社会課題・不平等に関連する開示タスクフォース、今後の活動方針案を公表

不平等・社会関連財務開示タスクフォース(Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures(TISFD))が、今後の活動方針案を公表しました。本稿では、取扱うテーマや公表予定の資料等、活動方針案の詳細を解説します。

不平等・社会関連財務開示タスクフォース(TISFD)が公表した、今後の活動方針案(取扱うテーマや公表予定の資料等)について解説します。

2024年5月、不平等・社会関連財務開示タスクフォース(Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures、以下「TISFD」)はウェブサイトを公開するとともに、今後取扱うテーマ、既存の基準等との関係性、公表を計画している資料等を含む、今後の活動方針案を公表しました。

これまでの動向

2023年8月に、タスクフォースの統合を進めていた、不平等関連財務情報開示タスクフォース(Task force on Inequality-related Financial Disclosures、以下「TIFD」)と、社会関連財務情報開示タスクフォース(Task force on Social-related Financial Disclosures、以下「TSFD」)の設立準備組織により、両者の統合組織であるTISFDの発足が公表されました。

その後、TISFDの発足に向け、主にTIFD、TSFDのメンバーから構成されるワーキンググループを設置し、2024年9月の正式な発足に向けた議論を進めてきました。そして今回、ウェブサイトの公開とあわせて、TISFDの概要に関する説明資料(“The Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures (MAY 2024)”、以下「概要資料」)を公表しました。

TISFDは概要資料において、不平等を“時代を象徴づける社会的な問題”と位置付けたうえで、所得の偏りや気候変動・生物多様性といった課題に起因した不平等が、先進国を含む多くの国々で社会の分断を生み出しているとしています。また、企業や投資家の行動が不平等の拡大に影響を与えている一方、不平等が企業の経済活動や投資活動にどのような影響を与えているかは明らかではないとしています。

このような認識のもと、TISFDは組織の目的を、不平等及び社会関連の問題に関する財務情報開示の推進を通じ、企業と投資家による不平等に関連する財務リスクと影響を識別、評価、管理に関する取組を進めることとしています。

基本的な活動方針

TISFDは概要資料と併せて、具体的な活動方針を“TISFD Proposed Scope and Mandate”(以下「基本方針案」)として公表し、広くフィードバックを求めています。

基本方針案では、TISFDが取扱うテーマ、マテリアリティに対するアプローチ、既存の原則や基準との関係性等、今後検討を進める領域について、現状認識と併せて活動の方向性を示しています。

取扱うテーマ
  • 不平等及び社会に関連する課題(人権を尊重する企業の責任、不平等の解消とウェル・ビーイング(Well-Being)向上への取組み、人的・社会的資本への投資の間に存在する補完関係の反映等)に対して統合的かつ整合的なアプローチをとる
  • 統合的なアプローチを可能にするために、人々への影響と依存関係、関連するリスクと機会との関係を明確にする概念的な基盤を示す
  • 検討にあたっては、幅広く関連し、ないし影響が大きい不平等及び社会に関連するリスク、機会、影響について、情報の利用者に有意、かつ効果的な開示を優先して取り組む
マテリアリティに対するアプローチ
  • 基準設定主体や規制当局によって異なるマテリアリティの考え方を採用していることを踏まえ、TISFDが検討する開示フレームワークでは、インパクトマテリアリティの考え方と財務マテリアリティの考え方の両方と互換性のある開示の推奨事項を開発する
既存の国際原則・行動規範との関係性
  • TISFDが検討する開示フレームワークでは、不平等及び社会に関連する課題に関して公表されている国際的な原則・行動規範(ビジネスと人権に関する国連指導原則、OECDの多国籍企業向けガイドライン、多国籍企業と社会政策に関する国際労働機関(ILO)の三者構成の原則等)との整合性を確保する
  • 重要な財務リスク(不平等のシステミック・リスク(および関連する機会)を含む)の管理、および企業と投資家の不平等への影響の管理に関して、開示フレームワークを補足する追加のフレームワークやガイダンスを検討する
既存の基準・フレームワークとの関係性
  • TISFDが検討する開示フレームワークでは、既存の基準設定主体(ISSB、EFRAG、GRI)が公表した基準で示されている指標やメトリクスを分析した上で、開示フレームワークへの取込や参照を通じて、相互運用性(インターオペラビリティ)を確保する
  • また、TCFD・TNFDで採用された開示フレームワークの全体構造を基礎としたうえで、不平等及び社会に関連する課題に関する固有の影響や既存の原則・行動規範を踏まえた検討を行い、気候、自然、社会、不平等関連のリスクと影響について一貫性、かつ相互補完性のある開示フレームワークを開発する

公表を計画している資料

基本方針案では、TISFDは、その活動を通じて主に以下の資料の公表を計画しています。

不平等及び社会に関連する課題に関する国際的な開示のフレームワーク
  • 不平等及び社会に関連する課題による影響、依存関係、リスク、機会について、企業と投資家の対話を可能にする国際的な開示のフレームワークを開発する
  • フレームワークの検討の基礎として、取り扱う不平等及び社会に関連する課題の論点の範囲や、論点の相互関係について理解できる「概念的基盤」の公表を検討する
システムレベルのリスクに関するエビデンス
  • 企業や投資家の活動が人々や不平等に与える影響、関連するリスク、及び不平等及び社会に関連する課題に起因するシステムレベルのリスクの関係性について、実務に基づく新たなエビデンスを提供する
開示フレームワークの適用に関するガイダンス類
  • 開示フレームワークの適用にあたって、参考となるガイダンス類を提供する。例えば、
    • 不平等及び社会に関連する課題に基づく影響、依存関係、リスク、機会の識別と評価方法に関するガイダンス
    • 指標の設定、及び目標・閾値の利用に関するガイダンス
    • 気候変動や生物多様性等、他のサステナビリティ課題との関係性に関するガイダンス
キャパシティ・ビルディングを目的とした資料
  • 不平等及び社会に関連する課題から影響を受ける様々なステークホルダーが、TISFDの活動・開示フレームワークを理解し、グローバルな枠組みの構築への参加を可能にするための資料を提供


TISFDは、これらの資料の公表及び活動を通じ、短期、中期、そして特に長期の財務リスクを減少させ、金融市場の安定とレジリエンスの強化、マクロレベルの経済成長を実現し、最終的には、人々のアウトカム(人権の尊重、人間開発及びウェル・ビーイングの向上を含む)の向上の達成を目指すとしています。

今後のスケジュール

TISFDは、概要資料、基本方針案を含む、今回のウェブサイト開設に合わせて公表された文書についてのフィードバックを受け付けています。その上で、2024年9月に予定しているTISFDの正式な発足時に、フィードバックを受けた対応についても公表するとしています。

執筆者

KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン
有限責任 あずさ監査法人
シニアマネジャー 瀧澤 裕也

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