本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

民間企業の事業転用が期待されるアルテミス計画

昨今、宇宙業界で最も注目を集めるテーマの1つに「アルテミス計画」があります。米国主導で人類を再び月に送るこの計画には、日本を含む23ヵ国・地域が参加を表明しています。
人類は1972年のアポロ17号の宇宙飛行士を最後に、月面に降り立っていません。この計画の「アルテミス」という名前は、アポロ計画の由来となったギリシャ神話のアポロン(アポロ)の双子の妹を指し、アポロ計画の再来を示唆する意図があります。

日本では宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2023年2月、14年ぶりに新たな日本人宇宙飛行士の候補2人を選抜しました。彼らは「アルテミス世代」と呼ばれ、「ゲートウェイ」と呼ばれる月周回有人ステーションへの滞在や月面活動に携わる予定です。
アルテミス計画は、アルテミス1号から7号までの7つのフェーズに分けて段階的に進められます。2022年11~12月にかけて実施した「アルテミス1号」は、無人宇宙船が月を周回して地球に無事帰還しました。2024年に実施予定の「アルテミス2号」は、人類を乗せた宇宙船が月を周回飛行し、2025年の「アルテミス3号」で、半世紀ぶりとなる人類の月面着陸を予定しています。さらに、「アルテミス4号」以降では「ゲートウェイ」の建造を始める計画となっており、2030年以降には月を中継拠点とした人類初の有人火星探査も計画されています。

一言で「月探査」といってもさまざまな分野がかかわってきます。たとえば、打ち上げロケットや月面着陸船、月面探査車などの機器の製造から、宇宙飛行士が滞在する居住モジュールの建造、地球と月をつなぐ通信事業などです。さらに、地球から資材や物資を運ぶには多額の費用がかかるため、月などで入手可能な資源を利用する考え方「ISRU(In-Situ Resource Utilization)」があり、この分野も今後急速に拡大する可能性があります。
たとえば、月には水資源が存在することが近年の研究で明らかとなっており、アルテミス3号ミッションで着陸予定地が月の南極とされるのは、水資源の探査を目的としているからです。人類の英知を結集して活動範囲を広げる環境は、まさにフロンティア開拓と呼ぶに相応しいものです。

アポロ計画とアルテミス計画の違いの1つに、民間企業の存在があります。月面着陸船やゲートウェイへの物資の運搬、遠隔操作ロボット、生命維持装置などの分野で、日本企業の強みが生かされる余地は多分にあると考えられます。

各国・地域で相次ぐロケット打ち上げの失敗や地政学リスクの高まりなど、月探査実現に向けた課題は山積していますが、月面での活動は将来的に確実に到来する人類の未来であり、多くの日本企業がこの好機を逃さず、月探査分野で活躍することに期待したいものです。

日経産業新聞 2023年4月12日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 平田 悠樹

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