本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
宇宙ビジネスにおける新規事業と既存事業のチャンス
宇宙産業は、再び黎明期に入りました。
宇宙産業の歴史は、意外にも短い期間で激変します。1942年に初めてロケットが宇宙空間に到達してから1969年に人類が初めて月面に降り立つまでに、27年しかかかっていません。ここ20年でも宇宙産業の様相は大きく変化しました。今日、世界では、ほぼ2日に1回の頻度でロケットが打ち上げられ、数千基の人工衛星が頭上を飛び交っています。宇宙産業にはスタートアップやさまざまな異業種のプレーヤーが相次いで参入し、多様なサービスの展開を計画しています。
今後はさまざまなビジネスが宇宙に関わりを持つことになることが予想されます。たとえば、衛星ブロードバンド通信で、インターネット接続が困難だった数億人がつながることになるでしょう。衛星測位は誤差1cm以下の精度になり、車などの自動運転の精度向上に欠かせないものとなります。衛星で取得したデータがインフラの維持や防災、経済予測などに不可欠になる可能性も出てきます。
人々の生活も変わっていきます。月や火星への旅に手軽に出かけられるようになるのはまだまだ先の話ですが、十数年後には多くの人々が宇宙飛行を経験することになるかもしれません。地球上での長距離移動も、ロケットが飛行機に取って代わる未来も想像できます。宇宙のサステナビリティはより意識されるようになります。スペースデブリ(宇宙ゴミ)に対する規制も整えられ、デブリ除去のビジネスは一般的かつ重要になるでしょう。
宇宙探査も進化します。現在計画中の月面開発も本格化し、人類の月での恒久的活動を可能にする水の発見につながる可能性があります。月面探査機器は地球からの遠隔操作や自動操縦が可能になるでしょう。22世紀には月や火星での資源採掘が活況を呈しているかもしれません。
人類の歴史は、人類がその活動領域を広げてきた歴史でもあります。宇宙を新たなフロンティアとする経済圏の広がりは、大航海時代さながらの国際競争を生み、イノベーションや新たなゲームチェンジャーを生み出すでしょう。現在が今後数百年の世界経済の勢力図を決める分水嶺となるかもしれません。
企業のビジネスにおいても同様です。さまざまなビジネスが宇宙に関わりを持つようになるということは、至るところに新たな事業機会や既存事業の高度化の機会が眠っているとも言えます。これらの機会を捉えることは、企業の未来を大きく変える一手となるでしょう。
将来を精緻に見通すことは困難です。しかし、宇宙の領域で生まれるさまざまな因子がビジネスにどのような影響をもたらすかを丁寧に観測することで、その解像度を上げることができます。取るべきアクションの判断を誤らないようにするには、宇宙産業の発展によって「何が変わるのか」と「何が変わらないのか」を見極め、自社の戦略に的確に組み込むことが重要となります。
人類の宇宙への進出は続きます。日本企業は現状、欧米に比べて一歩出遅れているとの見方もありますが、長い目で見ればそれほどの差はまだありません。高い技術力を有する日本企業が宇宙で活躍するには、今こそ先人が大事にした進取果敢の精神を取り戻さなくてはならないのです。
日経産業新聞 2023年4月18日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター 宮原 進