前回では、欧州インダストリアルデータスペースの起源とその変遷や、GAIA-Xの3つの特徴である、「製品ライフサイクル上の幅広いデータが対象」「データはコネクターによる分散型の連携」「データ共有により欧州が重要視する社会課題への貢献」について、その概要を解説しました。
第2回となる本稿では、安全なデータ流通を担保するためにGAIA-Xで規定されているクリアリングハウスの概要と、データスペースの展開を後押しするプロジェクト承認フレームワークや最新のデータスペースの展開状況について紹介します。
目次
1.安全なデータ流通を担保するクリアリングハウス
インダストリアルデータスペースによるデータの共有や利用を通じて、企業レベルはもとより業界全体のデジタル化が促進され、ひいてはカーボンニュートラルといった社会課題への貢献も見込めるなど、インダストリアルデータスペースを展開する意義やメリットに疑う余地はないと言えます。
しかし、反面、業界横断でのデータ共有は、データ授受にかかわるトラブルの発生や情報漏洩といったセキュリティリスクへの懸念も強まります。そのため、GAIA-Xではデータを安全に流通させる際の手順や対策をどのように設計し、整備を進めているかを知り、GAIA-Xへの理解を深める必要があります。
GAIA-Xではデータ流通の安全性を担保するために、クリアリングハウスという専用の管理機能の設置を定めています。
プロセスフェーズ | 機能 |
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データ共有前 | データ共有取引の清算機能
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データ共有中 | 監視・ロギング機能と決済機能 (データ共有プロセス前・中)
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データ共有後 | 決済機能(データ共有後またはデータを共有しない場合)
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クリアリングハウスでは、(1)データ共有前にデータを取引する双方の企業に対して、法的、財務的、技術的に取引を行うに値する能力を有しているかを確認する清算機能、(2)データ共有中に取引状態を監視し、ログを取得するとともに決済を成立させる機能、(3)仮に何らかの違反が発生した場合に速やかにトラブルシューティングを行う機能、といったプロセスフェーズごとの機能が設定されています。
このように安全面での検討や設計については早くから取り組まれていましたが、規定された当時はその実現方法が具体化されていませんでした。
2.GXDCH(Gaia-X Digital Clearing House)はGAIA-Xのワンストッププレイス
3.データスペースの展開を後押しする多様なレベルのプロジェクト承認
承認プログラムは当初、承認レターとライトハウスプロジェクトの承認のみでしたが、Gaia-Xエコシステム内のプロジェクトの成熟度レベルが多様であることから、さまざまな段階のプロジェクトを包含するように拡張されました。
この拡張の狙いは、「データスペースの展開状態が可視化される」「早期から取り組んでいるプロジェクトを先駆者として評価されやすくする」「プロジェクトの信頼性を保証する」、そして「ネットワーキングの拡大といったメリットを示す」ことで、戦略的にデータスペースの展開を後押ししようというものです。
4.欧州データ戦略に基づき展開が進むインダストリアルデータスペース
最も成熟度が高いライトハウスデータスペースに位置付けられるCatena-Xは、自動車サプライチェーンの取組みとして日本でもよく知られていますが、農業業界に特化したデータスペースであるAgdatahubが新たにライトハウスデータスペースに含まれています。
このデータスペースは、農業および農業食品データの仲介プラットフォームとしてフランスおよび欧州で稼働しています。Agdatahubでは、たとえば、飼料メーカー、牛の飼育者、農業研究機関、繁殖団体、家畜に関するアドバイザリーサービス業者を繋ぎ、牛のさまざまな成長段階に適応した飼料配合の開発を行えるデジタルプラットフォームを実現しています。
このように既に欧州ではCatena-X以外にも成熟度の高いデータスペースが構築されており、欧州データ戦略に基づき、その狙いである「欧州の国際競争力とデータ主権を確保するデータの単一市場の創設」を、一歩一歩確実に推し進めています。
今回は、GAIA-Xの重要な機能であるクリアリングハウスとデジタル化されたGXDCHの概要説明、そしてデータスペースの展開を後押しするプロジェクト承認フレームワークや最新のデータスペースの展開状況について紹介しました。
次回はライトハウスプロジェクトとして位置付けられ、欧州インダストリアルデータスペースの代表的なプロジェクトであるCatena-Xと、その商用サービスであるCofinity-Xについて詳しく解説します。
※本文中の図表は、以下を参考にしています。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 山邊 次郎