本連載は、日経産業新聞(2023年3月~4月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
衛星データの価値とは
一見遠くに感じる宇宙ですが、数千基もの人工衛星が頭上を飛び回り、私たちの生活と切り離せない社会インフラとなっています。なかでも注目を集めているのが、人工衛星で取得した地球観測データ(衛星データ)の活用です。「衛星リモートセンシング」とも呼ばれるこの分野は、人工衛星に搭載したセンサーを使って地上を観測する活動およびそのセンサーから得たデータの活用を指します。
衛星データは、さまざまな用途で利用されていますが、近年は観測の対象や目的に合わせてセンサーが開発されるようにもなりました。多数の小型衛星を打ち上げて一体運用する「衛星コンステレーション」も広がり始め、地球全体をカバーしやすくなっています。
地球観測市場は勢いを増しており、多くの企業や団体が衛星データを使って新たな価値を生み出そうと試行錯誤を続けています。しかし、実証実験は数多く実施されているものの、残念ながら実用化に至ったサービスやソリューションは限られているのが実情です。
なぜ失敗が相次ぐのでしょうか。それは、衛星データ活用の勘所を利用者が十分理解できていないためだと考えられます。衛星データはそれ自体に価値があると捉えられがちですが、広域を定期的に観測できる点では優れているものの、撮影頻度を1時間おきにしたり、車種を特定できる解像度で撮影したりすることは現状不可能です。夜間や雲がある場合や衛星が頭上にいるタイミングでないと撮像できないなど、観測条件には制約もあります。
衛星データ活用に取り組む企業の多くは、衛星データを使うことに執着しがちという問題もあります。現場で直接確認した方が安上がりな場合にも、衛星データの利用を検討しているケースもあります。
衛星による観測は、その「範囲」「回数(頻度)」「タイミング」「精度」「何を見るか」によって、衛星データと代替手段を比較しながら適切な手段を選択することが肝要です。その際、事例を気にしすぎないこともポイントとなります。事例を模倣するのではなく、なぜその事例が成功したかという要素を抽出するために用いることが望ましいでしょう。
また、衛星データはそれのみで価値が出ることは少ないと言えます。衛星データ以外、たとえば自社が保有しているデータを重ね合わせ、自社の専門的な知見や経験を用いた分析をすることが必要となります。
衛星データ活用の「べし・べからず」が理解できたら、実際の行動に移す必要があります。衛星データ活用の勘所を肌感覚で判断できるようにするには、試しに衛星データを使ってみることです。その際には「詳しい人に相談する」「詳しい人を巻き込む」ことが重要となってきます。
現在、多くの企業が衛星データの活用を検討しているものの、すぐに花開くことはないでしょう。しかし、今後も衛星データの多様化と高精度化は進むことが考えられます。正しい思考と試行により、新たな活用方法が生まれてくることを期待したいところです。
日経産業新聞 2023年4月3日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 平田 悠樹