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“ありたい姿”を実現するため現場の意識改革から全社的変革を促す
モビリティ&イメージング、ファインケミカルズ、ライフサイエンスの3事業領域で、時代のニーズに応え、社会や産業を支える日本化薬株式会社。
すべてのステークホルダーに幸せやうれしさを提供するため、自らの“ありたい姿”の実現を目指す同社は、業務のデジタル化を促進する土台づくりの1つとして「システムや業務、IT組織改善を含む3ヵ年先を見据えたIT戦略」を策定し、その計画を実行・具現化する「IT基盤強化」を展開中だ。
現場の意識改革を通じて、業務やモノづくりのデジタル変革を着実に推し進めている同社の取組みに迫った。
全社横断的チームを編成
自動車安全部品や光学部材のモビリティ&イメージング事業、樹脂材料や色素材料などのファインケミカルズ事業、抗がん薬や農薬などのライフサイエンス事業と、日本化薬は多彩な製品群によって、安全・安心で快適な社会の実現や、産業の発展を支え続けてきた。
「当社は企業ビジョンとして、『最良の製品を不断の進歩と良心の結合により社会に提供し続けること』というKAYAKU spiritを掲げています。2022年度にスタートした中期事業計画『KAYAKU Vision 2025』では、『KAYAKU spiritのもと、存在感をもって、永続的に環境、社会、すべてのステークホルダーに幸せやうれしさを提供できる会社であること』を“ありたい姿”としています。これを具現化するため、現在、新事業・新製品創出、気候変動対応、DX、仕事改革、働き方改革の5つを全社重要課題と位置付け、全社横断的チーム(M-CFT:マテリアリティ・クロスファンクショナルチーム)を編成してそれぞれの変革に取り組んでいます」。そう語るのは、M-CFTのDX推進チームをリードする、同社情報システム部長の末續肇氏だ。
「世界的すきま発想。」をコーポレート・スローガンとしてユニークな製品づくりに取り組む日本化薬には、事業部門ごとに独自の研究・開発や生産関連のデータが蓄積されている。それらを可視化し、共有できる全社的なIT基盤を構築するのがM-CFT DX推進チームの重要なミッションの1つだ。共通のIT基盤の上で、全社的な経営状況の可視化や業務効率化、事業間のコミュニケーション強化なども目指している。
同社のIT基盤強化検討は、『KAYUKU Vision 2025』の始動に先駆けて2019年度に始まった。しかしその滑り出しは、決して順調とは言えなかった。
ロードマップづくりから始める
日本化薬のIT基盤強化検討は2019年度、わずか3名の情報システム部員によってスタートした。同社の事業規模や、事業範囲の幅広さを考えると、全社的なIT基盤強化を推し進めるのにとても十分とは言えない状況であった。
そこで検討チームでは、KPMGコンサルティングに支援を要請。IT基盤強化の運営方法から、目標設定、タスクの優先順位付け、計画づくりなど、地に足を着けた全体構想策定への協力を仰ぐことにした。
「まずは、単年度の予算ではなく、モノだけの導入でもない、組織・業務の改善を含めた3~5年という長期的なビジョンで何を目指していくのか、というロードマップづくりから始めました。それが整理されれば、IT部門全体の活動方針や、個別に取り組むべき施策も明確になり、守りのIT部門が攻めのIT部門に転じて事業を支える中核組織に変わっていくからです」と、日本化薬への支援を担当したKPMGコンサルティングの豊田直樹は振り返る。
KPMGコンサルティングの支援を受けた情報システム部企画メンバーは、IT基盤強化の全体アウトラインを策定。2020年度よりそれを実行可能なものに落とし込むべく、引き続きKPMGコンサルティングと一体となって具体的な企画策定に着手した。
末續氏は、それから約1年半後に日本化薬に入社し、DX推進リーダーにも任命された。当時、情報システム部の20数名は運用保守作業に従事しながら、この新たな取組みを始めていたが、「これだけの計画を進めるのに、全く人材が足りていない」と感じた末續氏は一気に増員を図り始める。
「社員のリスキリングに向けた体制の組み直しやベンダーからの人材派遣などを併用し、最低限必要な人材をまず確保しました。業績の変化等によって人員や予算規模は見直さざるを得ないにしても、この先の永続的なDXへの取組みに向けて着実にIT基盤強化を進めていくべきだと考えたからです」(末續氏)
【IT基盤強化の施策支援】
姫路での先行実践モデルを広げる
2020年度からの具体的な企画策定のなかでIT基盤強化を進めていくに際し、先行実践モデルとして選定した拠点が、同社の姫路工場である。
姫路工場は、エアバッグを膨らませるガス発生装置「インフレータ」などの自動車安全部品のほか、日本初の産業用ドローン向け緊急パラシュートシステム「PARASAFE®(パラセーフ)」を開発・製造。まさに「世界的すきま発想。」を体現する先端的でユニークな製品づくりを行っている。
だが、その生産管理の現場には、非効率的でアナログな業務があふれていた。
「設備の計器類を目視した製造記録を手書きで記入して承認に回すなど、アナログで効率的とは言えない作業が現場に負担をかけていました。そこで、あたりまえのように行っていた無駄な業務を根底から見直し、ITを利活用しながら生産性を向上させるための業務改善(紙による記録の電子化だけでなく無駄な業務プロセスの削除)と、その電子化されたデジタル情報を効率的に集約・利用するためのITインフラを、ネットワーク構成やセキュリティ、運用も考慮して改善する『HIT(ヒット)プロジェクト』を2020年9月に始動させました」と語るのは、姫路工場を統轄する森岡輝次氏である。
姫路工場と、工場内に置かれている同社の開発本部から約20名の社員を選抜し、プロジェクトチームを編成。メンバーたちは、現場での経験から無駄や手間に感じている業務を抽出し、解決策を検討した。
「400項目近く抽出された課題に対して優先順位付けを行い、As Is(現状)をいかにTo Be(理想)に近付けるか、というアプローチで解決に取り組んでいきました。こうした手法はKPMGコンサルティングにご提案いただき採り入れていったものです」と説明するのは、プロジェクトチームのうち業務改革チームのリーダーを務めた牛尾 剛士氏である。
プロジェクトに取り組むなかで、メンバーたちは少しずつ“自分事”として課題に向き合うようになった。「そうしたメンバーの意識の変容が生まれたことも、プロジェクトの大きな成果です」と牛尾氏は語る。
一方、ネットワークインフラ改革チームのリーダーを務めた松下貴儀氏は、「従来は建物ごとにバラバラに敷設されていた回線を大容量回線に一本化し、新しい回線を追加する際には、そこから枝分かれさせて敷設できるようにしました。将来を見据え、拡張性を備えたネットワークを整備できたと思います」と語る。
HITプロジェクトは2022年9月に完了したが、姫路工場は今後もITインフラの整備やDXを継続していく予定だ。「そのための専任として施設部にインフラ担当を設置しました。ITとOTの結合など、さらなる試みにも挑んでいきたい」と森岡氏は語る。
末續氏は、「今後、姫路工場での先行実践モデルや成功体験を通じて得られた意識改革を他の拠点にも横展開し、全社横断的なDXを実現していきたいと考えています。KPMGコンサルティングには、そのための継続的な支援を期待しています」と語った。
KPMGコンサルティングの豊田は、「今回、IT戦略策定から支援を行い、さまざまな形で変革の瞬間を迎えられたことはコンサルタント冥利に尽きます。さらに目に見える事業成長、現場の皆様の成長とやりがいに貢献できるように、引き続き日本化薬様に寄り添って全力を尽くしたい」と述べている。
日本化薬株式会社
概要 | 基盤となる「火薬」「染料」「医薬」「樹脂」の保有技術を駆使し、モビリティ&イメージング、ファインケミカルズ、ライフサイエンスの3事業を展開。 KAYAKU spirit 「最良の製品を不断の進歩と良心の結合により社会に提供し続ける」を企業ビジョンに掲げ、サステナブル経営を推進するとともに、3事業を通じた持続可能な社会の実現に取り組んでいる。 |
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URL | https://www.nipponkayaku.co.jp/ |
本店所在地 | 〒100-0005 東京都千代田区丸の内二丁目1番1号 明治安田生命ビル(19階、20階) |
KPMGの支援内容
プロジェクト名 | IT基盤強化構想の策定および実行支援 |
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期間 | 2019年9月~(継続中) |
支援内容 | IT基盤強化のアウトライン検討、3ヵ年ロードマップの明確化支援、姫路工場における共通IT施策の先行導入およびモデル検証、IT基盤強化の各種施策の実装支援 |
KPMGコンサルティングより
日本化薬様には、次世代ERP整備に係るIT戦略立案や実装アプローチなどを紹介するKPMGのセミナーへ参加いただいたことをきっかけにお伺いしました。ソリューションの協議を通して、「まずは全社的なIT戦略を策定すべき」という課題が明らかとなり、ERPに限らない全社のIT基盤強化に係るIT戦略ロードマップ策定の重要性を経営層にも理解・承認いただくところから支援させていただきました。
【IT戦略ロードマップ策定により実現できること】
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単純なシステム導入施策で終わらない、組織の継続性を考慮したIT要員育成・運用を見据えた視点で、組織づくり、人づくりまでサポートできるのがKPMGコンサルティングの強みです。
日本化薬様への支援では、本社のチームだけでなく、姫路工場の業務効率を見直すBPRプロジェクト(社内プロジェクト名称:HIT)の推進もサポートさせていただきました。そのプロジェクトの真の目的は、事業現場のDX推進に係るチェンジマネジメントの醸成と自立・自走可能なメンバーの育成、他事業部への横展開でした。
そのため、姫路工場の現場担当者が日常業務とプロジェクト参画業務とを兼務しながらも主体的に推進できるように、KPMGがメインでプロジェクトを推進するのではなく、全体ファシリテーションと現場担当者のタスク誘導・サポートを行う伴走推進方法を選択しました。その結果、現場の方々が自身で取り組まれた成功体験により、チェンジマネジメントの士気が向上し、スキルアップされていく様子を拝見できたことは、コンサルタント冥利に尽きる経験となりました。
最終的に私たちがいなくなっても自律的に変革が進むように、プランニング、施策実行、組織設計、人材育成等のIT総合支援パートナーとして伴走することをKPMGの使命として、今後も推進してまいります。
KPMGコンサルティング株式会社
アソシエイトパートナー 豊田 直樹