本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
クリーンエネルギーを宇宙から
宇宙空間に太陽光パネルを設置して発電した電力を地上に送る研究が進んでいます。地球温暖化対策が喫緊の課題となるなか、二酸化炭素(CO₂)を排出しないクリーンエネルギーを宇宙から獲得しようという構想です。
国際エネルギー機関(IEA)によると、クリーンエネルギーへの投資は、パリ協定が採択された2015年から5年間は年平均2%増でしたが、2020年以降は12%増へ急拡大しています。
太陽発電衛星は、宇宙空間に太陽光パネルを展開して太陽光で発電した電力を、マイクロ波やレーザーなどのワイヤレス電力伝送技術を使って地球へ送電するものです。送られてきた電力は地上のアンテナで受け取り、地上で活用します。太陽発電衛星は、クリーンエネルギーを生む「宇宙の発電所」とも言えます。
近年、日米欧や中国で研究が加速している太陽発電衛星のアイデア自体は、1968年に米国の科学者によって提唱されたものです。一方で、コストがかかりすぎるなどの理由から、米国では研究がいったん打ち切られましたが、当時、米国にいた日本人研究者が知見を持ち帰り、国内での研究が始まりました。日本では1980年代に本格化した研究が現在まで続けられており、政府の宇宙開発戦略本部による宇宙基本計画にも太陽発電衛星の取組みが記載されています。
太陽発電衛星には利点がいくつかあります。まず、地上の太陽光発電と異なり、昼夜や天候を問わず発電できる点です。太陽発電衛星を構築する軌道によっては、ほぼ24時間発電が可能であり、ワイヤレス電力伝送技術を使うため地上が悪天候でも送電できます。地上の太陽光発電と同様、発電時に化石燃料を必要とせず温暖化ガスや廃棄物が発生しません。
さらに、太陽発電衛星で使われるワイヤレス電力伝送技術は、他分野への波及効果が期待できます。IoT(モノのインターネット)センサーやドローン、ロボットへの給電で利用できます。
このように、太陽発電衛星への期待は大きいものの、実現に向けて解決すべき課題も横たわります。たとえば、巨大宇宙構造物の実現技術が挙げられます。太陽発電衛星では複数のモデルが検討されていますが、その1つは、宇宙に打ち上げる太陽電池の大きさを約2,500m四方と想定しています。現在、宇宙空間で最も大きい人口構造物は、国際宇宙ステーション(ISS)で、約109m×73mとほぼサッカー場と同じ大きさです。この巨大な太陽発電衛星を実現するために、部品を細かく分けて宇宙へ運び、宇宙空間で組み立てることなどが検討されています。
他にも、宇宙から地上のアンテナに向けて正確に送電するための制御技術や、低コストで太陽発電衛星を実現する技術などの課題もあります。
地球にやさしいエネルギーが望まれるなか、クリーンエネルギーの選択肢の1つとして、今後、太陽発電衛星の研究や企業の取組みへの投資は各国でますます増えていくでしょう。宇宙からのクリーンエネルギーの実現に日本がリードできるか、今後が楽しみです。
日経産業新聞 2023年4月5日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
コンサルタント 中村 剛也