本連載は、日刊工業新聞(2024年5月~7月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

5Gインフラ整備における通信事業者と他業界との協調

通信業界ではこれまで、通信エリアの広さと品質がそのまま通信事業者の評価につながるため、「競争」に邁進してきました。その結果、日本では通信事業者の努力もあり、高品質な第4世代通信(4G)が全国に広く普及することができました。
一方、世界では今、第5世代通信(5G)整備の競争が激化しています。残念ながら、日本は5Gの整備において世界の先陣を切っているとは言えません。4Gが高品質であることに加え、通信料金の値下げによる通信事業者の投資意欲の低下も一因と考えられます。

しかし、政府の掲げる「デジタル田園都市国家構想総合戦略」では、5Gの人口カバー率が重要業績評価指標(KPI)の1つに設定されています。このKPIを実現するためには、通信事業者が効率良く5G整備に投資できるようにする必要があり、総務省が公表した「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」には、インフラを共有する「インフラシェアリングの推進」がうたわれています。一例として、財務省は5G基地局設置が可能な国有財産リストを公開し、基地局整備用地の調達コスト低減に役立てようとしています。さらに、自治体や他業界の事業者が通信事業者とのインフラシェアリングを探る動きがあるなど、協調路線が進んでいます。

東京都は2023年8月、デジタルを活用した「スマート東京」の実現に向け「『つながる東京』展開方針」を発表し、「都保有アセットの更なる開放」をうたっています。これは、東京都が保有する建物などのアセットを、5G基地局などの設置を目的として通信事業者へ開放するというものです。これにより、通信事業者に5G基地局の整備を促し、都民の生活の質(QOL)向上を目指すという取組みです。東京都では対象となるアセットの範囲をさらに広げる一方、今後はアセットを活用する際に生じる技術面や運用面での課題を解決することも肝要となるでしょう。

近時は、通信事業者以外の業界からインフラシェアリング事業に参入する例も見られます。たとえば、日々膨大な通信量が発生する交通インフラ事業者などです。交通インフラ事業者の敷地内では、複数の通信事業者が5G基地局をおのおの整備することが難しいケースもあります。そこで、交通インフラ企業が主体となってインフラシェアリングを推進し、通信事業者の投資効率を高め、顧客へのバリュー提供を目指しています。また、自社の交通インフラ管理を目的とした通信網を通信事業者と共同で構築するなど、インフラシェアリングを行うことで、互いの投資を抑える動きも今後は出てくると考えられます。

近い将来、通信事業者と他業界との「協調」が加速して5G整備が進めば、市民や利用者の満足度も高まり、都市や街の魅力も向上するでしょう。その結果として、5Gやその後に控える第6世代通信(6G)で日本が世界の通信業界をリードする未来を期待します。

【官公庁または交通インフラ事業者と通信事業者の共創モデル】

5G時代における他業界との協調戦略_図表1

日刊工業新聞 2024年5月31日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊工業新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

通信業界の「競争」と「協調」

お問合せ