本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
日本の宇宙関連企業の存在感
宇宙産業の未来は明るいと言えるでしょう。市場は急成長が見込まれ、日本でも宇宙関連のスタートアップが続々誕生しています。しかし、日本が世界と戦っていくには意識改革も迫られています。
世界の宇宙産業の市場規模について、多くのレポートが右肩上がりの拡大を予測しています。現在約40兆円とされる市場ですが、2050年には倍以上の規模に達するとも言われます。宇宙関連のスタートアップをはじめ市場のプレーヤーは増えており、多くの新たなサービスが計画されています。各国・地域の宇宙関連予算も拡充されており、市場の拡大は想像に難くありません。
1955年、全長23cmの「ペンシルロケット」から始まった日本の宇宙開発。1970年には人工衛星の軌道投入に成功して、旧ソ連、米国、フランスに並ぶ衛星打ち上げ国となり「宇宙先進国」の仲間入りを果たしました。宇宙に行った日本人は14人を数えます。日本の宇宙関連スタートアップは現在、80社を超え、2023年には株式を上場する企業も出るなど、今後数年は日本の宇宙産業の市場は拡大していくと見込まれています。
しかし、日本の宇宙産業が将来にわたって安泰かと問われると、そうとは言えそうにありません。宇宙ビジネスを巡る競争は世界中で激しさを増しており、現在のアドバンテージは長くは続かないと見られています。
将来が懸念される要因の1つに、日本の宇宙関連企業がグローバル市場で大きな存在感を示せていないことがあります。日本の宇宙産業コミュニティはしばしば「宇宙村」と呼ばれてきました。日本人同士の見知った顔と特定の国内組織が名を連ねる閉鎖的な状況となってしまっている一方、世界の宇宙関連の主要な展示会で目につくのは欧米企業ばかりで、日本企業はマイナーな存在です。
日本国内に宇宙ビジネスの大きな需要がないという事情もあります。人工衛星を使ったブロードバンド通信サービスは、通信困難な地域のインターネットへのアクセスを容易にしますが、日本でそのような場所は山岳地帯や離島、海洋などに限られます。人工衛星による観測データの活用も、交通網やセンサー技術が発達している日本にあっては活躍する場面も多くはないのが実情です。今後、日本の宇宙産業を伸ばしていくには、海外の市場に打って出る必要があり、海外企業との連携が重要となってくるでしょう。
日本の宇宙産業の閉鎖的な状況を招いている要因の1つに、日本企業のマインドが挙げられます。日本企業は宇宙ビジネスを「ロマン」と捉える傾向が強いですが、海外の企業は「ビジネス」と捉えています。顧客への提供価値やマネタイズ戦略、競合優位性の獲得を他のビジネス同様に考えています。この違いが、事業展開のスピードや大胆さの差となって表れているのです。
ビジネスとして展開するには、しっかりとした市場に身を置くことも重要です。国内に需要がなければ海外に目を向け、競争環境に飛び込む勇気を持たなければなりません。必要なら海外企業との資本提携や、M&Aなどにも臆せず踏み込むべきでしょう。
世界で急成長する宇宙産業に日本企業が乗り遅れないためには、ポテンシャルを生かすマインドチェンジが求められます。
日経産業新聞 2023年4月14日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
ディレクター 宮原 進