2021年以降、世界は大きく変わりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックや、異常気象、そして複数の地政学的混乱に至るまで、世界のサプライチェーンは非常に多くの試練に晒されてきました。しかし、私たちはそれを乗り越え、より力強さを増し、レジリエンスを高めています。
本レポートは、KPMGが2022年11月に実施したKPMG Future of Supply Chain Surveyの結果に基づいており、サプライチェーン業務に関する今後のトレンドや、企業が短・長期的に優先して取り組んでいる主要な課題と機会について考察しています。
目次
1.サプライチェーンの世界の現状とサプライチェーンのリーダーが日々直面している課題
(1)存続とレジリエンス (2)マクロな要求事項への対応 (3)未来への対応 |
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サプライチェーンのリーダーは、マクロな経済的・環境的要因を背景に、地政学、規制改正、ESGなどの新たな現実への適応を迫られています。
地政学的な緊張の高まりからサプライチェーンを守るため、サプライチェーンのリーダーは、供給源をより近い場所に確保し、サプライチェーン網の安全性を高めようとしています。また、より野心的なサステナビリティ目標や、業界の規則の厳格化、新たに導入される関税同盟、および顧客の需要の変化に備えなければならない可能性もあります。実際に、本調査の回答者の38%が、顧客ニーズへの対応をサプライチェーンに長期的な影響を及ぼす2番目に重要な優先課題としています。
2.今後1~2年の課題
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デューデリジェンスと開示を義務付ける規則は時間の経過とともに強化され、今後もさらなる規則の施行が予定されています。
【デューデリジェンスと開示を義務付ける規則の状況】
- 先行セクター:ロボティクスと自動化の未来は業種ごとに異なると予想されます。この分野では自動車および消費財・小売セクターが先行してきましたが、農業、食品・飲料、ヘルスケア、製造業、公共機関の5つのセクターも僅差で後に続いています。
- スマート機器のエコシステムによる効率改善:KPMGの調査では、63%の回答者が、人が行う反復的な作業の多くは機械に置き換えられると回答し、59%の回答者が怪我のリスクが高い作業は自動化されると予想しています。
- コボットの台頭:サプライチェーンに早くからロボティクスと自動化を導入した企業は、「協働ロボット(コボット)」が積極的に労働者を支援する環境を構築しつつあります。コボットは、従業員による製品のピッキングや梱包、パレット化、または倉庫内での貨物の運搬を支援します。
- 生成AI:生成AIとは、単に既存のデータを分析し、それに基づいて行動するAIではなく、コンテンツを生成することが可能なAIを指します。生成AIモデルは特定のタスクを自動化し、前例のないスピードと効率性で実行することにより、企業に変革をもたらす可能性があります。
- デジタルと人の共存
サプライチェーンは、デジタルと人の優れた部分を組み合せ、効率性を高め、自動化とデジタル化によって業務を合理化すると同時に、人材を活用して戦略的価値とイノベーションを推進していく可能性が高いでしょう。また、人とロボットから成るブレンデッドワークフォース(多様な労働力を活用する人員配置戦略)の導入が必要になる可能性があります。
【ブレンデッドワークフォースの構築:デジタルと人】
- 自動化が労働力に及ぼす影響と役割の刷新
自動化とDXがもたらす影響の意味するところは、いずれの時点で得た労働力かにかかわらず、今後わずか数年で組織の需要と合致しなくなる可能性を認識する必要があるということです。サプライチェーンのリーダーとそのチームには新たなスキルが求められ、人と機械の共存を進めていくうえで、人の役割を刷新することが必要です。
- 労働力形成の5つの「B」とピープルデータの力
どのような人材を採用するか(Buy)、どの領域で人材を開発するか(Build) 、どのタスクを外注(借りる)するか(Borrow)、どのタスクを自動化するか(Bot) 、配置やハイブリッドおよびバーチャルを含めた拠点をどうするか(Base) 、5つの「B」から労働力の最適化を決定します。また、ピープルデータを活用し、従業員と企業の双方にとって最善の決定を下すことが重要となるでしょう。
- 従業員価値提案(EVP)を高めるための技術/ソフトスキルとイノベーション
メタバースなどの新技術は役割を刷新するだけでなく、バーチャルな入社式や現場視察など、EVPの一部を構成することもできます。また、メタバースを利用して従業員やクライアント、コミュニティが互いにつながり、働きかけ、成長機会を探る手段としての協働ハブを確立する組織は、今後増加していくと思われます。自動化やデジタル機能も採用で、人は機敏性や変革、顧客、イノベーションに集中できるようになります。
- 変革を推進する企業文化
企業は自社の文化やリーダーシップを活用してサプライチェーンの変革を推進すると見られ、これらは企業が未来の労働力を開発する方法の鍵となるでしょう。これには、企業の人材に対する見方や、強い目的意識をどう培うか、企業とこれからのサプライチェーンが目指す方向をどう描くかが含まれます。
3.今後3~5年間の焦点
- トレーサビリティの強化
トレーサビリティを強化し、サプライチェーン内の貨物に関するリアルタイムの情報、可視性、および信憑性を提供します。
- 企業間連携の最適化
データを標準化し、サプライチェーンのレジリエンスを高める所有権の共通レジストリを用いて、企業間連携を最適化します。
- 資金へのアクセスの改善
貿易金融を通じた資金へのより良いアクセスを提供し、決済と国際貿易の効率性を高めます。
【サプライチェーンに大きな変革をもたらす、業種別の大きなシフト例】
ヘルスケアおよびライフサイエンスセクター | 貨物のきわめて高精度な追跡をはじめとする精密医療とMedTechの進歩への支援や、増加の一途を辿るデータを管理するためのDaaSの導入に向け、新たなサプライチェーンソリューションを推進する |
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小売セクター | バーチャルと実店舗の両方のカスタマーエクスペリエンスにおいて、予測分析とパーソナライゼーションを推進する必要がある |
航空宇宙・防衛セクター | より厳しい監視の目に晒されるようになり、そのため、ほぼリアルタイムの意思決定支援やハイパーコネクティビティが求められる |
メタバースは、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、PC、各種デバイス、ゲーム機、スマートフォンを緩やかに統合する有望な技術プラットフォームです。現在、企業の間で最も一般的なメタバースの使用方法は、バーチャル会議、バーチャルオフィス空間、デジタルツインの創造、および製品の設計に関するブレインストーミングです。
サプライチェーンにおけるメタバースの実務への導入はややスタートが遅かったとは言え、サプライチェーンのリーダーとそのチームがこの技術を適用する可能性は高いものと見られます。KPMGが2023年に実施したメタバース投資家に対する調査(KPMG Metaverse Investor Perspectives Survey 2023)の回答者の90%以上が、今後ビジネス環境での利用が拡大すると予想していました。
サプライチェーンのリーダーは、最終的に以下の3段階に分けてメタバース技術を取り入れていくと思われます。
第1段階 | 現実世界でのエンゲージメントと学習体験(顧客、従業員および企業とのエンゲージメントを深め、コミュニケーションを強化し、リアルタイムでの協働を円滑化する) |
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第2段階 | サプライチェーンにおけるデジタルツイン(メタバースを活用し、物理的なネットワーク・人・プロセスを複製する、相互に接続されたデジタルツインを対象として、バーチャルでシナリオのモデリングを行う) |
第3段階 | 物理的サプライチェーンのバーチャル化(企業はメタバースツールを利用して自社のサプライチェーンを完全にデジタル化し、物理的な境界をなくす) |
メタバース技術の導入には課題がつきまといます。メリットを享受するには、企業は規制や法律に関する問題を克服し、サイバーセキュリティ、データ能力、およびテクノロジーハードウェアに多額の投資をする必要があります。導入に成功するのは、模索の段階を速やかに終え、メタバースを従業員の研修や顧客へのエンゲージメント、自社のサプライチェーンの合理化に活用する方法を見出す企業でしょう。
すべての企業は、今後の展開に適応し、自らの業種内でのメタバースの活用計画に着手して、自社に付加価値をもたらす機会が訪れた際には即座に行動できるよう、準備を整えておく必要があります。
【メタバース導入の課題】
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※本レポートは、KPMGインターナショナルが2023年9月に発表した「The future of supply chain」を翻訳したものです。翻訳と英語原文間に齟齬がある場合には、英語原文が優先するものとします。また、本文中の数値や引用等は、英語原文の出典によるものであることをお断りします。
レポートのPDFでは、KPMGが行ったグローバル調査の回答結果や課題などの詳細がご覧になれます。
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