、潜在的な情報利用者にとっての関連性(影響、依存、リスクおよび機会の程度)、重要性等を踏まえて、開示フレームワークに取り込む指標および目標の優先順位を決めるとしています。
また、TISFDは開示フレームワークの開発にあたって、企業・金融機関といった各組織や基準設定主体、規制当局によって異なるマテリアリティアプローチが採用されていることを踏まえ、財務マテリアリティとインパクトマテリアリティの双方に適合する開示フレームワークを検討するとしたうえで、それぞれのマテリアリティアプローチに対応した開示推奨事項の明確化に努めるとしています。さらに、TISFDは上記のマテリアリティに加えて、企業をはじめとする組織が不平等に与える影響のエビデンスと、その結果が経済や金融市場の安定性に対して与える影響の調査を通じ、システムレベルのリスクとしての不平等に関するマテリアリティを検討するとしています。
計画している成果物
活動方針によると、TISFDは主に以下の開発を計画しています。
- 企業・金融機関に対して、不平等・社会関連の影響、依存、リスクおよび機会についての情報開示を推奨する国際的な開示フレームワーク
- 企業・金融機関が、開示フレームワークを適用する際、不平等・社会関連の影響、依存、リスクおよび機会を効果的に識別・評価・報告することを支援するガイダンスおよび提言
- 多様なステークホルダーによる、TISFDの開示フレームワーク、提言の理解、および利用に資する研修やキャパシティ・ビルディングのためのリソース
- 企業や金融機関の活動・関心と、それが人々にもたらすプラス・マイナスの結果の関係性を明確にする基本概念
- 企業・金融機関における社会関連の財務リスク、および不平等に関するシステムレベルリスクについてリサーチを実施した一連のエビデンス
開発にあたっては以下の原則に従うとしています。
市場でのユーザビリティ | 情報の作成者・利用者の双方(特に、企業、金融機関)にとって、有用で価値のあるものとする |
企業行動規範との整合性 | 国際的な企業行動規範(ビジネスと人権に関する指導原則(国際連合)、多国籍企業と社会政策に関する原則の三者宣言(国際労働機関)、多国籍企業行動指針(経済協力開発機構))との整合性を確保する |
報告基準との統合 | 既存の報告基準・フレームワークを活用し、調和を図る |
基準・規則との親和性 | 既存の基準設定主体(IFRS財団、GRI、EFRAG等)、サステナビリティ関連開示の義務化に関心のある法域のナレッジパートナーとして行動し、将来の基準・規則への統合を進める |
人々と地球とのリンケージ | 不平等・社会関連課題と、気候変動・自然の損失への対応との間の深い関係性を反映させるため、TCFD提言・TNFD提言の内容を含む、統合的で相互運用可能な“人々と地球の”フレームワークの構築を目指す |
国際的な汎用性 | 提言は国・地域を問わず関連性があり、また公正で価値あるものとなることを確保する |
今後のスケジュール
(1)開示フレームワークの公表まで
TISFDは今後のワークプランとして、開示フレームワークの初版を2026年末に公表することを提案しており、そこに向けた活動方針をフェーズごとに提示しています。
フェーズ1:立ち上げ |
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フェーズ2:ステークホルダーの能力構築 |
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フェーズ3:定義づけと精緻化 |
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フェーズ4:フレームワークの開発と検証 |
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フェーズ5:発行 |
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(2)開示フレームワークの公表後
また、TISFDは2026年末に計画している開示フレームワークの初版公表後の活動方針について、3つのにフェーズに分けて提示しています。
フェーズ | 主な活動目標 |
短期(1~2年以内) |
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中期(2~3年以内) |
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長期(5~10年以内) |
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おわりに
TISFDが正式な設立を発表した4日後には、EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)がTISFDとの間に、今後TISFDが開発する開示フレームワークとESRS(欧州サステナビリティ報告基準)との一貫性を確保するためのワーキンググループへの参加と、ガイダンス資料の共同開発等を通じた適用支援等を含む提携文書を締結した旨を公表しています注5 。
サステナビリティ情報開示の実務担当者においては、不平等・社会関連課題の開示フレームワークがどのように開発され、また制度に織り込まれていくのか、TISFDの動向を注視する必要があると考えられます。
※本記事公表時点で、TISFDから公表されている資料について、日本語版は公表されていません。本記事と資料上の英語原文間に齟齬がある場合は、当該英語原文が優先するものとします。
注1 Taskforce on Inequality & Financial Disclosures | TISFD Global Initiative
注2 TISFD Publishes Feedback Findings on Proposed Scope and Governance Model
注3 TISFDは一例として、賃金水準や労働条件といった労働慣行や、投資先に対する融資条件等を挙げています。
注4 TISFDは一例として、納税や公的機関へのロビー活動を挙げています。
注5 EFRAG and TISFD Sign Cooperation Agreement to Advance Social-Related Financial Disclosures | EFRAG
執筆者
KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン
有限責任 あずさ監査法人
シニアマネジャー 瀧澤 裕也