本稿では、連載の番外編として、「メタバース」におけるWeb3.0の活用について、事例を交えつつその特徴を解説します。
メタバースとWeb3.0が同じ文脈で語られることが多いのは、両者の親和性の高さが背景にあります。しかし、本連載では、パブリックブロックチェーンを基盤としたインターネット上の新しい世界観をWeb3.0と定義しており、メタバースは、パブリックブロックチェーンが実現する分散性や経済圏の組成といった特徴を必須としているわけではないことから、メタバースをWeb3.0に分類されるものではないとして、以下の論考を進めます。また、本稿はメタバースとWeb3.0の優劣を語る意図ではないことを、予めお断りします。

1.メタバースとは

メタバースは、仮想的なデジタル空間や世界観を指す概念です。現実世界の枠を超えて、人々がインタラクティブに参加し、コミュニケーションを取り、創造活動を行う場所として、さまざまなメタバースが展開されています。オンラインゲームのようにプレイヤーが共有する世界観において、対戦したり協力し合ったりする場合や、その空間におけるコミュニケーション自体が目的となる場合など、その位置付けは多岐にわたります。さらには教育、エンターテインメント、ビジネス、災害予測など、活用の幅は今なお広がっており、さらなる発展が見込まれます。

2.従来型メタバースとWeb3.0メタバースの違い

従来型メタバースとWeb3.0を活用したメタバース(以降Web3.0メタバース)は、構築、活用するうえでの目的に違いがあります。
従来型、いわゆるWeb3.0の技術であるパブリックブロックチェーンを前提としないメタバースは、現実世界とは異なる独自の「世界観」を創造し、ユーザーへ「没入感」を提供します。多くのメタバースがそうであるように、基本的にユーザーは自身の分身となるアバターを作成し、その世界へ入り込みます。そしてそのアバターを自由に動かし、ユーザー間のコミュニケーションや、ゲームの協力プレイを楽しみます。そうした世界観が魅力的であればあるだけユーザーは没入感を得ることができ、あたかもその世界で実際に生きているかのような感覚を得ることができるのです。

一方、Web3.0メタバースは仮想空間における独自の「経済圏」を創出します。
Web3.0メタバースでは、メタバース上におけるアイテム等のアセットをNFT化することで、自身の所有物のように扱うことが可能になります。オンラインゲームを含む従来のメタバース内におけるアイテムは、原則その環境内における利用権を保有していることを意味し、それはつまり、そのメタバース自体がサービスを終了し、ログインすることができなくなると同時に、そのアイテムも失われることになります。アイテム等のアセットがNFT化されるということは、自身のウォレットアプリを利用することで自らのものとして所有し、自由に利用することができるということです(ここで言う「所有」とは、現在日本の民法で定められる有体物に対する「所有権」を指すものではありません)。メタバース環境で入手したアセットは、メタバース環境外で閲覧、譲渡することができますし、メタバース環境外で入手したアセットを、メタバース環境内で利用することが可能になるということです。

また、多くのWeb3.0メタバースにおいて実現しているのが、メタバース環境内の「土地」の所有です。たとえば、「THE SANDBOX」いうWeb3.0メタバースでは、自身の土地において以下のような体験をすることができます。

  • クリエイティブ活動
    ボクセルアートと呼ばれる、正方形の3Dピクセルを組み合わせて人や動物、道具や建物などを作成することができます。作成したボクセルアートを自身の土地に設置、展示することができます。
  • ゲーム作成
    ユーザー独自の3Dゲームを作成することができます。作成したゲームを他のユーザー向けに公開したり、また他のユーザーが作成したゲームで遊んだりすることもできます。

さらに、メタバース環境内においてアセットを所有することで、その売買が可能になります。現実世界の店舗で商品を購入するような体験や、利用者同士の物品の売買といった体験が、メタバース空間において実現します。こうした購買活動は、パブリックブロックチェーンにて発行される暗号資産またはトークンによって行われます。メタバース空間において流通する独自の通貨としてトークンが発行・利用されれば、まさにWeb3.0の技術によって経済圏が創出されたということができるでしょう。

3.今後の展望

Web3.0メタバースの特徴として、「クロスプラットフォーム」の実現可能性を挙げることができます。
前述のとおりWeb3.0メタバースにおけるアセットは、ブロックチェーン上のトークンとして発行されます。同一チェーン、同一規格にて発行されたトークンは比較的容易に互換性を付与することができ、また異なるチェーンであってもクロスチェーンブリッジ ※1と呼ばれる技術を利用することで互換性を持たせることも可能です。

これが意味するところは、マルチバースを行き来するような世界観の実現です。マルチバースとは多元宇宙と訳される科学用語で、今我々が存在する世界とは別の世界が同時に存在しているという仮説、理論を指します。それら複数の世界は基本的にはお互いに干渉することなく存在するとされており、今複数乱立しているさまざまなメタバース空間はまさにそのような状況にあるといえます。

Web3.0の技術が、それら複数存在するメタバースをつなぐ役割を果たします。たとえば、メタバースAにて入手したアセットを、メタバースBに転送することで、異なる仮想空間のなかで行き来して利用することができます。また自身のアバターをブロックチェーン上に乗せることができれば、あたかも仮想空間を行き来しながら複数の世界において活動することもできるようになります。

このようなことが実現すると、Web3.0によって生まれた単一メタバースにおける経済圏が、別のメタバースの経済圏と結びつくことで拡大していきます。国や国境、法律によって分断されていた通貨や資産が一気にシームレスに流通するようになり、現実世界を超越した新しい世界を作っていくことができるようになります。

まだまだメタバースおよびWeb3.0技術は黎明期にあり、技術面、法律面においてさまざまな障壁がありますが、人々の生活の大部分がメタバースに移行するSF映画のような世界観は身近に迫っているのかもしれません。そうした世界観がユートピアなのか、はたまたディストピアなのかはまだわかりませんが、興味が尽きることのない分野であると、筆者は考えます。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

※1 異なるブロックチェーン間でのトークンの交換、送受信を実現する技術の総称

執筆者

KPMGコンサルティング 
マネジャー 山本 将道

Web3.0 ~ブロックチェーンが支えるインターネット上の新しい世界観~

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