本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
官民で取り組む宇宙ゴミの課題
人工衛星に代表される宇宙空間にあるアセットは増え続けています。宇宙利用が進むにつれて深刻化な問題となっているのが、スペースデブリと呼ばれる「宇宙ゴミ」です。衛星に衝突すれば重要な社会インフラの途絶にもつながりかねず、人工衛星の運用を脅かす存在となっています。
宇宙ゴミは、主に人工衛星の打ち上げに使ったロケット部品や寿命を終えた衛星の残骸や破片です。多くの人工衛星が低軌道と呼ばれる高度500km付近にありますが、宇宙ゴミも多数集中しています。
欧州宇宙機関(ESA)によると、現在、宇宙ゴミの数は追跡可能な10cm以上の大きさで3万個以上にのぼり、1cm以上では100万個程度、1mm以上に至っては1億3000万個を超えると見られています。しかも宇宙ゴミは秒速7~8kmという高速で周回しており、豆粒ほどの小さなものでも、衝突すれば金属に穴をあけるほどの破壊力があります。人工衛星などに衝突すると破片が飛び散り、さらなる衝突を招いて被害を拡大させるリスクもあるのです。宇宙ゴミが一定の空間密度を超えると、連鎖的に衝突が起きるようになり宇宙ゴミの増加が止まらなくなる「ケスラーシンドローム」と呼ばれる現象の発生が危惧されています。
新たな宇宙ゴミの発生を抑制しようと、各国・地域の政府も規制強化に乗り出しています。国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)は2007年に「スペースデブリ低減ガイドライン」を作成しました。さらに米国連邦通信委員会(FCC)は、2024年9月30日以降に打ち上げる低軌道衛星に、任務完了後5年以内に廃棄軌道に移すことを義務付けると発表しました。ESAも政府と関わりのある欧州の衛星事業者に対し、任務完了後ただちに衛星を廃棄するよう促しています。
民間企業にも宇宙ゴミの問題解決に立ち向かう動きがあります。宇宙ゴミへの主な対処法には、「発生の抑制」「除去」「衝突回避」「防護」が挙げられます。日本では、宇宙ゴミの除去にスタートアップを含む複数の企業が実証に取り組んでおり、早ければ2026年の事業化を見込んでいます。
衝突回避では従来、米国防総省戦略軍統合宇宙運用センター(JSpOC)が担っていた宇宙ゴミの接近通知を出す役割について、民間企業が主体となって同様の役割を担うように米政府が促しています。この分野で米政府はガイドラインなど法的拘束力のないソフトロー路線を強めており、さらなる商業プレーヤーの台頭が期待されています。
我々の日々の生活のみならず、人類の活動領域拡大を持続可能にするためには、宇宙産業にかかわるすべてのプレーヤーが宇宙ゴミ問題に課題意識を持つことが大切です。
日経産業新聞 2023年4月4日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 平田 悠樹