本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
日本の宇宙スタートアップ企業の課題とは
2000年代以降、宇宙開発分野にスタートアップが続々参入しています。衛星部品の小型化や宇宙空間への輸送コストの低減化が進んだことに加え、各国の支援策拡大を受けて、これまで宇宙とは関連がなかった企業や大学発ベンチャーなどの参入も増えています。
宇宙ビジネス関連のスタートアップは、欧米を筆頭に年々数を増しており、中国やインドでの成長も目覚ましいものがあります。日本にも数十社存在しており、こうした企業の株式上場も今後増えていきそうです。
一方、世界的なインフレや金利上昇などのマクロ経済の影響もあって、2022年の宇宙ビジネスへの投資額は2021年に比べ大きく減退しています。宇宙開発には高度な技術と設備が必要なため、開発・運用コストも他産業と比べ多額に上ります。資金調達が課題となりがちなスタートアップにとって、投資額の減少は極めて重大な問題と言えます。
しかし、そうしたなかでも資金調達に成功している宇宙スタートアップは多数あります。資金調達を可能としている要因は一体何か。それは、投資家に対して自社の将来の収益見込みを、説得力をもって明確に打ち出すことにあります。従来、宇宙スタートアップに対する政府の支援や投資は技術実証目的の色合いが強かったのですが、投資家は昨今の宇宙開発の加速を睨んで、スタートアップの収益化をより意識し始めるようになっています。
資金提供に慎重な投資家たちに対して、スタートアップ各社は、自社のサービスが実際に購入・利用されるようになってきていることをアピールする必要があります。特に海外の市場では競争環境ができつつあり、各社が価格や実績面での優位性獲得にしのぎを削っています。ビジネスとして立ち上がりつつある海外の宇宙スタートアップが登場し始めているなか、日本の宇宙スタートアップは後れを取っていると言わざるを得ない状況にあります。
日本の宇宙スタートアップが自身の収益計画の実現性を高めていくことはもちろん重要ですが、宇宙ビジネスは市場投入に時間を要するため、他産業に比べ収益化に時間がかかるのも事実です。さらに、スタートアップは大企業とは異なり、「ヒト」「モノ」「カネ」も足りているとは言えません。
国内の宇宙スタートアップ育成環境を整えるうえでも、たとえば米国が進める政府が民間企業の顧客となって一定の購入を保証する「アンカーテナンシー」の導入が望まれます。スタートアップとの柔軟な人材交流や設備の共有、資金投入といった大企業による多面的な取組みも必要でしょう。
そのためには、大企業側にも宇宙ビジネスに対する知見や真贋を判定できるスキルが求められます。大企業がそうした能力を伸ばすことは、宇宙領域への参入の選択肢を増やすことにもなります。
可能性を秘めた宇宙スタートアップですが、その成長にはさまざまな立場のプレーヤーのかかわりが不可欠だと言えるでしょう。
日経産業新聞 2023年4月13日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
コンサルタント 溝江 桃