アカウンティング・フォー・サステナビリティ(A4S)を知るための10の質問
英国に本部を置き、サステナブルなビジネスへの変革の実現に向け活動する「アカウンティング・フォー・サステナビリティ」のエグゼクティブ・チェア、Jessica Fries氏、アジアパシフィック支部ディレクター、Constant van Aerschot氏に、活動目的など10の質問にお答えいただきました。
英国のアカウンティング・フォー・サステナビリティのメンバーに、その活動目的など、10の質問にお答えいただきました。
英国に本部を置き、サステナブルなビジネスへの変革の実現を推進する団体「アカウンティング・フォー・サステナビリティ(A4S)」のエグゼクティブ・チェアであるJessica Fries氏、アジアパシフィック支部のディレクターのConstant van Aerschot氏の来日の機会をとらえ、A4Sに関する10の質問にお答えいただきました。
Q1.A4Sとはどのような団体ですか?
アカウンティング・フォー・サステナビリティ(A4S)は、2004年に英国チャールズ国王(当時は皇太子)により設立されました。その目的は、「20世紀の意思決定と報告システムを引きずったまま21世紀の課題に立ち向かわなければならない状況を回避するための支援をすること」です。私たちのミッションは、サステナブルなビジネスが通常のビジネス(Business as usual)となるようにファイナンスを変革することです。
Q2.なぜA4Sが設立されたのですか?
私たちの経済を支える財務および会計システムは、短期的な財務成果を優先する側面があり、地域社会や自然環境の健全性や安定性との相互依存を必ずしも考慮できていません。A4Sは、ファイナンスリーダーの行動を促し、サステナブルなグローバル経済へと抜本的な転換を推進することを目指しています。これを実現するために、A4Sは次の3つのコア目標を掲げ、すべての活動の基盤としています。
- サステナブルで強靭なビジネスモデルの採用をファイナンスリーダーに促すこと
- 環境および社会問題に関する機会とリスクを反映した統合的なアプローチを可能にするための財務的意思決定の変革を促すこと
- グローバルなファイナンスおよび会計コミュニティ全体での行動を拡大すること
Q3.主にどのような人たちと連携していますか?
A4Sは、CFOや財務チーム、グローバルな会計コミュニティ、投資家や資本市場、さらには政府、規制当局、政策立案者、ビジネススクール、学界など、ファイナンスに関わるコミュニティと協力しています。これらの主要な関係者との連携により、サステナビリティの原則をビジネス戦略や意思決定、フレームワーク、そしてグローバルな金融エコシステムに組み込むための集団的な変革を推進しています。
Q4.ビジネスのレジリエンスとサステナブルな経済の実現に取り組む組織は他にもありますが、A4Sの特徴とはどのようなものですか?
創立から20年目を迎えるA4Sは、グローバルなファイナンスコミュニティ全体と関係を構築しています。そのため、最も経験豊富なファイナンス領域のリーダーたちと連携し、変革を推進できる独自の立場にあります。これは、同等の役割を担うリーダー同士のネットワークを通じて実践しています。A4Sが有する会計団体ネットワーク(Accounting Bodies Network、略称「ABN」)は、世界の会計士の大部分を代表するものです。同様に、A4S CFOリーダーシップネットワークは、大規模なグローバル組織のCFOが参画しています。A4Sアセットオーナーネットワークは、年金基金の議長の役割に焦点を当てたものです。
また、A4Sアカデミーを通じて、環境および社会的なリスクや機会に直面してもビジネスを成功に導くためのスキルをファイナンス・チームに提供し、シニア・ファイナンス・リーダーの能力とスキルの強化に貢献しています。
(2025年アカデミープログラムの詳細:ACOOUNTING FOR SUSTAINABILITY "ACADEMY")
Q5.A4Sの目標を達成にむけて、どのような活動をしていますか?
A4Sは、気候、自然、人々、そして報告に関するガイダンスやヒントを提供することで、シニア・ファイナンス・リーダーの能力向上をサポートしています。ブログやケーススタディなどの簡潔なコンテンツを通じて、ベストプラクティスの事例を紹介し、ファイナンス・チーム向けの実践的なウェビナーやワークショップも実施しています。私たちのネットワークと実務サークルは、知識を共有し、実際のアクションとリーダーシップを鼓舞するためのフォーラムとして機能しています。一方、A4SSアカデミーは、サステナビリティを戦略、プロセス、意思決定に統合するための年間実施計画の策定と実行をサポートし、シニア・ファイナンス・リーダーが組織にポジティブな変化を生み出すための支援をしています。
Q6.目標を達成する上での最大の懸念や課題は何ですか?
A4Sのミッションは、重大かつシステミックな課題に直面しています。必要なのは、世界が同時に行動すること、つまり「誰もが、どこでも、一斉に」行動することです。国連排出量ギャップ報告が明らかにしているように、世界の気温上昇を1.5℃に抑制できる可能性は14%しかありません。この差し迫った現実には、ネットポジティブや公正でクリーンなゼロエミッションの世界だけでなく、気候変動や環境の変化に対するレジリエンスを備えた世界を実現するための迅速で断固たる行動が求められています。A4Sは、これらの課題を認識し、適切に対処することを模索しています。地球規模の気候変動とサステナビリティへの懸念に対処するための協力行動の緊急性を強調しつつ、それに取組んでいます。
Q7.CFOと財務チームの役割は何だと思いますか?
ネットポジティブ、ネットゼロの世界を実現するには、コラボレーションと大胆なリーダーシップが必要です。CFOと財務チームは、ネットゼロの目標を推進するうえで、重要な役割を果たします。財務チームの中心として計画を策定し、組織全体のサステナビリティ報告を行うために不可欠な存在です。CFOは、その戦略的な影響力とファイナンスに関する知見により、自然とネットゼロの目標に沿った世界へと変革する旅路の重要な推進力として位置づけられているのです。
Q8.2023年のCOP 28に参加されたそうですが、どのような活動を行いましたか?
2023年のA4SサミットからドバイでのCOP 28まで、移行を加速することにフォーカスした活動を行いました。すべてのステークホルダーが早急に行動を起こす必要性を訴えるために、移行計画に焦点を当てたハイレベルのイベント「誰もが、どこでも、一斉に」を含む2つのラウンドテーブルを開催しました。実務者に向けては、移行計画とネイチャーに関する2つのワークショップを開催し、また2本のライブ配信も行いました。1本目では、気候と自然の危機、ネットゼロへの移行に求められる緊急性、そしてグローバルファイナンスの役割について、2本目はネイチャーポジティブかつ公正な移行を加速するにあたっての障壁と解決策について議論しました。
Q9.今後、日本ではどのような活動を展開予定ですか?
A4Sは、2024年3月に「サステナビリティ報告シンポジウム」を東京で開催します。このシンポジウムでは、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を中心に、サステナビリティ報告の最新動向やベストプラクティスを共有します。対象は、CFOやチーフサステナビリティオフィサーなど、サステナビリティ報告に責任を有する方々です。
また、7月には、グラスゴー金融同盟(GFANZ)日本支部と共同で、招待者を限定したラウンドテーブルを東京で開催します。このラウンドテーブルには、日本の大規模企業のCFOおよび戦略責任者、ならびに日本の大手機関投資家のCIO(最高投資責任者)などを招待する予定です。このラウンドテーブルは、アジア太平洋地域におけるネットゼロへの移行を企業や投資家が財政的に支援するにあたっての障壁や必要な行動に関して、クローズドな議論の場を提供します。
Q 10.最後に、日本企業へのメッセージをお願いします。
ドバイで開催されたCOP 28で、エネルギーシステムの化石燃料からの脱却が全会一致で求められるという明確な合意を得られたことを受け、今後はこれをどのように実現できるかに焦点が当たるべきです。日本経済の強さとアジア太平洋地域における影響力やインパクトは、自らとアジア太平洋地域をよりサステナブルな発展に向けて移行させるために、非常に重要な役割を果たします。
私たちは、サステナブルな成果への資金配分を加速させる役割を担っています。私たちは共に、自然を尊重し、ネットゼロの未来を拓くソリューションの一部です。私たちは、サステナブルなビジネスを通常のビジネス(Business as usual)にしなければなりません。日本だけでなく、グローバルに大胆な目標を設定し、強固な移行計画を策定し、その達成に向けて緊急に行動しなければならないと考えています。
執筆者
KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン