イノベーションを推進する高度外国人材の力

高度外国人材は今や、単なる働き手としてではなく、イノベーションのけん引役としてますます重要な存在となっています。海外との比較も交え、日本の高度外国人材活用の方向性について考察します。

高度外国人材は今や、単なる働き手としてではなく、イノベーションのけん引役としてますます重要な存在となっています。海外との比較も交え、日本の高度外国人材活用の方向性について考察します

日本は人口減少をはじめ、さまざまな課題に直面しているが、その解決と持続的な成長を実現していくために、高度外国人材活用の重要性がますます高まっている。先端分野における高度なスキルを有する外国人材を積極的に活用することは、社会課題の解決に貢献するだけでなく、オープンイノベーションを通じて社会的な価値創造を推進し、日本社会に多様性をもたらすことにもつながる。本稿では、日本が抱える社会課題と、それに対応するための高度外国人材活用の現状と政策を確認するとともに、他国の政策との比較や日本の社会的背景を踏まえ、日本が目指すべき方向性についても考察する。

1.日本の人口減少と第四次産業革命(Industry 4.0)

今日の日本社会は、労働力人口の減少による人材不足と第四次産業革命(Industry 4.0)と言われる産業構造の転換という、2つの大きな潮流に直面している。超高齢化社会である日本の人口は、国立社会保障・人口問題研究所によると2022年5月時点で1億2,572万人であったが、2050年には1億人、2065年には8,346万人にまで減少すると予測されている。第四次産業革命とは、人工知能(AI)、ロボット、自動運転、ブロックチェーンなどの最新テクノロジーを活用し、産業のあり方を根本的に変えるとされている概念であり、情報技術や通信技術、バイオテクノロジーなどを統合し、新たな付加価値を生み出すことを目指すとされる。人口減少に直面する日本にとって、Industry 4.0の実現は重要な課題と言える。例えば、自動化技術によって従来人間が行っていた作業を機械が行うことによる効率性の向上や、新型コロナウイルスの流行で急速にテレワークや場所に捉われない柔軟な働き方が一般化したことも、第四次産業革命の事象の1つと言えるだろう。こうした変化による、地方在住者や育児・介護を行う人々にとって、より勤労・生活がしやすい環境が整う可能性もある。

2.Industry 4.0における高度人材の必要性と海外人材活用

第四次産業革命の実現に向けて、データサイエンティストやシステムエンジニア等、ビッグデータやAI、ロボット技術を効果的にビジネスに活用していく職種でのニーズが急速に高まっており、国内のICTエンジニアの人材不足から、インド等海外にICTエンジニアを求める日系企業も増加している。また、AIでは担えない高度な戦略策定や商品企画等の高付加価値な能力に対するニーズも、今後さらに高まっていくと思われる。日本が成長していくためには、社会経済に変化をもたらすイノベーションが活発に生み出され、イノベーション主導経済を実現していかねばならず、そのためには、企業の壁を越えた新規事業開発や、高度な専門スキルを有する社外人材の起用といったオープンイノベーションの推進が重要である。グローバル化が進展する世の中において日本がオープンイノベーションを実現していくためには、高度な知識・技能を持つ高度外国人材の受け入れによる、日本経済の生産性の向上とイノベーションの加速化が必須と言えるだろう。高度外国人材の活用は、人口減少や高齢化進行に伴い地域経済を支える人手不足が深刻化している地方の活性化にも寄与できる可能性がある。

3.日本における高度外国人材活用

日本としても高度外国人材受け入れの促進に向け、さまざまな政策を実行している。「日本再興戦略2016」では、多様な働き手の参画の一環として、外国人材の活用が位置づけられ、高度人材の受け入れや留学生の就職支援等の項目が政策目標として掲げられた。同じく「未来投資戦略2018」では、外国人留学生の受け入れ増加、外国人留学生の日本における就職者増加、2022年までに40,000人の高度外国人材の受け入れといった具体的目標が示されている。2012年、日本政府は、高度外国人材の受け入れを促進するため、ポイント制を導入した。これは、外国人材の活動内容を「高度学術研究活動」「高度専門・技術活動」「高度経営・管理活動」の3つに分類し、それぞれの特性に応じて「学歴」「職歴」「年収」などの項目ごとにポイントを設け、ポイントの合計が一定点数に達した場合に、出入国在留管理上の優遇措置を与える制度である。文部科学省によると、ポイント制による認定を受けた外国人の数の推移は下記の通りである。

図表1 ポイント制による認定を受けた外国人数の推移

イノベーションを推進する高度外国人材の力-1

出所:出入国在留管理庁「高度人材ポイント制の認定件数(累計)の推移」をもとにKPMG作成

2020年および2021年は新型コロナウイルスの影響により前年対比で認定数が2019年対比で若干減少したものの、2012年からの累計で、4万人近くの外国人が高度外国人材として認定されている。厚生労働省「外国人労働力等調査」によると、2022年3月末時点での日本の外国人労働者数は、約204万人である。高度外国人材の数は、今後も増加が期待されるものの、外国人労働者全体に対する割合はまだまだ小さい。なお、2023年4月からは、特別高度人材制度(J-Skip)が導入され、これまでのポイント制とは別途、学歴または職歴と、年収が一定の水準以上であれば「高度専門職」の在留資格を付与し、「特別高度人材」として現行よりも拡充した優遇措置が認められることとなった。さらに、高度な技術を有し、日本での起業を目指す外国人に対しては、内閣府による外国人創業活動促進事業(2015年開始)、経済産業省・法務省の外国人起業活動促進事業(2018年開始)といった「スタートアップビザ」の制度が、一部の自治体や特定の大学の留学生を対象として導入されている。スタートアップビザは、要件を満たした多様な外国人材に対して起業のための在留許可を認める制度であり、日本における起業家文化の発展促進と、新たなビジネスや技術の創出を目的としている。経済産業省によると、2022年3月時点で、およそ1,300人の外国人が、スタートアップビザによって在留資格を取得している。

4.他国における高度外国人材の活用

海外に目を向けると、米国、カナダ、オーストラリア、シンガポール等の国々が、積極的に高度外国人材を活用している。例えば、米国において企業が専門知識・技能を持った外国人労働者を採用するために利用されるH-1Bビザの2021年の申請枠は8万5千件であり(うち、6万5千件が一般枠で、残りの2万件が米国で高度な学位を取得した外国人留学生(マスターズ)枠)、単純比較は難しいものの、日本と比べてもはるかに多くの高度外国人材が米国で活躍していることは明らかである。

シンガポールも、積極的に高度外国人材活用に取り組む代表的な国の1つである。シンガポール政府は、高度な専門スキルを持つ外国人に対して優遇措置を与え、また、税制や労働法等も外国人材を積極的に受け入れるように整備されている。シンガポールは、人口に占める外国人労働者の割合が世界で最も高い国であり、シンガポール統計局データによると、2021年の同割合は37.4%にも上る。国土面積が狭く、人口も限られるシンガポールでは、従来高度なスキルを有する外国人を積極的に受け入れることによって、人材不足の解消と経済成長の促進を図ってきた。以下、シンガポールの高度外国人材受け入れ政策を紹介する。

Tech. Pass

Tech. Passは2020年1月に導入されたビザで、大手、または急成長したテクノロジー企業の創業者、リーダー、技術者を誘致するための在留資格である。Tech. Passの取得者には、兼業や取締役・顧問への就任、教育機関での講師といった広範な活動が認められ、当初の期限は2年間で、その間の活動の成果が一定の条件を満たす場合、さらに2年間の更新をすることができる。申請要件は以下の3つのうち2つを満たすこととされている。

  • 過去1年間の固定月給が20,000米ドル以上
  • 評価額5億米ドル以上、または資金調達額3,000万米ドル以上のテクノロジー関連企業で管理職(チームリード等も含む)の経験が5年以上
  • 月間アクティブユーザー数が10万以上、または収益が1億米ドル以上の技術製品の開発において、主導的な役割を果たした経験が5年以上

Overseas Networks & Experience Pass(通称ONE Pass)

ONE Passは、2023年1月に導入されたビザで、優秀で高収入なグローバルエリートを獲得することを目的としている。月給が3万シンガポールドル(約300万円)以上の人材が対象で、一定規模(時価総額5億シンガポールドル、年間売上高2億シンガポールドル)以上の企業での就労実績も要件となる。ただし、芸術やスポーツ、学術などの特定分野で高い業績を上げている人については、上記の要件にかかわらず申請が認められる。ONE Passの取得者は、ビザの有効期間が5年間に優遇(通常2年間)されるほか、兼業等も認められている。一方、ONE Passの保有者はシンガポール政府に対する活動報告を毎年行う必要がある。

補完的評価フレームワーク(COMPASS)

管理職や専門職向けの就労ビザであるEmployment Pass(EP)については、2023年9月1日以降、補完的評価フレームワーク(COMPASS)というポイント制に移行することが予定されている。COMPASSでは、(1) EP申請者の固定給与、(2) EP申請者の学歴、(3) 企業の幹部・専門職の国籍の多様性、(4) 企業の地元雇用創出への貢献の4基準で申請者が審査され、ポイントが付与される。さらに、AIやサイバーセキュリティ等の職種や、特定のイノベーションや国際化活動に携わる場合は、ボーナスポイントが加算される。

5.日本の方向性

では、シンガポールや米国、カナダ等の国々と、日本との違いは何であろうか。国際経営開発研究所(International Institute for Management Development: IMD)の世界タレントランキング20221によると、日本は、63ヵ国中41位であり、「外国の高度スキル人材」の項目では54位と、海外各国と比較して劣後している。一方、政策や企業による「人材の惹きつけと定着」、「管理職の報酬」といった指標の順位は、それぞれ4位、8位と、他国よりもかなり優れている。他方、日本の「国際経験」は63位と著しく低い。近年、日本では外国人留学生や起業家の受け入れに向けた制度整備が進められ、就労や在留に関する敷居は外国人受け入れに積極的な他国と比較しても実際には高くはないと言われる。したがって、日本で高度外国人材の活用が進まない理由は、政策や制度面以外の理由によるものと推察される。多くの日本企業は、言語・文化の違いによるコミュニケーションや外国人材の日本語能力の不足を、外国人材を採用する上での課題と感じており、シンガポールのような多民族国家や英語を母国後とする国々と文化・言語上の条件が異なる日本において、高度外国人材の受け入れを進めていくためには、こうした背景も踏まえた日本独自の取組みが必要となってくるだろう。
 

図表2 IMD世界タレントランキング(64ヵ国中の順位)

国名     日本 シンガポール 米国 カナダ
IMD世界タレントランキング 41 12 16 11
人材に対する「投資と育成」 37 27 15 20
人材を惹きつける「魅力」 27 13 4 12
 うち「人材の惹きつけと定着」 4 24 19 20
 うち「外国の高度スキル人材」 54 5 6 11
 うち「管理職の報酬」 8 4 2 21
人材活用の「準備度合い」 54 1 26 10
 うち「国際経験」 63 5 26 22

出所:IMD “2022 IMD World Talent Ranking”をもとにKPMG作成


最後に、日本における高度外国人材活用の事例として、宮崎市による「バングラデシュICT技術者雇用促進事業」を紹介したい2。宮崎市では、高度なICT(情報通信技術)人材を確保するため、宮崎大学や市内企業等との産学官連携により、バングラデシュICT技術者と市内企業とのマッチングに取り組んでいる。本プログラムでは、日本での就職を希望する若いバングラデシュICT技術者に対し、日本語教育プログラムや宮崎の企業へのインターンシッププログラムを提供し、プログラム修了後にバングラデシュICT技術者は宮崎の企業へ就職するという人材育成・教育モデルになっている。また、宮崎市は、宮崎の企業のバングラデシュ進出や新規事業創出の支援にも取り組んでいる。このモデルにより、2017年以降ICT人材を265人育成し、186人が日本企業、うち54人が宮崎県内に就職しているほか、2019年以降に市内に立地したICT企業のうち3社(予定含む)は、このモデルを利用するために宮崎市を選定するという成果も出ている。この事例のように、国際協力や地方の産業振興と活性化とも組み合わせた、日本の独自性を発揮した高度外国人材受け入れとオープンイノベーションの取組みを推進していくことが、日本経済・社会の今後の成長の1つの鍵となろう。

日本における今後の具体的な取組みとしては、政府による研究開発助成、減税、国際連携の推進、関連する技術を有するスタートアップの育成・支援などが考えられよう。政府財源に限りがある中、グローバルな視野での産業競争力を強化するため、戦略的な予算配分が求められる。

IMD “2022 IMD World Talent Ranking

内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務「地方創生に資する地方公共団体の外国人材受入関連施策等について」(2022.3)

執筆者

KPMGジャパン ガバメント・パブリックセクター
マネージング・ディレクター 柏木 健志
マネジャー 濱田 正章