本連載は、日刊工業新聞(2024年5月~7月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

オープンローミングが切り開く次世代の公衆Wi-Fi環境

公衆無線LANを取り巻く環境が厳しくなっています。通信事業者は、第4世代通信(4G)の普及期に公衆Wi-Fiを設置することで通信エリアを補っていましたが、4G基地局の設置が広がったことで、公衆Wi-Fiの撤去が進んでいます。また、2010年代初頭に多くの自治体で設置が進んだ第4世代のWi-Fi(Wi-Fi4)アクセスポイントの更改の時期を迎え、自治体には更新、維持の予算に厳しい目が向けられています。

Wi-Fi規格の進化は携帯電話の規格よりも早く、現在は第7世代となるWi-Fi7の導入が始まっています。Wi-Fi規格の進化は通信速度の高速化に加え、同時接続数の向上やセキュリティの強化を中心に進んでいます。第5世代通信(5G)の通信速度が最大毎秒20ギガビット(ギガは10億)ほどであるのに対し、Wi-Fi7の通信速度は毎秒40ギガビット以上で、高精細動画の受信など多用途での活用が期待されるところです。

またWi-Fiにおいては接続の新たな仕組みとして国際的な無線ブロードバンドの団体であるワイヤレス・ブロードバンド・アライアンス(WBA)が運営するOpenRoaming(オープンローミング)が注目されています。

従来の公衆Wi-Fiでは、接続時にパスワードの入力や特定のサイトへのアクセスを通じてメールアドレスなどの認証が必要になることが多々ありました。しかし、オープンローミングでは、利用者は無料で提供されるIDをスマートフォンやパソコンに一度設定すれば、オープンローミング対応エリアに入ると自動的にセキュアなインターネットに接続されます。その利便性と安全性から、東京都や京都市などがオープンローミング対応公衆Wi-Fiの導入を始めたほか、商業施設などでも普及が進んでいます。

かつてクレジットカード業界において、カードが使える加盟店が増えることでカード利用者が増え、カード利用者が増えることで加盟店が増えていく連鎖が生まれたような現象がオープンローミングにおいても期待されます。

5Gの普及拡大が期待されるなか、基地局など通信事業者の設備投資の負担もあり、その高速通信の恩恵にあずかれないエリアが生じる懸念があります。一方で、商業施設や自治体は顧客や住民にデジタルサービスを提供するにあたってコネクティビティが必須要件となっています。オープンローミングが普及することで、利用者はシームレスにインターネットにつながる世界を実現できると考えます。

今後は企業間連携や企業と自治体が 「協調戦略」をとり、オープンローミングを活用して携帯電話の電波不感地帯を補い合い、面的なコネクティビティを実現することが求められるのではないでしょうか。

【オープンローミングのネットワーク構成】

Japanese alt text: 都市の新たなコネクティビティ「オープンローミング」_図表1

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日刊工業新聞 2024年6月28日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 根岸 次郎

通信業界の「競争」と「協調」

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