2024年財政法:移転価格税制の一部改正

租税回避へのさらなる対応策の一環として、下記の移転価格税制の一部改正が、フランスの2024年財政法案に盛り込まれ、当該法案は国会での審議、憲法院での審議を経て法案通りに採択されました。

租税回避への対応策の一環として、移転価格税制の一部改正が2024年財政法案に盛り込まれ、審議を経て採択されました。

主な改正のポイントは、以下の3点となります。

(1)移転価格文書化義務の対象となる法人の拡大
フランス租税手続法L13AA条によると、下記のいずれかに該当するフランス法人(子会社、支店、恒久的施設)は、移転価格文書化義務の対象法人となりますが、下記の「4億ユーロ以上」という閾値が「1.5億ユーロ以上」に低減されます。また、文書不備の際の罰則も、現在の最低年1万ユーロから5万ユーロに増額されました。

a.フランス国内にある法人で、4億ユーロ以上(税抜)の売上もしくは総資産を有する、もしくは
b.フランス国内にある法人で、上記aと同等の規模を有する法人の資本金や投票権の過半数を持つ場合、もしくは
c.フランス国内にある法人で、上記aと同等の規模を有する法人に資本金や投票権の過半数を持たれている場合、もしくは
d.フランス国内にある法人で、フランスでの連結納税グループに属しており、かつこの連結納税グループ内の法人の少なくとも1法人が上記a、 b、 cのいずれかの条件を満たしている場合

実務的には、在仏日系企業は上記cに該当する場合が多くなっています。

本法による閾値の低減により、より多くの在仏日系企業がフランス移転価格文書化義務の対象となることが推測されます。

注:上記のフランス租税手続法L13AA条に該当しないフランス法人は、租税手続法L13B条によって、別のやや簡易的な移転価格文書化義務の対象となります。

(2)遡及期間の延長
通常、フランスでは法人税・移転価格税ともに遡及期間は3年ですが、評価困難な無形資産を国外関連者に移転した場合、適用する遡及期間が6年に延長されました。

これは、評価困難な無形資産の価格設定に関わる事前の取り決めを、より長い後続年度の結果を見て行う事後検証を可能とするものです。この点について、フランス税務当局はOECDガイドライン第6章「無形資産に対する特別の配慮」をおおいに参考にしていると推察されます。

今後、評価困難な無形資産の移転を行う在仏日系企業は、より慎重な価格設定を検討する必要があります。

(3)乖離がある場合の移転価格更正
これまで、移転価格ローカルファイルに記載する移転価格ポリシーと、実際の価格設定に乖離があることが多々見受けられました。2024年財政法により、今後フランスの調査官がこのような乖離を所得移転とみなし、移転価格更正ができるようになります。

例:

  • ローカルファイル(および国外関連者間契約書など)において、在仏販売子会社の目標売上高営業利益率を2.0%と記載しているものの、実際の売上高営業利益率は1.2%であった。この場合、調査官は差分の0.8%を移転価格更正できることになる。
  • ローカルファイル(および国外関連者間契約書など)において、在仏役務提供子会社の目標総費用営業利益率を5.0%と記載しているものの、実際の総費用営業利益率は3.5%であった。この場合、調査官は差分の1.5%を移転価格更正できることになる。

今後は、移転価格ポリシーについてローカルファイル内(および国外関連者間契約書など)での記載内容に十分に注意する必要があるとともに、乖離がある場合の説明が重要となります(納税者が挙証責任を負うこととなる)。

上記3点の適用開始期は、2024年財政法によると、2024年1月1日以降としているものの、解釈の余地があり、実務上はケースバイケースで判断する事になると思われます。

最後に、フランスでは、近年(特にアフター・コロナ)非常に厳しい移転価格調査が続いており、フランスに進出されている日系企業は、移転価格ポリシーのレビュー、移転価格文書化等を通じて、移転価格調査に準備・対応することが推奨されます。

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