初回長期脱炭素電源オークションの振返りと次回入札に向けた論点

2024年1月に実施された第1回長期脱炭素電源オークションを踏まえて、次回入札の変更点を説明するとともに、KPMG FASのご支援内容をご紹介します。

2024年1月に実施された第1回長期脱炭素電源オークションを踏まえて、次回入札の変更点を説明するとともに、KPMG FASのご支援内容をご紹介します。

1. 長期脱炭素電源オークションの概観

長期脱炭素電源オークションは、2050年のカーボンニュートラル達成に向け、化石燃料由来の電源から再生可能エネルギー等の脱炭素電源への切替えを支援するための制度である。

脱炭素電源の建設・改修に際する固定費部分の費用に対し、オークションで約定した金額が20年間にわたり支給されることで、巨額の初期投資の回収に対して長期的な収入の予見可能性を付与するものである。

対象となるのは、太陽光・風力等の変動電源、蓄電池、バイオマス、原子力等の脱炭素電源の新設またはリプレース(蓄電池は新設のみ)および既設火力電源の脱炭素電源への改修である。

また、LNG専焼火力の新設・リプレースに関しては、2023~25年度に限り、短期的な需給ひっ迫防止の観点から入札対象とされている。

10万kWの最低応札容量(蓄電池・揚水は1万kW)、および電源種により異なる4~17年の供給力提供開始期限が定められている。

対象となる電源種

初回長期脱炭素電源オークションの振返りと次回入札に向けた論点 図表1

Source: 経済産業省「電力市場における競争状況の評価」2023年

2. オークションの制度上の特徴と入札時の注意点

本オークションは、(1)入札価格算定はコスト積上げのルールであり、厳格に計算式が決まっていること、(2)マルチプライス型である、すなわち落札できる場合は入札価格が落札価格となること、(3)(一部を除き)電源種類を問わず価格のみで勝敗が決すること、(4)入札価格に関しては(特に不自然な高値について)監視を受けることが大きな特徴である。

マルチプライス型であることから、算入する固定費を絞り込み安値入札したうえで、他社の高値入札の恩恵にあずかる戦略は機能しないため、現実的なコストを積み上げる必要がある。一方で、現実的になりすぎると入札価格が高止まりし、落札できないことも想定されるため、可能な限りのコスト削減を行うことが求められる。また、落札できた場合の運転開始期限がリクワイアメントとして存在するため、いたずらに運転開始期限を先延ばしにし、経年での単価減を狙う戦略も機能しない。正攻法以外の戦略がとりづらいオークションといえる。

3. 第1回(R1)の結果振り返り

3.1. R1の結果概観

R1のオークションは2024年1月に実施された。脱炭素電源の募集容量は400万kWであり、既設の火力発電所の改修が100万kW、揚水発電所と系統用蓄電池を合わせて100万kW、残りの200万kWが全体の脱炭素電源から落札される建付であった。また、脱炭素電源に加えLNG火力の枠が設けられ、3年間で600万kWの募集が行われた。

入札結果は、総応札容量1,356万kW(脱炭素電源780万kW、LNG火力575万kW)、総落札容量976万kW(脱炭素電源401万kW、LNG火力575万kW)となった。

3.2. 蓄電池における熾烈な競争

  • 他電源の落札率がおおむね90~100%であるなか、蓄電池の落札率は24%と激しい競争となった
  • 需給調整市場等、継続的に制度設計の見直しが続くなか、将来の収益見通しの立てづらい蓄電池は、他の電源種よりも投資予見性確保のプライオリティが高く、入札が集まったものと考えられる
  • また、蓄電池の落札企業の約60%は外資系企業であり、海外産の蓄電池を利用することを前提に安価な価格設定が可能となったものと想定される
初回長期脱炭素電源オークションの振返りと次回入札に向けた論点 図表2

※1: その他には一般水力、太陽光、風力を含む
Source:「容量市場長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2023年度)」、2024年

3.3. LNG火力への早期入札の集中

  • LNG火力は、2023~25年度の3年間累計で600万kWが募集上限であったが、初年度の2023年に575万kWと、枠のほとんどが落札された
  • 他電源と異なり複数年での上限が設けられていたこと、オークションの意義に照らし2026年以降、LNG火力に門戸が開かれるか不透明であったことから、先行者が入札を急いだものと想定される

3.4. 地方エリアへの入札集中

  • 北海道・東北等の地方部では落札容量の2倍近く、九州では3倍を超える応札となった
  • 上記3地域については、今回最も入札の多かった蓄電池の観点から見ると、調整係数が相対的に高いことから競争力のある価格を示しやすかった点、かつ価格の日次差が相対的に大きく、アービトラージによるビジネスモデルの経済合理性が成立しやすかった点が理由と考えられる
初回長期脱炭素電源オークションの振返りと次回入札に向けた論点図表3

4. R2に向けた変更

4.1. 募集内容の変更

以下3つの理由から、R2の募集容量は初回入札の募集容量400万kWを超える水準に設定される見通し。

  • OCCTOにより本年1月に発表された今後10年の電力需要想定※2において、大幅な需要増が見込まれ、電源投資の重要性向上が喫緊の課題となっていること
  • R2の応札容量が募集容量の約2倍となり、募集容量を大幅に上回ったこと
  • 以下の通り原発の安全対策投資など、対象が拡大される見通しであること

※2:OCCTO 2024年度 全国及び供給区域ごとの需要想定について|需要想定|電力広域的運営推進機関ホームページ (occto.or.jp) 2024年

4.2. 電源種別の募集上限の変更

R2では、蓄電池・揚水が募集上限を大きく上回る応札結果となった。
初回長期脱炭素電源オークションの振返りと次回入札に向けた論点図表4
このことを受け、R2では以下のとおり上限が変更になった。
  • 既設火力改修:R1と同様の上限
  • 蓄電池・揚水:運転継続時間により募集枠を分けて上限を設定
  • 追加の電源カテゴリ:既設原発の安全対策投資の募集に対して上限を設定

4.3. 混焼電源の取扱いの変更

FIT離脱後の混焼電源においては、改修部分の残存簿価を応札価格の算定への組入れが可能となった。
初回長期脱炭素電源オークションの振返りと次回入札に向けた論点図表5

Source:経済産業省20230621_1.pdfおよび093_03_00.pdfを参考にKPMG作成

4.4. 蓄電池・揚水の変更

蓄電池のR1においては2~4万kWの蓄電池に落札が集中。応札全体においては、1万kW台の蓄電池に応札が集まる一方、4万kW以上の蓄電池においても多数の応札があった。

初回長期脱炭素電源オークションの振返りと次回入札に向けた論点図表6

Note:蓄電池の結果のみ抜粋。揚水の応札案件はすべて5万kW以上となった 
Source:「容量市場長期脱炭素電源オークション約定結果(応札年度:2023年度)」、2024年を参考にKPMG作成

これを受け、R2では以下の2点を変更予定。

  • 低入札容量は3万kWに設定
  • 上限価格は運転継続時間別の募集枠ごとに設定

4.5. LNG火力の変更

R1では、3年間の募集容量の大半が埋まり575万kWが落札されたことから、R2での募集容量は当初想定の600万kWを超える水準に引き上げ。
 
また、中長期的な供給力としての利用を想定し、供給開始期限は6年よりも長期に設定。

5. 長期脱炭素電源オークションに向けたKPMG FASの支援

5.1. 支援事例:蓄電池事業者向け、長期脱炭素電源オークション入札支援

サービスメニュー事例概要
クライアント(業種
  • 長期脱炭素電源オークションに蓄電池での入札を検討していた事業者
背景と目的、クライアントの抱える課題
  • 長期脱炭素電源オークションはできたばかりの制度
    複数電源種が価格一本で勝負する制度設計を背景に勝つために求められる入札価格の読みが肝要
  • 入札に際し、蓄電池に関しては事業収支モデルを策定のうえで入札価格を弾いていたため、競合含めた価格水準についての肌感覚はあり
  • 一方で、他の電源種については入札が想定される発電所の顔ぶれや、入札金額の勘所がない状況
提供サービス概要
  • 制度に関するQA対応
  • 蓄電池に加え、他複数電源種について、入札が想定される発電所を複数の条件でスクリーニング
  • 制度設計上想定される複数の入札戦略を特定
  • 電源別に想定される入札価格を、コストの見立てや競争環境に照らし算出
  • 他電源含む競合の動向を基に、リターンを最低限確保しつつ、できる限り入札金額を抑えるための戦術について助言
達成事項
  • 他電源種含む、競合電源の想定入札金額を明らかにし、自社の入札金額の勝ち筋を示せたことで、入札の社内意思決定が円滑に進んだ
事例サンプル
プロジェクトのKSF
  • 制度設計に関する深い理解
  • 幅広い発電事業者・機器メーカー等とのコネクション
  • 都度派生するQAに関するタイムリーな対応

5.2. 支援メニュー

支援メニュー サービス概要
準備段階 度の紐解きと入札方針策定 国内の公共事業入札においては、公募ルールや公開後のパブリックコメントへの回答が不十分であることが珍しくありません。KPMGは、公共の入札案件関連のサービス提供の経験を活かし、裏付けとなるエビデンスに基づく入札方針の策定支援や、その過程でのクライアントの疑問点への回答を提供します。
パートナー戦略の策定支援 長期脱炭素電源オークションでは、他社との共同入札を予定している企業も少なくありません。KPMGは、クライアントのニーズに応じて、潜在的なパートナーのロングリストとショートリストの作成と評価を実施しています。
国内の脱炭素電源市場調査 長期脱炭素電源オークションを活用した市場見通しや今後のルールについては不透明な点が多い状況です。KPMGは、これまでの支援で培った専門家ネットワークを活用して、市場見通しの分析や第2回以降の制度変更の可能性についての仮説構築により、クライアントの入札戦略へのインプットを行います。
入札検討段階
入札価格のベンチマーク分析
長期脱炭素電源オークションは、マルチプライスオークションであることから、落札できるギリギリの水準の高値で入札することが収益性向上のためのカギとなります。
KPMGは、出馬が想定される競合を、一定のロジックに基づき特定するとともに、競合の入札価格の水準を試算することで、クライアントの入札価格決定を支援します。
収益性分析に基づくコスト削減施策の検討
長期脱炭素電源オークションでは、電源により競争が激しいことから、コストをできる限り削ったうえでの入札が求められることもあります。KPMGは、落札に必要となるコスト削減目標の定量化および施策検討を支援します。
収益性分析と収益を最大化するビジネスプラン策定支援
長期脱炭素電源オークションのみではリターン水準が低いため、他市場収益を組み合わせ、売上を最大化することが求められます。KPMGは、公募ルールに沿いつつも、他市場収益と組み合わせることで、リターンの水準を最大化するための事業計画策定を支援します。

執筆者

KPMG FAS グローバルストラテジーグループ
執行役員 パートナー
KPMGジャパン エネルギー・インフラストラクチャーセクター
パワー&ユーティリティー セクターリーダー 鵜飼 成典

KPMG FAS グローバルストラテジーグループ
ディレクター 六田 康裕

鵜飼 成典

KPMG FAS 執行役員パートナー/KPMGジャパン エネルギー・インフラストラクチャーセクター パワー&ユーティリティー セクターリーダー/グローバルストラテジーグループ

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