本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
宇宙システムへの脅威とレジリエンス
宇宙空間は社会経済活動や安全保障分野でも重要性を増しています。民間の宇宙関連企業のサービスも多く使われるようになり、民間が利用する衛星が攻撃を受けるリスクも高まっています。
人工衛星は、通信をはじめ、位置情報、観測データなど多くの社会インフラで利用されており、停止すれば社会経済活動に多大な被害をもたらしかねません。
民間が運用する衛星が攻撃を受ける可能性も出てきました。国家間の緊張が高まると、悪意ある者による格好の攻撃対象になり得ます。宇宙システムを持続的・安定的に維持・利用するには、サービスの提供者側、利用者側の双方が対策を取ることが重要になってきます。すなわち、宇宙システムにかかわるすべてのステークホルダー全体でレジリエンスを向上させていく必要があります。
宇宙システムへの脅威には、地上からのミサイル攻撃による衛星破壊がまず想起されますが、衛星システムに対するサイバー攻撃の可能性もあります。通信を妨害する電磁波攻撃やサイバー空間での攻撃は、比較的安価で匿名性も高く攻撃側に有利です。
こうした脅威にはどのような対策が考えられるでしょうか。
たとえば、米国立標準技術研究所(NIST)などが作成したサイバーセキュリティのフレームワークやガイドラインがあります。グローバルスタンダードとして位置付けられており、民間企業を含む各国・地域の宇宙システム運用組織は、これに即した対策を講じる必要があります。守るべき資産を特定し、自社のみならず関係するサプライチェーンを考慮したうえでセキュリティ管理策を実装することが重要となります。
サービスを利用する側も、リスクシナリオを想定しそれが顕在化した場合の影響を事前に見積もり、障害発生時にも稼働を継続できる冗長化などの自衛手段を用意しておくべきでしょう。宇宙の技術やサービスを積極的に利用していくためには、レジリエンス向上に向けた適切なセキュリティ対策と、それに要するコストとのバランスを見極めることが重要です。
日経産業新聞 2023年4月10日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 七森 泰之