本稿では、国内トラック輸送を取り巻く現状から、物流の2024年問題の課題背景と発・着荷主や物流事業者に求められる対応について紐解いていきます。物流の2024年問題は罰則を含む規制措置が検討されており、輸送力不足により納品遅延等が生じた場合の事業へのダメージだけでなく、行政から勧告や措置命令等を受けた場合には市場や社会からの信頼失墜につながり、経営へのダメージも負うことになります。そのため、経営や事業へのリスクを正しく捉え、現場だけの問題ではなく管理部門を含む全社の取組み課題として位置付け、制度理解と適切な対応を進める必要があります。本稿では、これらのリスクについても触れながら解説します。
I.国内トラック輸送の現状
現在の国内輸送は自動車により支えられていると言っても過言ではありません。
2020年の数字※1では、トンベースでは92%以上が自動車輸送によるもので、トンキロベースでは約55%が自動車輸送、約40%が内航海運となっています。自動車輸送と内航海運の使い分けから、距離に応じた輸送モードの選択が行われていると言えます。ただし、トンキロベースにおける鉄道輸送はわずか5%にも満たない状況であり、輸送モードの選択肢は実際には限られていることがわかります。トンベースおよびトンキロベース双方の自動車輸送量は、近年横這い傾向にあります。この間、貨物自動車の積載率は減少傾向が続いており、2019年には35%※2を下回る結果となっています。
※1:経済産業省・国土交通省・農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」
※2:政府統計の総合窓口「自動車輸送統計調査 自動車輸送統計年報」
2.トラック運転手の状況
トラック運転手の労働時間は全産業平均より約20%長く、年間所得は10~20%低い状況※3です。1995年以降、トラック運転手の従業者数は減少を続け、2015年までの20年間で21.3万人減少しました。2015年から2030年にかけては、さらに24.8万人減少する見込み※1です。この状況が続くと、2028年にはトラック運転手は27.8万人不足すると予測※4されています。
※3:国土交通省・公益社団法人全日本トラック協会「トラック輸送の「標準的な運賃」が定められました」
※4:公益社団法人鉄道貨物協会「平成30年度本部委員会報告書」
3.物流事業者の経営環境
低積載率などの課題に昨今の燃料等の原価高騰が加わったほか、人手不足の解消に向けたトラック運転手の処遇改善など、一般に物流事業者の経営には業績の低迷が見られます。この問題の解消に向け、長年横ばい傾向にあった運賃の値上げが行われるようになり、2017年頃から道路貨物輸送サービス価格指数の上昇が見られます。
しかしながら、依然として物流事業者の経営やトラック運転手の処遇改善に向けては課題が残る状況であり、荷主と物流事業者の力関係や長年の商習慣等がもたらす不適切な取引や非効率な物流の解決に向けた取組みが、政府・行政・業界団体・各社等により続けられています。
II.課題解決に向けた取組み
2.政策パッケージとガイドライン
トラック運転手の働き方改革に関する法律が適用され、2024年以降、輸送力不足による物流の停滞が懸念される事態になりました。これが物流の2024年問題です。
懸念される輸送力不足については、現状に比べ2024年には14%、2030年には34%の輸送力が不足すると試算※5されています。輸送力不足を解決するため、政府・行政は「具体的な施策」「施策の効果」「当面の進め方」から成る物流革新に向けた政策パッケージが、2023年6月に決定されたほか、発荷主事業者(発荷主)・着荷主事業者(着荷主)・物流事業者が早急に取り組むべき事項をまとめた「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」)が公表されています。
※5:内閣官房 我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議「物流革新に向けた政策パッケージのポイント」
III.「ガイドライン」の概要
【図表1:ガイドラインにおけるプレーヤーの関係性】
「ガイドライン」は、発荷主・着荷主・物流事業者のそれぞれに対応を求めています。発荷主・着荷主向けには、「物流業務の効率化・合理化」「運送契約の適正化」「輸送・荷役作業等の安全確保」の3つの目的が設定され、それぞれの目的に対し施策が、「実施が必要な事項」(以下、「実施が必要」)と「実施することが推奨される事項」(以下、「実施を推奨」)に分けて整理されています。
物流事業者向けには、「物流業務の効率化・合理化」「労働環境改善に資する措置」「運賃の適正収受に資する措置」の3つの目的が設定され、同様に「実施が必要」と「実施を推奨」に施策が分けられています。「実施が必要」と「実施を推奨」の関係は、おおむね前者が目的、後者が手段を表すような記述になっています。
2.「ガイドライン」逸脱のリスク
一部の要求事項(後述)において、「ガイドライン」は荷主に対し物流事業者の法令遵守に配慮することを求めており、物流事業者の違反の原因となる疑いのある荷主は、法定措置の対象となると記述されています。
つまり、発荷主・着荷主・物流事業者のいずれも、輸送力不足が生じた場合は納品遅延や物流費・物流原価高騰など事業の損害を被り、違反行為の責任を問われた場合は市場の信頼を失うことになります。そのため、物流の2024年問題への対応は、物流部門や現場の役割と捉えるのではなく、マネジメント層・管理部門を交え、リスク評価・対応策の検討・本件に係る必要な予算獲得と執行・投資を進める必要があります。
3.「ガイドライン」の要求事項
ここでは「ガイドライン」の要求事項について、まずは概要レベルで捉えることを目的とします。特に注意が必要な要求事項を選択し、さらに「実施が必要」なものに絞って確認を進めます。
(A) 発荷主・着荷主に係る要求事項
荷主に対する「物流業務の効率化・合理化」に向けた要求事項(実施が必要)は図表2のとおりです。
特に注意すべき点は発・着荷主共通(3)(4)の、「荷待ち時間・荷役作業にかかる時間の把握」と「荷待ち時間・荷役作業時間2時間以内ルール」(2時間以上要している場合は2時間以内、2時間以内の場合はさらに短縮)です。「ガイドライン」では、長時間の荷待ち、契約外業務、運賃料金不当据置等が生じないよう、荷主は物流事業者の法令遵守に配慮するよう求められています。なお、貨物自動車運送事業安全規則において、原因が荷主にあると疑われる場合は法定措置の対象になります。
【図表2:物流業務の効率化・合理化】
発荷主 | (1)出荷に合わせた生産・荷造り等 (2)運送を考慮した出荷予定時刻の設定 |
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発・着荷主共通 | (3)荷待ち時間・荷役作業等にかかる時間の把握 (4)荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール (5)物流管理統括者の選定 (6)物流の改善提案と協力(過度な物流負担改善) |
着荷主 | (7)納品リードタイムの確保 |
前述のとおり、一般に着荷主は運送事業者と運送契約がありません。そのため、運送事業者とうまく連携できないことによる2時間以内ルールの逸脱や、契約外作業要求等が生じないよう、発荷主との連携が重要です。
図表3は発・着荷主に共通の「運送契約の適正化」に向けた要求事項(実施が必要)です。先ほど触れた発荷主と着荷主の連携に関わるものとして、(9)で荷役作業に係る対価を発荷主と着荷主のどちらが支払うか明確にするよう求められています。(10)の運賃と料金の別建て契約については、これまでどんぶり勘定だったものが明細化されることで請求額の総額が増える懸念が多分にある可能性を示唆しています。(11)では、燃料サーチャージなど物流コストの増加分をきちんと請求することが求められています。
【図表3:運送契約の適正化】
発・着荷主共通 | (8)運送契約の書面化 (9)荷役作業に係る対価(支払者の決定) (10)運賃と料金の別建て契約 (11)燃料サーチャージの導入・燃料費等の上昇分の価格への反映 (12)下請取引の適正化 |
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最も困難なのは、(12)下請取引の適正化と考えます。運送事業においては、多重下請け構造が問題として度々取り上げられます。物流波動を吸収する仕組みとして機能しているものですが、実運送事業者の採算に重要な影響を与える等の理由で、全日本トラック協会の自主行動計画では二次請けまでとされています。
特に着荷主として運送の下請取引の適正化に留意する事は容易ではなく、また留意の実現内容も明示されていないため、引き続き対応について注意を払う必要がある項目としての認識が必要です。
(B)物流事業者に係る要求事項
図表4の「輸送・荷役の安全確保」では、発・着荷主にも求められていた、(2)運賃・料金の別建て契約、(3)コスト上昇分や荷役作業等に係る対価の運賃・料金への反映に向けた取組、(5)下請取引の適正化、(6)トラック運送業における多重下請構造の是正といった要求が見られます。
(7)「標準的な運賃」の積極的な活用では、標準的な運賃を活用し原価計算の上で自社運賃を算出し荷主と交渉することが求められています。経営健全化に向けた原価に基づく見積りと、根拠に基づく荷主との交渉が定められていますが、荷主としても物流事業者が示す根拠の妥当性を判断した交渉だと明確にする必要があります。
【図表4:輸送・荷役の安全確保】
物流事業者 | (1)共通:運送契約の書面化 (2)共通:運賃と料金の別建て契約 (3)共通:コスト上昇分や荷役作業等に係る対価の運賃・料金への反映に向けた取組 (4)共通:契約内容の見直し (5)共通:下請取引の適正化 |
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(6)個別:トラック運送業における多重下請構造の是正 (7)個別:「標準的な運賃」の積極的な活用 標準的な運賃を活用し、原価計算のうえ自社運賃を算出し荷主と積極交渉 |
IV.最後に
【図表5:物流の2024年問題に関し検討していると思われる対応(例)】
検討している対応 | 具体策 |
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業務効率化 |
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物流ネットワークの見直し |
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顧客との交渉 |
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物流の2024年問題の優先度が組織内で上がりにくかったり、発言権が弱かったりという状況もあるかもしれません。重要なのは、本件の自社におけるリスクをきちんと評価し、リスクに見合った体制を構築し、対策を進めることだと言えるでしょう。
執筆者
KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 伊勢田 伸