本連載は、日刊工業新聞(2024年5月~7月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
5G特区設置を推進する産官学連携
第5世代通信(以下、5G)の普及に伴い、BtoB取引市場が活性化することが期待されていました。政府も、企業や自治体などが5Gを活用して業務効率化や顧客体験向上などを行うために、敷地内に5Gを構築・運用する独自のネットワークである「ローカル5G」を制度化しました。
日本では、2020年3月に5Gの商用サービスが開始しました。しかし4年が過ぎた現在も、事業者による5G/ローカル5Gの活用はその多くが実証実験にとどまり、社会実装まで進んだ例は少ないのが現状です。
少子高齢化による人手不足や地球温暖化による自然災害の甚大化など、さまざまな社会課題に直面するなか、AI(人工知能)やロボットなどの先端技術を活用した課題解決が求められています。課題解決への5Gの活用ニーズについて事業者からは、「1社単独でやりきるだけのリソースやケイパビリティーはないが、共同利用できる環境があれば活用したい」という声があります。個社単位で5Gの活用を進めていくよりは、産学官が連携したエコシステムを構築し、「5G特区」などの実証実験ができる環境を提供するスキームが効果的ではないでしょうか。
海外で参考になる成功事例の1つが、フィンランドのオウル市です。
オウル市は、携帯電話メーカーの世界シェア1位を誇った、無線技術で有名な都市です。一時期その産業基盤は低迷しましたが、現在は大学、大企業、スタートアップ、政府・地方行政機関、投資家などのさまざまなプレーヤーが連携し、持続的にイノベーションを創出し進化し続ける都市に変貌を遂げました。
オウル市には「ラジオパーク」と呼ばれる、最新の無線技術を広域で利用できるリビングラボや、医療・ヘルスケア向けの実証実験場を提供する「オウルヘルスラボ」といった施設があります。ハード面の環境に加えて、起業や人材教育、外国人雇用を支援するプログラムなど、ソフト面での環境も充実しているのが特徴です。こうした環境を求めて、世界中からスタートアップや大企業がオウル市に集まり、エコシステムが形成されています。
社会課題を解決し、持続可能な社会を目指すことを一企業が牽引していく時代ではありません。昨今、日本でも通信業界を中心に5G特区の設置を求める機運が高まっています。5G基盤整備をフックにした、オウル市のような産学官が連携する5G活用促進エコシステムが日本でも形成されることが期待されています。
【5G活用促進エコシステム】
日刊工業新聞 2024年6月14日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。