同族企業における富の再定義:オーナーファミリーの金融、人的、社会的資本の多様化

近年、同族企業は企業の評判向上の為に、富の創造だけでなく富を活用した社会発展への貢献や社会的責任を果たすことの重要性を再認識しています。本稿では、今日の経営環境における同族企業の富のあり方・考え方について解説します。

同族企業は、富の創造だけでなく富を活用した社会発展への貢献や社会的責任を果たすことの重要性を再認識ししています。本稿では、経営環境における同族企業の富のあり方・考え方を解説します。

多くのオーナーファミリーは、生み出した富の配分について、新たな悩みに直面しています。長年にわたってオーナーファミリーの富がほぼすべてビジネスに帰属していたため、オーナーファミリーは、不安定で予測不可能な今日の経営環境において、富を分散させてリスクを減らす必要性を認識しています。

オーナーファミリーは新しい富の創出と資本配分という悩みに直面している

オーナーファミリーと同族企業は、将来の富をどのように配分するのだろうか

資産配分の新しい時代

同族企業における資本の概念と配分は進化しています。資本は、ビジネスの有形資産だけでなく、オーナーファミリーの人的および社会的資本も含まれるようになっています。

金融資本の保護

最近の厳しい経済状況により、オーナーファミリーの財産をリスクから保護する金融資本戦略の必要性が叫ばれています。

人的資本の育成

人的資本を維持・成長させるためには、現役世代の知識や経験を継承し、次世代の家族のイノベーションを促すことが重要です。

社会資本資産の影響力の認識

同族会社は、社会における存在感があり、社会的責任果たすことと、社会資本資産の慎重な管理が企業の評判や競争力に対して与える影響が大きいと理解しています。

これまでの世代を振り返ってみると、多くの同族企業は富を創造することに主眼を置いていたと言えるかもしれません。しかし、次世代の同族経営者は認識を変えつつあり、人的、社会的な側面を重視しています。富の創造は継続するものの、現在では、「この富を社会発展のためにどう活用できるか?」という問いがより重要であり、以前ほど「富をどうやって築き上げるか?」という問いの重要性が下がっています。

Tom McGinness
Global Leader, Family Business, KPMG Private Enterprise
KPMGインターナショナル
Partner, KPMG英国

多世代にわたる富の構築と継承

現在の同族企業の経営者は、次世代の家族全員が事業に直接関与することに必ずしも関心を持っているわけではないことを認識するようになってきています。多くの次世代オーナーファミリーメンバーは、独自の富を生み出す方法を模索しており、一部の同族企業では、これが新たな戦略的多角化の機会とみなされています。

同族企業は、次世代の新しいアイデアやベンチャーの資金調達を優先し、多様化戦略を支援することが重要視されるようになっています。

人的資本の活用

オーナーファミリー自身とその価値観は最も重要で影響力のある人的資本資産の1つです。それは、同族企業の一員であることにより、社会的・感情的な豊かさを表します。そして、オーナーファミリーの知的資本を構築し活用し続けることは、同族企業の起業家精神と創業者の想いを承継することに貢献します。

ミレニアル世代やZ世代のオーナーファミリーメンバーが参画するようになったとき、同族企業が必ずしも彼らに合っているとは限りません。事業の管理や経営を移管することなく、起業家精神を各世代に継承することは可能であるため、その精神を途切れさせないことが重要です。

オーナーファミリーだからといって、制限をかける必要はありません。重要なのは、すべての人の見識を引き出すことですが、オーナーファミリーメンバーにビジネスを押し付けることは失望を招く原因になります。ビジネスとオーナーファミリーの成長を確実にするためには、それは決して良い方法ではありません。

Luiz Gustavo Kass Mwosa
CEO, Grupo Paranoá,
ブラジル

ブランドと評判-強力な社会資本資産

大規模で有名な同族企業は、税務当局を含む主要な利害関係者すべてとの良好な関係を維持するよう常に細心の注意を払ってきました。良きコーポレートシチズンとして、顧客や従業員、地域住民の視点から、不適切または疑わしいとみなされる行動によって利益誘発型の税制優遇措置を行使することはないでしょう。彼らは、そのような行動によって評判に影響が及ぶことや、家族や企業、ブランドの信頼を損なうリスクにさらすことは望まないのです。

同族企業は、金融資本、人的資本、社会資本をどのように配分しているかを見直すことで、すべての長期投資の平均以上の収益率を達成するチャンスがあります。

ESGを実践的なコンセプトとして見ることで、同族企業は評判を高めることができます。一部の企業が現在提示しているESGは、単なる 「表面的な環境配慮」 に過ぎません。ESGが価値あるものとなるためには、厳格で事実に基づいた指標や基準が必要です。私たちは正しいことだけをするのではなく、称賛に値することを考えています。私たちはより良いことをするために、社員と話し合うことで自己評価し、オーナーからコミュニティに至るまで、ステークホルダーにとって正しい行いを重視するよう、経営陣、取締役会、所有者全員が集中するよう取り組んでいます。最終的に、私たちは企業においてお金を失うことは許容できますが、評判を失うことは決して許容できないと考えています。

Ed Weisiger
President and CEO, Carolina Tractor & Equipment Co.
米国

次世代のオーナーファミリーは富の意味を再定義するだろうか。

オーナーファミリーの中にビジネスに関与しない人がいるとしても、全員がビジネスから切り離されるわけではありません。オーナーファミリーは結束力を持ち、オーナーファミリーの価値観に基づいて財産の価値を測定し、大切にします。オーナーファミリーが受け継いだ遺産や、顧客、従業員、コミュニティ、社会全体に価値を提供するために、全ての利用可能な金融的、人的、社会的資本を慎重に配分する必要があります。
KPMG Private Enterpriseが発信する本シリーズは、同族企業が新しい考え方を取り入れ、イノベーションを推進してビジネスと家族を将来の機会に備える方法を探る内容です。この記事は、同族企業が心を開き、新しいトレンドを取り入れ、将来の成長と成功を促進するドライバーに変えていく実例を提供しています。

最初の記事“Sustaining a culture of continuous transformation in family business”は、ビジネス変革の幅広いトピックに焦点を当て、ビジネス変革へのアプローチ、およびビジネス変革がビジネスの目的、価値、長期的な成功をどのように維持しているかについて、ファミリービジネスリーダーからの洞察を共有します。シリーズ第2弾は“Good for business, good for the world”は、企業の社会的・環境的課題を進展させるために新たな措置を講じている世界中のビジネスリーダーからの洞察とガイダンスを共有しています。

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当該レポート全文はRedefining wealth in business families(原文/英語)よりご覧ください。

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