1. 電力セクターのエネルギー移行におけるAIと自動化の役割

昨今、物価の高騰と化石燃料から低炭素エネルギーへの移行が進むなかで、電力事業者は歴史的な転機を迎えています。今後5年間で、世界全体で導入される再生可能エネルギー(再エネ)の容量は、100年以上前に初めて商用再エネ発電所を建設して以来導入された総容量を超えると予測されています。電力事業者が、こうした複雑な状況を克服するには、特にAIのような新興テクノロジーを活用したデジタル・トランスフォーメーションが不可欠となるでしょう。

短期目標を実現するための鍵となるAIと機械学習
電力事業者は、機械学習やロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)など、さまざまな形態のAIを含むデジタル・インテリジェンスや自動化技術を幅広く探求することが、デジタル化のメリットを享受する鍵となるでしょう。また、生成AIは、より広範なデジタル・インテリジェンスと自動化の手法を探求・調査するうえで、今後特に重要性を増すと考えられています。

電力事業者におけるAIの活用方法

電力事業者は、以下のようなAI技術の活用を通じて、きわめて大きな利益を享受できる可能性があります。

  • 投資の意思決定
  • 顧客情報・関係管理
  • 規制対応・管理
  • 配線・回路図等の検証
  • フィールド・サービス・エンジニアの作業効率化

リスクの軽減と信頼性の構築を実現しながら責任をもってAIを拡張する方法

リスク 主なアクション
技術関連プロジェクトの規模不足 経営層の支持を得たうえで、「小さく初めて大きく育てる」
データ品質の低下 技術基盤の刷新、データガバナンス管理の向上、正確・精緻なデータを奨励する社内文化の醸成
個人データの取り扱いに関する需要家・顧客の懸念 匿名化や厳格なアクセス制御、透明性の高い説明
社内におけるAI人材の不足 AIリテラシー向上にむけた全社大でのトレーニング
AIによる意思決定への懸念やAI導入による盗作などの倫理的な課題 KPMGのAIに関するフレームワークの利用、人間による介在

 

KPMGのAIに関するフレームワーク(AIシステムが満たすべき特性)

価値主導

  • プライバシー
  • 持続可能性
  • 公平性

 

人間中心主義

  • 透明性
  • 説明可能性
  • 説明責任

 

信頼性

  • データインテグリティ
  • 信頼性
  • セキュリティ
  • 安全性

KPMGのAIフレームワークの詳細については、KPMG Trusted AI framework(英語)をご覧ください。

AI・自動化プロジェクトの構築

日々急速な進化を遂げる電力セクターにおいて、業務効率を高め、競争力を維持するには、AIや自動化技術の導入に関する戦略的な意思決定・判断が不可欠です。実行可能な取組みと戦略的アプローチに焦点を当てることで、電力事業者は、AI・自動化技術を効果的に活用し、業務の効率性、信頼性、そして持続可能性を高めることが可能となります。

2. 注目されてこなかった脱炭素化の鍵:スマートグリッド

送電網の排出量ネットゼロ化を実現するには、ゼロ・エミッション電源を採用し、熱、輸送、産業全体の電化に対応できるようにネットワークを転換し、大規模集中型の発電所から分散型エネルギー・リソース(DERs)に移行する必要があります。しかしながら、送配電事業者がこれまで以上の精度でスマートグリッドの計画・運用を行ったり、需要家が分散化のメリットを享受したりするために必要なデータの生成・分析には、高度な革新的デジタル技術が必要とされています。

スマートグリッドで実現できること

スマートグリッドは、世界における電力の管理・供給方法を革新する重要な転換技術です。需要家は、エネルギーシステムでより積極的な役割を果たすことができるうえ、送配電事業者は、再エネの普及率が非常に高くても、安全で安定的な送配電システムを維持することが可能となります。

電力事業者と需要家向けのスマートグリッド技術の活用方法

スマートグリッドは、コネクテッドセンサー、5Gモバイルネットワーク、AI、デジタルプラットフォーム等のテクノロジーを用いて データを収集・分析し、電力供給者、システムオペレーター、需要家を連携させることで、電力システム全体を最適化する機能を持ちます。こうした技術により、送配電事業者は先進的な脱炭素ソリューションへの移行を達成できるうえ、需要家はエネルギー消費の効果的な管理や、エネルギー市場との積極的な取引を実現できるようになります。

脱炭素化を実現する次世代送電網の構築におけるテクノロジーの活用方法

​送電網のデジタル化を通じて、アセット管理のさらなる迅速化・効率化が可能となるうえ、定期検診をしなくても、停電の軽減や防止を目的とした遠隔からの予知的メンテナンスが可能となります。また、こうしたメンテナンスの取組みでは、運用リスクの低減を狙い、機器の仮想シミュレーションを策定するデジタル・ツイン技術を利用することもでき、人間による対応が少なくて済むという非常に有益な特徴を持っています。

スマートグリッドの導入を成功させるには

電力事業者が、スマートグリッド技術のポテンシャルを最大化しながら、導入を成功させるには、以下の分野における取組みを体系的に進めることが重要となります。

  1. 社内文化の変革
  2. サイバーセキュリティの強化
  3. 倫理性とデータ保護に関する検討
  4. デジタルプラットフォームの統合
  5. モニタリングと評価
  6. コラボレーションの強化
  7. 送配電事業の開発・投資戦略の策定

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